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VS剣姫アテア⑨ 反転


 ゴドレッドの斧スキル《鬼惨大割殺》が炸裂した!

 剣姫アテアに大ダメージを与えた!

『413』



「――――っ!!」


 アテアの甲冑を破壊し、骨身を斧刃が抉っていく感触が、ゴドレッドの正気を戻した。我に返ったときにはもう後の祭り。その鬼火を宿した瞳は、直前まで健闘を称え合っていたはずの好敵手の血しぶきで塗り潰された。


(我は死んだはず――。なぜ……、なぜ生きているのだ?)


 そして、どうして最強と謳われた剣姫がこうも易々と背中を取られているのか。臨死から復活したばかりの思考ではただただ疑問ばかりが浮かんで消える。何もかも現実感がなかった。まるで夢を見ているかのよう。


 だが、この肉を引き裂く感触は現実だ。血の臭いも。戦火が刻んだ惨憺たる光景も。


 地面からにょっきと生え出したのは魔王様の側近のアーク・マオニーだった。よく見れば三体揃って自身の肉体である影をアテアに伸ばし、その両手両脚を拘束していた。ゴドレッドの攻撃が芯を捉えて直撃したのもそのせいであったのだ。


 背中から仕掛けられたらアーク・マオニーの影にさえ捕まってしまう極端な脆弱性。弱点という形容も決して大袈裟ではなかった。〝壁〟をこしらえてまで死守していたのも納得だ。背中の守りを欠いたというだけで『最強』はもはや打倒しうる強敵に成り下がっていた。


 たたらを踏んだアテアが振り返る。《眼光》でアーク・マオニーの《錠前》を解き、ゴドレッドに苦い顔つきを向けた。


「……驚いた。まさかこんな奥の手を隠し持っていたなんて。死んだフリに騙し討ち。およそ『正々堂々』や『尋常なる勝負を』なんて口にしていた戦士のするようなことじゃない。君は戦士じゃなかったってことだね。うん。魔族を信用したボクがバカだった。騙されたボクが間抜けだった話」


 ゴドレッドは言葉を失くした。どんな言い訳も弁明も口にすればますますアテアからの軽蔑の念が強まるだけだと悟ったからだ。また、ゴドレッド自身もそんな無様を晒したくなかった。


 知らなかったとはいえ、自由意志がなかったとはいえ、死んだフリと騙し討ちをしたのは事実。この上みっともなく己を正当化しようものなら恥の上塗りである。そこまで卑小に堕ちたくなかった。慚愧のあまり血がにじみ出るほどに強く強く拳を握りしめた。


「もうボクは君を強者とは思わない。君たちまとめて処分すべき害獣だ。名前も残してやるものか」


 せめて今からでも正面から打ち合いたい。それでお互いの気が晴れるとは思わないが、そうしなければ少なくともゴドレッドの気が治まらない。卑怯者と蔑まれたままでいられるほど掲げた武人の誇りは安くはないのだ。


(全力の打ち合いを! 我にできることはもうそれくらいしか――)


 しかし、ゴドレッドに異変が襲う。心とは裏腹に体は勝手に斧を地面に置き、両腕を交差させて顔面を守りつつ亀のように縮こまって守りを固めた。自身は戦わず攻撃してきた者を傷つける攻性防御。これも立派な戦術だが、HPが尽きかけているならともかく、蘇生して全回復したゴドレッドが行うそれは卑劣の最たるものだった。


「――ッッッ!」


 魔王様の念力によっていよいよ体の自由を奪われていた。ゴドレッドは操り人形として意に添わぬ行動を強いられた。


 アテアが、ぎり、と唇を噛んだ。それでも心のどこかで鬼武者に期待していたのだろう。失望はより明確な侮蔑となって発する声音すら鋭く固くした。


「君ってやつは……ボクとの勝負からも逃げる気か!?」


(ち、違う! 我は――我は……っ!)


 どんなに心の中で絶叫しようともゴドレッドの本心が伝わることは二度とない。問答無用とばかりに斬りかかってきたアテアに、その衝撃を跳ね返す。



 剣姫アテアの攻撃!

 ゴドレッドにダメージを与えた!

『45』



 攻撃の衝撃を跳ね返した!

 剣姫アテアにダメージを与えた!

『1』



 正面からの攻撃ではほとんどダメージを負わないアテアだが、今の一撃でゴドレッドへの評価が確定した。正面から尋常なる勝負を挑んでくる勇敢なるあの戦士はもう死んでしまったのだ、と冷徹に判定を下した。


 二人の間に漂う苦々しい空気をよそに、魔王様の念話が全体に響いた。


『策略通り、ゴドレッドが勇者を裸にしたぞ! 幹部たちよ、一斉に攻めかかれ!』


 いつの間にか幹部たちがアテアの射程範囲のそばまで近寄っていた。策略通りという魔王様の言葉に、アテアはゴドレッドの言動すべてが単なる時間稼ぎだったのだと思い込む。


「くっ……、もう君になんか構ってられないよ!」


 弱点である背中を晒して迫り来る幹部たちに備えた。もはやゴドレッドなど相手にする価値もないと言わんばかりに。それはゴドレッドにとって耐え難いほどに屈辱的な扱われ方だった。


(なぜ我ばかりがこんな……、こんな……ッ!)


 目の前で繰り広げられる剣姫と幹部たちの乱戦を虚ろに眺める。あの場になぜ自分だけが参戦できずにいるのか。なぜこんなところで丸まっているのか。ただ死力を尽くした戦いがしたかっただけなのに。どうしてこんな醜態を晒す羽目になったのか。


 誰が……


 何のために……


 そんなこと、考えるまでもなく――


 ゴドレッドを置き去りにしたまま戦況は動いていく。これまで通用しなかった攻撃がアテアに着実に手傷を負わせ、目に見えて彼女を死の淵へと追い込んでいく。


 リーザは攻撃魔法を連発した。それまでの鬱憤を晴らすかのように火属性魔法を絨毯爆撃していく。正面からの攻撃ならば《神の加護》で無効化できる。だが、その隙にクニキリが背後に回り込み、するとそれに対応せざるを得ないアテアは他の幹部に背中を向ける羽目になる。


 ここぞという瞬間がやってきた。出し惜しんでいた固有スキルを発動させるとき――


「丸焦げにしてあげるッ! 煉獄の火に焼かれて苦しむがいいわ!」



 リーザ・モアの固有スキル《蝶・インフェルノ》が炸裂した!

 剣姫アテアに大ダメージを与えた!

『195』



 背後から黒炎の火柱に飲み込まれ、悲鳴を上げられぬまま全身を火炙りにされた。


 かろうじて火柱から脱出したアテアを、今度はクニキリが襲い掛かる。


「妄執に囚われた哀れな修羅よ。六道が一つに堕ちて逝け!」



 クニキリの固有スキル《魔忍殺法・阿修羅》が炸裂した!

 剣姫アテアに大ダメージを与えた!

『202』



 クニキリの心象世界に飛ばされて全身を手裏剣で斬りつけられた。


 元の世界に放り出されたアテアに次に牙を剥いたのは、女王蜂。


「……世の理、正しき法を示すのが王たるわらわの務めですわ。人間の小娘には過ぎたる鉄槌、とくと味わいなさいな」



 グレイフルの固有スキル《刺突・連閃》が炸裂した!

 剣姫アテアに大ダメージを与えた!

『260』



 無数の槍の突きが背中を穿つ。いまだ肉体の形を保っていることが奇跡であった。


 だが、トドメとばかりに赤魔女の極大魔力が津波の如く押し寄せる。


「顕現せよ――《スカジ・エンド/雪華の終末》!」



 ナナベールは《エンド》を使った!

 剣姫アテアに大ダメージを与えた!

『713』



 究極召喚魔法 《エンド》による大破壊に巻き込まれ、さしもの剣姫も地に両膝を突くことを免れなかった。肩で息をし、蓄積された痛みにうめき声すら上げてしまう。


 まだ倒れぬと見て執拗に攻めて来る幹部たち。アテアは《ライトニング・バスター》で必死に反撃するも、四方から仕掛けられる波状攻撃に為す術がなかった。


 決着はもはや時間の問題であった。


『よくやったぞ、ゴドレッドよ』


 魔王様の念話の声がゴドレッドの脳内にだけ届けられた。


『この勇者戦ではおまえが一番の功労者だ。アンバルハルを占領した暁にはおまえには勲章の一つも与えねばならんな』


「魔王……様……。我を、我を捨て石にしたのでありますか……っ!?」


 策略通りという言葉には、ゴドレッドの敗北もまた織り込み済みであったはずだ。でなければ《復活》という奇跡を事前に授けるはずがない。


『? 何を言う。おまえに死なれては困るから【復活の腕輪】を渡したのではないか』


「それは……、それは我が敗北することを想定していたということですか!? そこまで我は信用なりませんか!?」


『実際に殺されたではないか。わけのわからぬことを言うな』


「う……、ぐ……、し、しかし」


『余は勝てれば何でもよいのだ。たとえ手段と道筋が卑劣であろうと余は何ら痛痒を覚えぬ。とはいえ、おまえたちにそれを押し付けるつもりはない。自らの思想、自らの信念を大いに貫くがよい。それらをうまく捌くことが魔王たる余の腕の見せ所であろうな』


 くつくつとせせら笑う声まで聞こえた。


 手駒の感情など取るに足らない事象であると魔王様は言う。


『見よ。もう間もなく決着だ』


『連携』を覚えた幹部たちに死角はない。何度となく吹き飛ばされ、何度となく地面に叩きつけられたアテアの有様は無惨を通り越して憐みさえ感じさせるほどに滑稽であった。ただ蹂躙されるしかない彼女のどこにもかつての輝きは見られない。


(魔王様……、魔王様……ッ)


 そのような末路に追いやった功労者がおまえだと言い褒めそやす。好敵手として認めた相手を多人数でいたぶり、それをただ傍観することしかできない卑怯者である自分を功労者だと――


(そんなもののどこに戦士の誉れがあろうかッ!?)


 頭を割らんばかりの轟音が脳内に響き渡った。


 それは取り返しのつかない決裂の合図であった。


(魔王よ――、よくもこのゴドレッドの顔に泥を塗ってくれたな……!)


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