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VS剣姫アテア⑩ 終戦


 辿り着いた〝壁〟を見上げながら崖に沿って馬を走らせる。


 勇者と魔王軍が戦っているのはこの裏側だ。乗り込むには端から迂回するか天辺から乗り越える必要がある。


 もっとも、戦場に乗り込むつもりがないアニは〝壁〟の中央辺りで馬の速度を落とした。同伴するハルスも馬上でいつまでも〝壁〟を見上げ、途方に暮れていた。


「この向こう側で王女と魔王が戦っている……。アニ、どうするんです? どこかに向こう側に通じる横穴はないんですか?」


「そんな穴はないが……、何だハルス、魔王のところに行く気か?」


「も、もちろんですっ。そのための準備もしたんですから。今さら後に退けません!」


「そうか。やる気があるのは結構だが、まずはヴァイオラたちと合流しなけりゃ始まらん。わざわざここまで運ばせたあの荷物を引き取らなきゃだしな。だろ?」


「そ、そうですね! それで、陛下たちは今どこに?」


「上だ」


「上? ――ああ、〝壁〟の天辺にいるんですね? 確かにそこなら安全だ。でも」


 改めて見上げた〝壁〟の高さに頬を引きつらせた。標高およそ100メトル強。高すぎるとは言わないまでも身一つでよじ登るにはあまりに険しい絶壁である。勇者ならともかく、身体能力が一般人と同程度のハルスでは登頂する前に力尽きるか滑落するだろう。


「どうやって上まで登ればいいんだ……?」


「どうやらその必要はなさそうだぞ。見ろ。迎えがきた」


 アニとハルスの許に馬が一頭駆けてきた。


 手綱を握るのはリンキン・ナウトだった。


「占星術師殿、お待ちしておりました!」


「リンキン・ナウト、生きていたか」


「ええ、なんとか。代わりに、魔王軍には『第一層』を抜かれてしまいました。私は生き延びるのに必死で早々に戦場から離脱しておりました」


「……悪かった。汚名を着せたな」


「いえ、ここが死に場所ではなかった。ただそれだけです」


「ご無事で何よりです。千人隊長殿」


 ハルスがそう声を掛けると、リンキン・ナウトは首を横に振って苦笑した。


「隊長と呼んでくれるな。隊が滅んだ今、私はもう何者でもない」


 実際に戦争に参加した者の口からこぼれた「隊が滅んだ」という言葉にハルスは少なからず動揺した。ここはすでに戦場の真っ只中――にもかかわらず、〝壁〟によって視界が遮られているためにその事実がどうしても信じられなかった。


 本当に魔王軍はいて、今も王女と戦いを繰り広げているのだろうか。大将である剣姫アテアが出陣しているということは、最前線にいた王国軍が破れたことを意味している。リンキン・ナウトもさっき「抜かれた」と口にした。そんなもはや崖っぷちと言ってもいい状況であるというのに少しも実感が湧かなかった。心が浮足立って仕方がない。


「ケイヨス・ガンベルム殿は?」


 リンキン・ナウトのその問いに、今度はアニが首を左右に振る番だった。


「そうですか……。あの御仁も最後まで頑固でありましたな。貴方と英雄ハルウスに執着しながらそのまま逝かれるとは」


「……それより、今の戦況を教えてくれ。アテアはどうなった?」


「状況は芳しくありませんな。背中を狙い撃ちされてからは追い込まれる一方で……。幕引きも時間の問題かと」


「そんな……っ」


 絶句したのはハルスだった。また、冷静に報告するリンキン・ナウトに懐疑の念を抱いたようだ。そこまで見ていてどうして加勢に入らないのか、という反発したい気持ちが顔に現れている。


 だが、リンキン・ナウトにも事情がある。アニの指示で身を隠し戦いの推移を監視する役目を担っていたこともそうだが、アテアは魔王軍に一人で立ち向かうことを望んでいたし、『第一層』から逃れられた幸運に意味を見出すならここは死に場所ではないということになる。最終決戦に参戦するわけにいかなかった。


「背中を襲われたってことは、アテアは《ライトニング・スマッシュ》を撃たされたのか? その相手は鬼武者ゴドレッドじゃなかったか?」


 まるで一部始終を見てきたかのようなアニの言葉にリンキン・ナウトは目を見開いた。


「……驚きましたな。それも星読みの予知ですか?」


「いや、ただの予測だ。アテアが〝壁〟から遠ざかるとしたら一番ありそうな展開がこれだった」


 つくづく妹と思惑が一致する。


(……まあ、あいつの行動を見てたらここまでの予測はそんなに難しくなかったけどな)


 早いうちにナナベールを仲間にしたことから錬成に力を入れようとしていることはすぐにわかった。そして、妹もアテアの強さとそれを覆す致命的な弱点の存在を知っているので、〝壁〟かそれに近しい障害物を背にすることは予測できただろう。その対策に【復活の腕輪】を用意することは十分に考えられた。


 防御力の高いゴドレッドに【復活の腕輪】を装備させて《ライトニング・スマッシュ》でなければ倒せないと思わせる。挑発に乗ったアテアは大技を繰り出しまんまと〝壁〟から離れさせられたというわけだ。


 アニは、くっ、と笑みをこぼした。


「安心したぜ。全部予定通りだ。ハルス、おまえの出番は近いぞ」


「た、戦う準備はとっくに出来ています! 早くアテア王女を助けに行きましょう! このままでは殺されてしまいます!」


「その点は心配するな。アテアを助ける役目は別の奴に任せてある。アテアは殺させない。正規版でも戦闘不能に陥るが死ぬ展開にはならなかったからな。――リンキン・ナウト、例の木箱を載せた馬車は?」


「〝壁〟の端に停車させています。魔族に見られて襲われでもしたら事ですからな。魔導兵の子供に造らせた岩窟に隠してあります」


 ルーノの仕事なら間違いないだろう。運ばせた六つの木箱は無事回収できそうだ。


「仕掛けるぞ。アテアと魔王軍の戦いが決着したタイミングを見計らう。今度はこっちが奴らに一泡吹かせる番だ!」


 リンキン・ナウトは頷き、ハルスは緊張に顔を強張らせた。


(――バカ妹。おまえは俺が直々に殺してやるけどその前に、ハルスがネクロマンサーになったことで思いついたイタズラを見せてやる。大いにコケにしてやるからもうちょい待ってろ)


 馬車を隠した岩窟まで移動し、木箱を回収した。


〝壁〟を迂回し、遠くからアテアと魔王軍の戦いを見守る。劣勢のアテアがここから挽回する芽は見えない。アニたち三人は戦いが終わるその瞬間を今か今かと息をひそめて待ちつづけた。


◇◇◇


 そして、ついにそのときは訪れた。


 リーザの《バロスラッシュ/気斬》がアテアの背中を切り裂き、風圧で吹き飛ばした。その瞬間、ババーン! という激しい効果音と、白い光が明滅するエフェクトが画面いっぱいに広がった。ボスキャラを倒したときの演出だ。


――――――――――――――

 剣姫アテアをやっつけた!

――――――――――――――


 いやあ――……、チョー苦戦した。


 アテアの背中を取って幹部で囲ってボコって――まではよかったんだけどね。楽勝かと思ったら、どっこいアテアはやっぱり強かった。


 アテアを倒すのに何ターン費やしたかわからないし、逆に魔王軍幹部が何人も瀕死になりかけたし。回復が間に合わなくて危うく仲間を失いかけたりもした。


 アテアの範囲攻撃。偶に見せる会心の一撃。カウンター攻撃に、背中向きなのになぜか発動するダメージキャンセル。自動回復のパッシブスキル――最後の最後まで攻守において一切隙がない最強の勇者だった。


 っとによー。最初から〝壁〟が無かったとしても強かったんじゃねーの?


 正々堂々やってたら、白熱した最高のバトルになってたかも……


 って、ゴドレッドじゃあるまいし。今の無し無し。


 とにかく! 剣姫アテアを撃破した!


 第五ステージクリアだ!


 まあ、なかなか達成感はあるんだけど、腑に落ちない点もいくつか。


 ねえ、お兄ちゃん。第五ステージのバトルフィールドにいなかったよね?


 それらしい奴まだ見てないよ? まさかアテアがお兄ちゃんだった? それとも別のキャラクターだったのを気づかないうちに殺しちゃった? そんなー。そういう冷めるようなポカはやめてほしいんですけどー。


 ……やっぱりまだ出てきてない、よね?


 でも、終わっちゃったよ? 第一章の最終ステージ。ケンカするならここが割と最適な舞台だったと思うんだけどな。


 ゲーム画面ではメッセージウィンドウに『剣姫アテアをやっつけた!』という文字が表示され、ボタン入力を待っている。このまま決定ボタンを押せば第五ステージは完全に終わってしまう。きっと第一章のエピローグにストーリーが進んでいってしまうはずだ。


 本当にこれでおしまい?


 いいの? ボタン、押しちゃうよ?


 ――えい。


 決定ボタンを押した瞬間、バグったみたいにゲーム画面にノイズが走り、合わせて気持ち悪い不協和音が鳴り始めた。


 え? え? え? 何コレ? いきなりホラー演出?


 やめてよ。こういうの趣味じゃないってのに。


「あ」


 完全に不意を突かれた。


〝壁〟の上から【魔導兵】がタンッタンッと岩壁を蹴って降りてきて、倒れているアテアを抱えてあっという間に画面の外へと消えていった。


 アテアを連れて行かれた!?


「ちょっ!? おい!? まさかアテア復活するとかそういう展開じゃないよね!? ここからさらに連戦とか体力的に無理だから! つーか、どうなってんのよ! エピローグじゃないわけ!?」


 メッセージウィンドウは空白のままウンともスンとも言わない。決定ボタンを何度押しても画面上は止まったままだ。唯一救いだったのは魔王軍側のデフォルメキャラたちがその場で足踏みを続けていること。ゲームがフリーズしているわけじゃないのがわかる。


 じゃあ、この不気味な間は一体何なのよ?


「本当にフリーズしてないんだよね? バグってないよね? 仕様だよね? ね? ――ねえってば! おーい! ナナベール! リーザ! ゴドレッド! お兄ちゃーん! 誰か何とか説明しろっての! 一体いつまで待たせんの!? ちょっとくらい反応してよ! てか、BGM消すのやめて! 無音すぎて怖いわ! ねえ! マジでこういう演出やめてよ! 不安になるからあ!」


◆◆◆


「――動いた!」


 ジャンゴが〝壁〟の天辺から降下してきたのが見えた。横たわるアテアを脇に抱き上げて一目散に離脱した。


 アテア回収完了。


(これでようやく――)


「ようやく第五ステージが終了しましたわ! ここから先はエクストラステージですわね! お兄様!」


「レ、レミィ!? おまえ、今までどこにいた!?」



―――――――――――――――――――――――――――――――

 第五ステージ『リームアン平原~アンバルハル王国最終決戦~』

 ―第三層― 終了


 勝利 魔王軍

 敗北 剣姫アテア

―――――――――――――――――――――――――――――――


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