幹部シナリオ⑨『黒の剣と暁の空(黒騎士アディユス)』
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最果ての島……、不毛の大地……、魔族の墓場……
様々な呼び名があるこの土地は、神が最初に魔族を追いやった呪わしき場所であり、皮肉にも人魔大戦にて押され気味の魔王軍の避難先として活用された。
魔王城の物見台に出たアディユスは東の空に視線を向けた。今は明け方。太陽が昇り始める時刻だ。
しかし、常に曇天に覆われた最果ての島に陽の光が差し込むことはなかった。朝日を拝めるのは人間が住まう大陸だけ。この土地が不毛なのもそれが理由であった。
アディユスにはむしろこの曇天こそ好ましい。
夜ほどでないにしろ、日中でもなお薄暗い世界なら余計なものが目につかなくなる。眩い中では濃い影は浮き彫りになってしまうが、ここでなら埋もれたままだ。
全身に黒色の武具をまとったこの男にとって仄暗い空気には馴染むものがあった。多くの魔族はこの島から脱出したいらしいが、アディユスにはその神経のほうがわからない。こんなにも美しい大地であるのに。
しばらく遠景を眺めていると、背後に巨大な気配が現れた。
『おまえはいつもここに来るな。アディユス』
「魔王――様」
ローブで覆い隠されて顔こそ見えないが、魔王は肩を震わせてかすかに笑った。
『無理に様を付けずともよい。おまえだけは好きに呼んでも構わん』
おそらくアディユスの出自について思うところがあるのだろう、魔王は何かとアディユスには甘かった。その態度はあまり面白くなかったが、さして敬う気持ちもないのでありがたく無礼を貫いた。
「……では、魔王よ。私に何用か?」
よく物見塔に上るアディユスはこのときまで魔王とここで会ったことがない。黎明の時分であることも考慮すれば、気まぐれにこの場に来たとは思えない。アディユスに会いにきたのは明白だった。
『何を見ていた?』
「何も。強いて言うならこの不毛の地のありがたみを噛み締めていた。まさかそんなことを聞くためにわざわざ来たのではあるまいな?」
『ククク。そんなにもこの地が好きか? 物好きなことだ。魔族の悲願は大陸への帰還だ。神によって造られた我らの故郷もまた海の向こうのあの陸地。人間だけのものではない』
「私からすれば物好きは貴様ら魔族だ。人間によって汚されたあの場所に帰りたいなどと理解に苦しむ」
大陸は、魔族の血を受け継ぎながら人間の許で育ったアディユスには何の魅力も感じなかった。忌まわしい過去がつきまとう分、できることなら二度と足を踏み入れたくない。
嫌な記憶が思い出されて顔をしかめるアディユスであったが、魔王へ向き直ると皮肉げに口角を吊り上げた。
「もっとも、その悲願もまもなく潰えそうではあるがな。一つにまとまった人間たちがこうまでしぶといものとは思わなかった。浅ましく、生き汚い人間らしいと言えばそれまでだが」
長きに亘る戦いに先に音を上げ始めたのは魔族のほうだった。早いペースで世代交代を迎える人類は長寿の魔族よりも進化が速く、勇者の台頭によってさらに勢力を拡大させた。もはや追われるだけの魔族にここからの巻き返しは絶望的であった。
「今後の戦略について意見を求めるつもりだったのなら当てが外れたな。いくら私でももうどうすることもできん。人間は強い。強かった。じきにこの地にも攻め込んでくるだろう。我らにもう逃げ場はない。おそらくこの戦争もそこで終わる」
安易に予想しうる展開だったが、この予言は遠くない未来に実現する。アディユスたち幹部は勇者に討たれ、魔王は『魔封鏡』に封じられることになる。
『であろうな。余も同じ結末に思い至り憂慮していたのだ。おまえに会いに来たのはこの憂いを少しでも和らげたいと思ったからだ』
「魔王らしからぬことを。何だ、私が慰めの言葉を掛けるとでも思ったか?」
失笑するアディユスから視線を外し、魔王は曇天の空を仰いだ。
『アディユスよ。おまえの悲願とは何だ?』
「決まっている。神を殺すことだ」
間髪入れずに即答した。
「それまでは死んでも死にきれぬ」
言葉にした途端、アディユスの黒鎧から闇のオーラがあふれ出た。
『フフッ。安心したぞ。それでこそ〝黒騎士〟よな。余のほかに〝闇の波動〟をこうまで自在に扱える者は限られる。おまえにその力の使い方を実践形式で伝授しよう』
そう言うと魔王は、両足を肩幅に広げ、両手を真横に伸ばした。地面から生え出た影が全身に絡みつき、手足と胴体に漆黒の具足をまとわせた。
「は、波動を武器に変えた……だと!?」
『今は亡き忠臣が得意としていた業だ。おまえなら修得できよう』
「……まさか修行をつけに来たとは思わなかった。しかし、今さら新たなスキルを身に付けたところでこの状況を打開できるとは思えんぞ?」
『それでもよい。余が見通しているのはさらに先の未来。何度敗れようと余は再び復活しよう。魔王軍は必ず再起しよう。そのとき、余の〝右腕〟として軍を率いるのはおまえだ』
「……〝右腕〟」
『そうだ。おまえは余に並び立つに相応しい存在だ』
人間の世界にも魔族の世界にも居場所がなかった。
どちらもアディユスを弾くというのなら、そんな世界は要らない。
そう思っていた。
「そこが私の居場所だと言うのだな……」
アディユスは鞘から剣を一息に引き抜いた。
「では、私を真に従えたくば、まずは器量を見せるがいい。私はすでに見せたぞ」
刀身まで黒色に染まっていた。闇の波動をまとわせた黒剣を見て、魔王は感嘆した。
『おお……っ。やはり余の目に狂いはなかった。一目見ただけで《闇衣》を完成させるとは……! 光差し込まぬこの地において、おまえの剣はまさに暁光……! その力で世界を果てまで照らすがいい!』
「っ! この剣で世界を作り変えろと言うか……!」
考えてもみなかった。世界を再構築する未来など……
悲願の形が変わる。見たい景色が一つ増えた。
「面白い! ならばその未来、このアディユスが必ず実現してくれる!」
『来い!』
二つの闇の波動がぶつかり合い、最果ての島に黒い稲妻が降り注ぐ。
まもなく第一次人魔大戦が終結する――。だが、二人が交わした剣戟は遥かな時を越えた復活と再起を約束するものであった。
(幹部シナリオ⑨ 了)
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