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第三層 開戦


 ついに、ついに、ついに――――!


 第一章最後のバトルステージだ!


 待ち受けるは【剣姫アテア】――第一章のラスボスに相応しく向こうの陣営はアテア一人のみ。部下も中ボスの姿もなかった。


「――って、あれ? てっきりリンキン・ナウトかケイヨス・ガンベルムのどっちか、もしくはその両方が参戦してくると思ったのに」


 そして――いや、それ以上に目を引いたのは正規版とは明らかに違うバトルフィールドの形だった。


 草原フィールドは特徴がないのが特徴だ。木とか岩とかがちょろっとあるだけでほとんど障害物がない、全面フラットなフィールド。一層でも二層でもそれは同じだった。


 なのに、この三層だけは違った。


 アテアの後ろに崖が聳え立っているのだ。


「え? こんなのあったっけ? 行き止まり?」


 ええっと……。ちょっと頭の中を整理。


 一周目のプレイ内容を思い出す。このステージのバトル設定って確か王都へと続く街道の途中で、山も谷もない草原での合戦――てな感じ。当然こんな崖、っていうか壁? が切り立ってるわけがない。


 ということは、十中八九、魔法か何かで造営した……んだろうね。うん。


 ここまではいい。問題は目的だ。


 ここから先には行かせないってことなんだろうけど、私には関係ないことだよね? ここで言う「私」ってのはプレイヤーとしての「私」ってことね。


 だって、アテアを倒さない限りステージクリアできないし、ステージクリアしないことには王都を占領できない。


 つまり、わざわざこんな〝壁〟を用意しなくたってプレイヤーも魔王軍もここからは動くことはないのである。


「じゃあ何のためって話だけど……やっぱり、そういうこと、かな?」


 一つ思い浮かんでいることがある。


 でも、これも「私」っていうプレイヤーには関係のない話のはずだ。


 だって、繰り返しになるけれど、〝壁〟を用意しなくても魔王軍キャラクターはバトルフィールドの外に出ることはできないのだ。画面の外は不思議な力で封鎖されている。


 メタ的な話になるけれど、これゲームだもん。いま行われているイベントからは決して抜け出すことはできないのだ。


 画面外には出て行けない。


 アテアを無視して通り過ぎたってこの戦いからは降りられない。


 私側からすれば、この〝壁〟はフィールドを狭くするだけで、ゲーム上では無意味だ。


 だから、きっとこれはお兄ちゃん側の都合。


 ゲーム画面に反映されるほどの〝変革〟をもたらす必要があったんだ。


「……〝壁〟があることで整合性が取れたってことかな? 画面外に出て行けないプレイヤー側の〝お約束〟を、向こうで矛盾させないためのギミック。だとすると納得いく。じゃあやっぱり私に対する嫌がらせじゃん」


 私の考えているとおりなら、お兄ちゃんはこのバトルフィールドにおいてのみアテアを最強に押し上げた。いや、最強どころか『無敵』にか。


 むふん。思わず溜め息。


「ま、ある程度予測はしてたけどね。私がお兄ちゃんの立場でもきっと同じようなことしてると思うもん」


 だから理解できたっていうのもある。


 まあ、予測してた通りなら、こっちの準備も無駄にならずに済むってことでもあるわけで……


「ワクワクしてきたよ! 逆にお兄ちゃんは私の作戦をどこまで読めてるのかな!?」


 その無敵のアテアを倒すための秘策をお兄ちゃんは見抜けているか!?


 答え合わせと行こうじゃないか!


 ステージタイトルが表示される。



―――――――――――――――――――――――――――――――

 第五ステージ『リームアン平原~アンバルハル王国最終決戦~』

 ―第三層―

 勝利条件【勇者アテアの撃破】

―――――――――――――――――――――――――――――――



 行くぜ!


◇◇◇


 平原に突如として現れた巨大な土壁に対して、魔王軍幹部一同は様々な反応を見せた。


「あんな壁ありましたかしら? わらわが目を離した隙に隆起した……にしては天変地異が過ぎますわね」


「馬鹿ね。魔法で造ったに決まってるじゃない。何が目的かは知らないけど」


「ですわね。飛空できるわらわたちには障害物にすらなりませんわ」


 リーザ・モアとグレイフルのように飛行能力がある魔族にとって、どんなに高く分厚い壁を造営しようとも飛び越えてしまえば足止めにもならない。こんな土壇場での造営には驚くよりも怪訝な思いが上回った。


「んなことよりよー、壁の前にいるあのちっこいのが勇者なんか?」


 ナナベールが含み笑いを浮かべながら言った。言葉のとおり、視線の先には年端のいかぬ少女が壁を背にして立っていた。巨大な壁のせいで相対的に矮小に見えてしまったというのもあるが、それにしたってあの小柄な体格では戦場には不釣り合いすぎて、もはや質の悪い冗談のようにしか見えない。


「あれが最後の勇者かよ!? クソガキじゃんか! 終わってんな、アンバルハル!」


「ナナベール殿、貴公の目は節穴か? いや、リーザ殿もグレイフル殿もなぜ気づかぬのだ。我にはわかるぞ。あの者が秘めたる力はこれまでのどの勇者よりも強大だ。相手にとって不足なし!」


 ゴドレッドの言葉に三人の女幹部は「あ?」と目を怒らせた。


「出たよ、戦闘狂。そういうんはゴドちー、てめえ一人でやってろ」


「ああ、あの女のこと? 悪いわね。眼中になかったわ」


「わらわに平伏すなら寛大に迎えてやりますわよ。けれど、あのような反抗的な目つきをした輩にはこちらから手を差し伸べてやる義理なんてありませんわね」


「き、貴公らには戦う気がないのか!?」


 三人は、つーん、とそっぽを向いた。それぞれの個性が尖っていて仲間意識が薄いとまで言われる魔王軍幹部たちだが、その悪評を高めている原因は明らかにこの女たちだろうとゴドレッドは強く思う。


 内心の不服を正確に感じ取ったもう一人の男幹部クニキリが、ゴドレッドの肩をぽんと叩いた。


「鬼武者よ。そこの女どもに期待するな。そして、心配もいらん。どうせ戦闘が始まれば我先にと噛みつくじゃじゃ馬ばかりよ」


 軽口に反応する声はなかったが、三つの刺々しい視線がクニキリを突き刺す。それらを苦笑でいなし、クニキリは再度壁の前に佇む勇者を見た。


「とはいえ、舐められたものだ。たった一人で拙者らを相手にする気か?」


 ゴドレッドの言うように勇者として絶大な能力を有していることは矛を交えずとも感じ取れるし、少女以外に勇者がいないことも承知している。


 しかし、だからといって単騎で魔王軍に挑もうというのは無謀にも程がある。その戦略が見くびられた結果でないとしたら、アンバルハル王国軍にはもう彼女以外の戦力がいないと明言しているようなものだった。


「どうだろうなあ。魔法使いのガキどもの姿が見えねーけどよー」


 赤魔女ナナベールの興味は剣姫とは別のところにあるようだ。実はクニキリも王都城壁西門の戦いで存在感を示した魔導兵たちをこの合戦の最中に一度も見かけなかったことが気がかりだった。だが、いない者に感けていても始まらない。


『正真正銘最後の戦いだ。あの勇者を討つことさえできればアンバルハル王国はもはや陥落したも同然となろう』


「魔王様」


『勇者が国の希望。その希望が失われれば我が軍に歯向かう人間はいなくなる。残兵はその後にゆっくり掃討すればよい』


 今は目の前の敵にのみ意識を傾けよ――魔王の声に全幹部の顔つきが変わる。


 余計な思考を排除し、目を眇めて討つべき剣姫のみを視界に入れた。相手が単騎であろうと総力戦の舞台に上がったのなら魔王軍幹部全員の獲物である。武具を握る手に力を込めて、幹部たちは一斉に歩き出した。


『勇者アテアよ――! 余と余の魔王軍がこれよりおまえの命を奪う。覚悟はよいか?』


 剣姫はその場から一歩も動かず、凛、と声を張り上げた。


「いいよ! でも、勝つのはボクだ!」


『小癪な』


◇◇◇


 カーソルをアテアのデフォルメキャラに合わせてステータスを表示させる。



―――――――――――――――――――――――

 アテア・バルサ LV.25

         HP  ????/????

         MP   199/199

         ATK  170

―――――――――――――――――――――――



 HPは「?」表記でわからないのは思っていたとおり。四桁なのも想定通り。


 長丁場になりそう。壁を背にしたアテアをどこまで追い詰めることができるのか。


 勝負だッ!



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