蜷代%縺?ヲ九★縺ェ蜈?--SYSTEM ERROR:[向こう見ずな光]
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◆◆◆
森の奥には悪魔がいる――
アコン村の子供が親から口酸っぱく教えられるしきたりの一つが『子供だけで森の奥に入ってはならない』というものだった。
もし森の奥まで入ってしまったならば、
――悪魔に取って食われるぞ。
――悪魔は食べた子供に化けて、次に親を食べるのだ。
――悪魔が立ち去った村に生きている人間は一人もいない。
子供を脅す怪談としてなら極上だ。痛い目を見るのが本人だけならまだしも、親や村の人たちにも被害が及ぶとなれば軽々しく禁を破ることができなくなる。
だが、悪知恵がちょっとでも働く悪童からすればそんな脅しは悪戯心を刺激するだけの燃料にしかならなかった。
年長者のガレロが旗を振り、子供たちだけで森への冒険に出掛ける。
今日こそはと意気込むのはガレロのみで、子供たちの多くは親の言いつけを守って森の入り口付近で花や虫の採集に興じていた。
「ちっ、どいつもこいつも意気地がねえな! いるかどうかもわかんねえ悪魔の何が恐いってんだ。ここまで来て森を探検しねえとかありえねえよな! なあ、ハルス?」
ガキ大将のガレロは子分たちの軟弱ぶりを嘆いた。同意を求められたハルスは苦笑するしかない。
最近のガレロはちょっと苦手だ。探検だとか悪魔は恐くないだとか、言うことがいちいち子供じみていて時々ついていけなくなる。でも、言動自体は今も昔も変わっていないから、たぶんハルスの心だけが成長したのだろう。
「ま、まあ、みんなまだ幼いんだし、森に入るのは僕たちだけでいいんじゃない?」
「おっ? さっすがハルスだ! 男ならそうでなくっちゃ! よし、じゃあ行くぞ! 今日こそは森の奥にあるっていう悪魔の住処を見つけ出そうぜ!」
「は、ははは……」
実を言えば、ハルスも森が恐かった。しかし、兄貴分のガレロにそれを悟られたくなかった。
このときハルスは十三歳になったばかり。大人に憧れ幼稚な自分に嫌悪する、至って健全な思春期を迎えていた。
ガレロに馬鹿にされたくなかったし、同伴しているリリナにも格好悪いところを見せたくなかった。どんなに恐くても意地を張るしかなかったのだ。
「ちょっと二人とも! 森に入っちゃ駄目って言われてるでしょ! 待ちなさいよ!」
案の定、リリナが止めに入った。正義感の強いリリナがガレロたちの勝手を許すはずがない。
しかし、ガレロとハルスはその声を無視して森に入っていく。
「もう! おじさんたちに言いつけるから!」
幼い子供たちの引率係を一手に引き受けているのでさすがに追っては来られないようだ。リリナの捨て台詞を背中に受けながら、ハルスは先行するガレロの背中に懸命に追いすがった。
「ガ、ガレロ! 足、速いって! 置いてかないでよ!」
一歩ずつ森が深まっていく。ギャアギャアと鳴く鳥はきっと魔物に違いなく、いまガレロを見失ったら一斉に襲い掛かって来る気がしてならない。
「何言ってんだ! ワクワクすんだろ! へっへっへっ、悪魔もいるなら出てこいってんだ! この勇者ガレロ様がぶっ飛ばしてやるぜ!」
「あ、危ないよ! もし何か飛び出してきたらすぐに引き返そう!」
「心配すんなっての! 俺たちならやれる! 俺とハルスが揃ったら向かうところ敵なしだぜ!」
どうしてそう自信たっぷりに言えるのか。百歩譲って体格の大きいガレロならたとえ獣に遭遇しても万が一にも追い払えるかもしれないが、そこにヒョロヒョロのハルスが加勢したとて何の戦力になるだろう。鬼に金棒どころか良くて足枷、ガレロを置いて逃げ出すのがオチとしてなら一番ありえそう。
それに、森の危険はそれだけじゃない。遭難して帰れなくなるのが最も不味い。
ずんずん先に進むガレロにハルスの不安はいや増していく。
うっかり木の根に躓いてしまった。転んで立ち上がったときにはもうガレロの姿は木々の合間に消えていた。
「ガ、ガレロ? 待ってよ、ガレロ! おーい! ガレロ!? どこ!?」
右を向いても左を向いても見えるのは鬱蒼とした木々の檻。視界が悪い上に、突風が梢を揺らすものだからガレロの足音まで見失う。
それどころか態勢を崩したことで前後が曖昧になり今辿ってきた道順すらわからなくなった。どこを向いても似たような景色。方角が掴めず、ハルスは完全に迷子になった。
(まずい……! 遭難が一番まずい……! とにかく戻らなくちゃ!)
勘を頼りに来た道を戻る。行きと帰りでは見える景色が違って当然なのに、木の裏側を見て〝来るときこんな木はなかった!〟と決めつけて右往左往。次第に方向が反転していって、不本意にもハルスは森の奥へと進んでいく。
どれだけ歩いただろう。やがて、古びた小屋に辿り着いた。小川の脇に建てられたあばら屋で、軒下には蜘蛛の巣がびっしりと張り巡らされていて何とも異様な雰囲気だった。
悪魔の住処に違いない……そう思った。
ここが目的地なら、どうしてガレロの姿は見えないのか。なぜ自分が先に見つけてしまったのか。ガレロはここを目指していたのではないのか。ウロウロしていた自分よりも先にガレロが到着していなくちゃ辻褄が合わない。
――さてはガレロの奴、僕がいなくて恐くなって逃げ出したんじゃないか? 今頃は森の外に出ていてリリナたちと一緒に村に帰ったんじゃないか? 僕だけを置いて、僕を悪魔の生贄に捧げて、偉そうなことを言っておきながら自分は安全な場所へ一足先に逃げていったんだ! そうだ! 絶対そうに決まってる!
寂しさを怒りの感情で抑え込む。そうでもしなければ今にも恐怖に呑まれてしまいそうだったのだ。
暗がりでよく見えなかったが、目が慣れるに従って小屋の細部が明るみになった。
入口の戸板が少し外れている。その地面に大きな黒い染みが広がっている。雨上がりの水溜まりのようにも見えるが、ここ数日間雨は降っていない。
じゃああの水溜まりは何だ?
それにこの鼻を突くような異臭は一体……
嫌な予感がしていた。もうハルスにはそれが血溜まりであることがわかっていた。つい最近、ここで誰かが襲われたのだ。あの出血量だ。きっと襲われた誰かはもう生きてはいまい。
きっと今も……あの小屋の中では悪魔が食事をしているに違いなかった。
「はあ、はあ、はあ、はあ……!」
すぐにも絶叫しながら駆け出したかった。でも、頭の端っこで微かに首をもたげた理性が静かに衝動を押さえつける。
万が一にも……そう……たとえごくわずかな可能性であったとしても……
実はガレロは先に小屋に到着していて、鉢合わせした悪魔に襲われたのだとしたら……
あの血溜まりがガレロの血で、それでもまだ生きているのだとしたら……小屋の中に囚われているのだとしたら――助けられるのは今ここにいるハルスしかいないのではないか。
悪魔を倒そうなんて威勢のいいことは言わない。隙を見てガレロを開放し一緒に逃げることくらいならできるのではないか。
一旦そう思い込んだら、それ以外の選択肢が消えてしまった。
あとはいつ動き出すかだ。
足が竦む。喉が渇く。頬が引きつり、自然と涙がこぼれた。
恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い……!
一歩を踏み出すだけでも途方もない勇気が要った。でも、こうしてウジウジしている一分一秒がガレロを死へと近づけているかもしれなかった。
奮い立たせろ!
勇気を……!
〝俺たちならやれる! 俺とハルスが揃ったら向かうところ敵なしだぜ!〟
(ガレロ!)
脳裏に浮かんだ言葉を信じて足を前に出した。血溜まりは見ないようにして、己を鼓舞するようにわざと足音を立てながら、半ばやけっぱちになりながらも入り口に駆け寄り、外れかけの戸板を思い切りこじ開けた。
「ガレロ! ……あ、れ?」
中には誰もいなかった。悪魔の姿もないし、血塗れの死体もどこにもない。
水汲み桶に、斧や鉈といった伐採用具に、積み上がった土嚢袋。所狭しとあらゆる道具が収納されていた。
「な、何だ……。ただの物置じゃないか」
拍子抜けしたのも束の間、いつのまにか背後に立っていた誰かに肩を叩かれた。
「うわああああ!」
「おおっ!? どうしたどうした! 何かあったのかよ、ハルス!?」
ガレロだった。顔中汗だくで体中泥で汚れているが、これといって怪我をした様子はない。いつものガレロだった。
ハルスはへなへなとその場に尻もちをついた。腰が抜けたのだ。こちとら本気で心配したのに当の本人は何事もなくカラッと笑っているのだからそりゃ脱力もする。
「ん? おわ、何だこの血は!? ――って、こりゃイノシシの血か? あ、そっか。そういや昨日、猟師連中が村のみんなに猪肉を振舞ってたっけ。あれ、ここで解体したんか」
「あ」
そういうことか。確かにここならすぐそばに川があり解体作業もやりやすい。というより、仕留めた獲物を解体する作業場としてこの小屋が建てられたと見るのが自然だろう。
何が悪魔の住処だ。完全に騙された。
「でも、ガレロが無事でよかった」
「あ? 俺が無事って何のことだ? 俺はここからずっと下流のとこから登ってきたんだ。ここに納屋があるの知ってたからさ。一旦ここを拠点にしようかと思って。けど、倒木があちこちあったり地面が崩れかけてたりで着くまで大変だったぜ。おかげでこのざまだ」
ガレロはガレロで悪路を進んでいたらしい。口ぶりからするとハルスの心配はしていなかったようで、それが少しだけ面白くなかった。ガレロから誘っておいてちょっと無責任すぎやしないか?
知らず頬を膨らませていると、ガレロは何事か気づいてにんまり笑った。
「……ははあ。そういうことか。おまえ、この納屋が悪魔の住処か何かと勘違いしたな? んで、はぐれた俺がここに囚われているんじゃないかと思ったわけだ。俺を助けようと納屋に押し入ったのに、俺が普通に登場したもんだからむっとしてるんだ」
「な、何でわかるの!?」
「だっはははは! そりゃ顔に全部書いてあるし! ハルスは相変わらず隠し事が下手だよなあ!」
自分ではそうは思わないが、ここまで正確に言い当てられてはもはや反論のしようもない。
そして、壮大な勘違いをしていた自分が急に恥ずかしくなった。悪魔の住処も大量の出血も単なる思い込みで、囚われていたはずのガレロには後ろから驚かされる始末。迷子になった末の空回りであることも情けなさに拍車を掛けていた。
泣きたい。いっそ穴に埋めてほしい。
「おい、どうした? なに凹んでんだよ? よかったじゃんか、悪魔がいなくて。――あっ、そうか! わかったぞ! おまえ、本当は悪魔と戦いたかったんだな!?」
は? 目が点になる。何を言っているんだこいつは。
ガレロはうんうん頷くと得意になって、
「悪魔をぶっ倒すくらいのことしないと英雄にはなれないもんな! 倒すべき敵がいて初めて勇者になれるんだ! わかる! わかるぜ! 俺もハルスと同じ気持ちだもんよ!」
まったく思ってもいなかった気持ちを代弁してくれた。
……そうか。だからガレロはこんなところまでやって来たのか。村の大人たちが(たぶん)作った怪談の悪魔に縋ってでも武勇伝がほしかったのだ。
少しでも勇者に近づくために。
「へへっ。嬉しいぜ、ハルス。俺たち、昔から勇者になりたいってよく言い合ってたもんな。まだ同じ夢を持っててくれてたなんて、さすが親友!」
屈託なくそう言い切れるガレロが眩しくて直視できない。
目を逸らすようにハルスは俯いた。
「僕にはそんな大それたこと口にできないよ」
「あ? 何言ってんだ? 昔よく言ってたじゃんか? 一緒に英雄ハルウスごっこしながらさ! いつか英雄になるんだって! 勇者になろうぜって! おいおい、忘れたとは言わせねえぞ」
言わない。むしろ忘れたくても忘れられない。そのせいで理想と現実のあまりの落差に自己嫌悪してしまっている。
大きすぎる夢を口にできるのは子供だけの特権で、憧れは成長とともに萎んでいくことをハルスは学んだ。
特別だった自分はもういないのだ。
ここにいるのはどこにでもいる十三歳の未熟者。虚しくなるから、勇者になりたいなんてもう口が裂けても言えなかった。
「だって僕はガレロみたいにケンカが強くないし、体だってこんなガリガリで。勇者だなんて、口に出したら笑われるだけだよ」
理想どおりの姿になれない自分が歯痒くて、恰好悪くて、もどかしくて。
大口叩いていた過去の自分を今すぐにでも消し去りたかった。
「バカみたいじゃん。僕なんかが勇者になんてなれっこないよ」
とっくに諦めているというのに、いつまでも変わらずにいるガレロが昔の自分と重なって見えて殊更憎らしく思えた。
いい加減大人になってしまえと思う。でも――
どうしてガレロは変わらずにいられるのだろう。
「なあハルス、おまえ何か勘違いしてねえか?」
「え?」
どこか呆れたような調子でガレロは左右に首を振った。
「おまえが俺よりケンカが弱いのは当然だろ? 俺のほうが年上なんだし、親父に無理やり仕事付き合わされて体鍛えられてっしよー。こんなの別に俺が望んで手に入れたもんじゃねえっての。何の自慢にもなりゃしねえよ。それにさ、知ってるか? 勇者ってのは〝勇気ある者〟って意味なんだぜ」
その言葉を生まれて初めて聞いたというふうにハルスは繰り返す。
「勇気……ある者」
ガレロはにっかり笑うと大袈裟に両腕を広げた。
「おまえ、俺を助けようとしてくれたんだろ! めちゃくちゃ勇気あるじゃん! すげえよ、ほんと! 森に入るのもあんなに恐がってたくせにさ!」
「恐がってたって、し、知ってたの!?」
「バレバレだっつーの。大方、リリナにいいとこ見せようとしたんだろうけど、たぶんあいつには逆効果だぞ。あいつはどっちかっていうと真面目な男が好きなんだ。親の言いつけ破るような奴は嫌いなはずだ」
「ええ!? そ、そんなっ」
臆病者は女に嫌われる。特にアコン村では丸太を一人で抱えられるような力持ちがいい男とされてきた。そういうのには決してなれないとわかりきっているので、せめて態度だけは強がって見せていたのだがまさか逆効果だったとは。これもまた思春期特有の自意識過剰が招いた失態だが、カッコイイと思ってしていたことがことごとく痛々しいものだったと気づくのはもう少し先の話である。
「強いってのは意地を張ることじゃねえんだ。もちろん腕っ節のことでもねえ。大切なのは体じゃなく心根だぜ。おまえは自分が弱いってわかってる。それなのに俺を助けようとした。それはたぶん俺にもない強さだ」
「ガレロ……」
「自信を持てよ、勇者ハルス! 俺はおまえのことすげえって本当に思ってるんだぜ?」
あまりにも真っ直ぐな言葉がハルスの胸を衝く。ガレロは、ハルスがおこがましいと捨てたはずの理想を片時も離さずに邁進してきた。その言葉には確かな重みがあった。嘘や慰めではないとわかる。ガレロは正真正銘、ハルスを勇者であると認めてくれているのだ。
「勇者ハルス、か」
自らを卑下して、大人になったフリして諦めて、それを逃げじゃないと自分に言い聞かせた。
でも、憧れは止められなかった。
ガレロがいる限り目について諦めさせてくれそうになかった。
ほんと、迷惑な兄貴分だ。
「ほら、立てよ」
差し出された手に引っ張り起こされる。
大きな手だった。間違いなくガレロはもっとでかい男に成長していくだろう。
追いつけるだろうか。
「僕も強くなれるかな?」
「なるんだよ。俺たちの物語はこれからだ! ここからだ! そんで、いつか俺とハルスで英雄になるんだ! 国を救うような偉大な英雄にな!」
「それは大きく出すぎじゃない? 僕たちただの村人なのに」
物語に出てくる英雄は決まって王や姫君に仕える騎士様だ。
「そんなことねえさ。どんな英雄だって始まりは大抵名も無い村人からだよ」
(そうか……これからなんだ。僕も)
二人で森を出る。リリナに小言を言われ、村に帰ったら事情を知った親から大目玉を食らったけれど、ハルスに後悔はなかった。
まるで悪魔が成り代わったかのようにハルスの顔つきは変わっていた。
相変わらずコンプレックスは尽きない。でも、ウジウジ悩むのも馬鹿らしいと吹っ切れることを覚えた。
それもこれも全部ガレロのおかげだ。
ハルスを悪戯や冒険に連れ出すその後ろ姿を追いかけながら、思う。
(ガレロ……君のほうこそ間違いなく勇者だよ。〝勇気を与えてくれる者〟――いつだって僕に勇気をくれるんだ)
口には絶対しないけど。
心の中で「兄貴」と呼び慕っているその人は、憧れるには十分すぎるほど大きな背中をしていた。
(髫?縺励す繝翫Μ繧ェ 了)
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