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第二層② VS王族護衛騎士団その2


「覚悟ぉ――っ!」


 勇ましく駆け出す剣士隊。しかし、そんな彼らをあざ笑うかのように魔族どもは頭上を軽々と飛び越えていった。


「待てぇ! 逃げる気か、卑怯者め!」


 副団長の悪態に殺戮蝶は苛立たしげに眉をひそめて、


「いちいち癇に障る人間ね。トドメを刺してあげたいところだけど、魔王様の指示よ。あなたたちも背後を気にしている場合じゃないんじゃない?」


 それだけ言うと、赤魔女とともに後続の槍隊に突撃していった。


 騎士団の戦闘スタイルでいくなら剣士隊はこれから殺戮蝶と赤魔女の背後を突き、弓隊の援護を受けつつ槍隊と挟撃を計らねばならないのだが――


「――っ!?」


 副団長はにわかに悪寒を感じて慌てて正面に向き直った。


 肌を刺すような殺意の塊に強制的に意識が引きつけられた。殺戮蝶たちの背後を突くということは、副団長たちもこの殺意に背中を晒すということだ。どうしてそのような危険を冒すことができようか。


 振り返った先には、はたして忍装束姿の蓬髪の男が無数に分裂していた。


 魔忍クニキリの隠密スキル《影分身》――実体を持たない分身が囮となってクニキリ本体の居場所を秘匿するスキルである。


 一目で分身とわかるのにそれを無視することができなくなるのは、この圧倒的な殺意のせいだった。放っておけば命を狙われる。やられる前にやらなければ――と術中に嵌まった者は分身を追いかけざるを得なくなるのだ。


「ふ、副団長!? こいつら、とんでもない数ですよ!?」


「一斉に飛び掛かられたりしたら命がない……っ!」


「う、うろたえるな! 目の前の敵に集中しろ! こんなもの所詮幻惑にすぎん! 一太刀入れればおそらく幻惑から抜け出せる!」


 その言葉は、分身たちの中に紛れていた魔忍の失笑を誘った。


「いい勘をしている。確かに、分身は攻撃を受けた瞬間に消滅する。――だが、少しの間でいい。おまえたちをこの場に引き留めておくことが拙者の役目。殺戮蝶と赤魔女を後方部隊に向かわせるまでの時間稼ぎ。女王蜂と鬼武者が到達するまでの足止め。そして、それはもう果たされた」


「なっ!? き、貴様、どこへ行く!?」


 魔忍もまた剣士隊の脇をすり抜けて殺戮蝶たちの後を追った。その際、分身が消え剣士隊に向けられた無数の殺意も同時になくなった。


 敵幹部たちがことごとく剣士隊を無視して通り過ぎていく。


「……副団長、どうします? お、追いますか?」


「むう……」


 敵の狙いがわからず困惑する中、さらなる二人の幹部が威圧を纏って現れた。


「何なんですのこれは!? わらわに手負いの獲物を始末せよとそう仰る気ですの、魔王様はっ!? このようなゴミ掃除、高貴なわらわに相応しくありませんわ!」


 女王蜂グレイフルは開けっ広げに不満を口にし、横に並ぶ鬼武者ゴドレッドも言葉にこそしなかったがその表情は憮然としていた。


 対して、剣士隊は全員怒りに震えた。


「ゴミ……だと……っ!」


「言わせておけばァ!」


 敵とも見做されず、ゴミとまで言われてはもう黙っていられなかった。剣士隊は一斉に馬を走らせると二人ずつに分かれて敵幹部に襲い掛かった。


「オラァ!」


「ふんっ!」


 ガキィン!!――騎士の一撃を魔槍で受け止めた女王蜂はその瞬間、意外なものを目撃したかのように目を見開いた。一歩後退り、うっすらと口角を吊り上げた。


「良い攻撃ですわ。なかなか訓練されているようですわね。さっきの有象無象の兵士たちに比べれば少しは殺し甲斐がありそうですわ」


「ほざけぇ!」


 二人掛かりで連続して斬りつける。女王蜂は楽しげに槍を手繰り、すべての攻撃をいなし続けた。


「ゴドレッド! やる気がないならそっちの人間もわらわに寄越しなさいな! 四対一なら多少手応えがありそうですわ!」


「……我に牙を剥いた者たちだ。譲る気はない」


 女王蜂と同じく戦斧で騎士たちの剣をさばき切る鬼武者は、立ち向かってくる副団長と騎士の一人を、業を振るうに申し分ない好敵手と認めた。


「我が直々に引導を渡してくれる」


「あらそう。なら、早い者勝ちですわね!」


 グレイフルは防御姿勢から攻撃に転じ、瞬く間に二人の騎士の胴体を串刺しにした。魔槍にそれぞれ胸部と腹部を貫かれた騎士たちは吐血し、それでも一矢報いんと最後の一太刀を繰り出した。


 最後の悪あがきが女王蜂の首に届くはずもなかったが、その無様さは女王蜂の好むところであった。危うげなく受け止めた剣の衝撃は、魔槍を伝って腕の骨の髄まで痺れさせた。これぞ戦闘の実感、勝利を掴んだ高揚感だ。それらがもたらす愉悦こそ女王蜂の闘争心をより駆り立てる。


「よくってよ。生まれ変わったら魔族におなりなさいな。あなたたちまとめてわらわの配下にしてあげますわ」


 女王蜂にとって最大の賛辞を騎士たちはどう感じ取ったのか。すでに事切れた二人はゆっくりと馬から滑り落ちた。


 女王蜂が二人を刺殺する間、機動力の面で劣っている鬼武者は渾身の一振りを一発放つのがせいぜいであった。しかし手数こそ少ないが、鬼武者の一撃はどの幹部の必殺スキルにも匹敵する威力を誇る。


 間近で部下を真っ二つに両断され、離れた場所でも部下を二人殺された副団長は、わなわなと唇を震わせた。


「デセオ! ジョルダン! マッカース! ――くそ! くそくそくそくそォ! よくも部下を! 殺してやるぞ! 悪鬼め!」


「貴公も一廉の武人と見受ける。尋常なる決闘でないのが残念だが、これも戦の常。その首、貰い受ける!」


「ほざけぇえええええ!」


 ゴドレッドの斧が副団長の剣を、腕を、馬の頭ごと吹き飛ばした。肘より先を失くした副団長だったが目を怒らせたまま呪詛を喚き散らした。


「許さぬぞォオオ! 魔王軍!」


 さらに返す斧の一振りで副団長の首を刈り取った。


 こうして、剣士隊はあっという間に返り討ちにあったのだった。


◇◇◇


 王族護衛騎士団はまとまれば強いけど、個々で分断すればそれほどでもない。


 私が取った攻略法は、リーザとナナベールという本来遠距離からの魔法を得意とするキャラを前衛に置き、まずは《ウィカ》で弱体化させ範囲魔法で体力を削る。リーザとナナベールはそのまま後続の槍隊、弓隊にも同じ攻撃をしにいく。


 クニキリの《影分身》で足止めにし、ゴドレッドとグレイフルがやって来るまでの時間を稼ぎ――


 体力を削られた騎士たちを二人の撃破力でもってトドメを刺す。これを(剣)、(槍)、(弓)の三部隊に段階的に仕掛けていく。


 敵側の配置――接近して剣、遠間から槍、離れて弓の三段構え――の逆を取ったのだ。


 つまり、魔法使いの遠距離、魔忍の中距離、鬼と蜂の近距離という順番である。一番効果的だったのがナナベールの《ウィカ》だろう。この効き目のおかげでゴドレッドとグレイフルの通常攻撃がクリティカル級の威力に跳ね上がった。


 よって、ほとんど攻撃を喰らわずに第二層を完勝したのであった。


 んで、早速グレイフルとゴドレッドが文句を言いに立ち絵となって現れた。


『戦の作法……魔王様がわらわに伝えたかったのがコレですの?』


「そだよ。みんなで段階的に敵の体力を削っていって、最後のトドメをあんたらが刺す。今の編成だと最も強力な戦法だと思ってる」


『わらわに後始末を押し付けることがですの?』


「違うっての! どうしてそういう発想になるわけ? あんたらに美味しいところを譲ってやったんじゃん! みんながお膳立てした結果だよ! 気持ちよかったっしょ!? 実際!」


『……』


 プライドが許さないのか素直に頷くことをしないグレイフル。まったく強情なんだから。


 で、ゴドレッドはやっぱりというべきか、怒った。


『我は正々堂々正面から敵を捻じ伏せたいのです……! 手負いに追い打ちをかけて得た勝利など何の誉れにもならぬ……!』


 ったく! 頭かったいなぁ! もう!


 ん? そういやゴドレッドのやつ、バトルの最後のほう気力ゲージがMAXになってなかったっけ?


 こんなに怒ってるくせに。怒りでテンション上がっちゃった感じ?


 それとも……


「ふ~ん」


『……何でありますか、魔王様?』


「べっつに~」


『とにかく、金輪際このような作戦には我は賛同致しかねます。どうかご留意のほど』


「考えとく~」


 なんだか面白くなりそうな予感。


 第三層――勇者戦が見物だね。



―――――――――――――――――――――――――――――――

 第五ステージ『リームアン平原~アンバルハル王国最終決戦~』

 ―第二層― 終了


 勝利 魔王軍

 敗北 王族護衛騎士団

―――――――――――――――――――――――――――――――



 てことで、第一章アンバルハル王国編も残すところあと一戦――!



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