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インターバル①


「ほ、ほ、報告します!」


 ヴァイオラがいる最後尾の陣に斥候の兵士が駆け込んできた。顔面蒼白。動揺、怒り、悲しみ――あらゆる感情が表情筋を痙攣させて歯をガチガチと鳴らしている。


 ひくつく喉を抑え込むかのように大声を張り上げた。


「王宮兵、民間の傭兵、並びに一般人から組織した中央主力軍が壊滅! 右翼左翼の軍も後退しました! 魔王軍は兵を分けてこの両軍の後背を追撃中!」


 ヴァイオラは眉一つ動かさずに聞き入った。


「……先ほどの天を裂く火柱か」


 ヴァイオラたちにもその火は見えていた。黒き終焉の炎が大地を焼き尽くす様を。その熱を。遠く離れた後方の陣からでも感じ取れていた。


「被害状況を報告せよ。失った兵は?」


「およそ一万! 両翼に分けられた二万弱の兵はいまだ健在! ですが」


 兵士はそこで言葉を切った。唇を噛むその仕草からおおよそ掴めた。


「士気が下がった、か。中央の軍勢には特に精鋭を固めて厚くしていた。それが破られたとなれば、より多く一般人を含んだ両翼で動きが鈍るのは必然。……それで、千人隊長のことだが……死んだのか?」


 兵士は首を横に振った。


「リンキン・ナウト隊長は、生死はおろか行方もわかっておりません。黒炎に巻かれたことも考えられますが、生存者の中に目撃者はおりません」


「そうか」


 ならば、まだ生きているという望みを捨てずにいられる。万に一つの可能性かもしれないが、少なくとも心を折らずに済む希望の一つにはなった。


「そして、魔王軍の主力幹部でありますが」


「こちらに向かってきている――か」


 わかり切った結論にいちいち驚かない。声を上げる者もいない。


 最初からすべきことは決まっている。三層に重なった陣形――第二陣、その主力である王族護衛騎士団はすでに前線で待機している。


 すべて織り込み済みである。


「ご苦労だった。引き続き斥候に励んでくれ」


 兵士は頷くと戦場へ戻っていった。


 ヴァイオラは固く目を閉じると、傍らに控えるリリナに聞こえるように呟いた。


「予定どおりだ。それなのに、胸が痛いのはなぜだろうな」


「ヴァイオラ……」


「魔王軍の、魔族連合部隊を残兵狩りに引きつけた。主力とされる幹部たちだけがまっすぐこちらに向かってきている。最初にアテアが挑発したのが効いているようだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 しかし、その代償はあまりに大きすぎた。むざむざ一万人の民を死なせてしまった。


 兵士たちは皆死ぬ覚悟はあっても本心では生きて勝利したいと願っていたはずだ。その思いを知っていながら必要な犠牲として彼らを切り捨てた。


 総大将とはこれほどまでに重いのか。そして、痛いのか。今のヴァイオラはかろうじて耐えられているが、アニと出会う前の未熟な自分であったらきっと今頃泣き出していたことだろう。


 ……いや、おそらく女王になる前に、父王が治めるアンバルハル王国とともに魔王軍によって滅ぼされていた。今のこの状況は薄氷の上を奇跡的に踏破し到達した最高地点に違いない。むしろ犠牲者が一万人で済んでよかったと喜ぶべきなのだ。


 常に最善を考えろ。

 既に最善と考えろ。


 このメンタリティが女王を続けていく上で必要不可欠。


 ヴァイオラの目に活力が蘇る。


「陛下、まだ戦いは終わっていません。ご心痛のほど拝察いたしますが、どうか気に病まないでください」


 リリナの気遣いに少しだけ心が軽くなる。その通りだ。戦いの最中にいちいち心を痛めていたら指揮が鈍るし、兵士にも不安が伝播する。総大将なら「してやったり」という顔をして笑っていろ。どんなに思惑から外れたとしても、余裕綽々という態度を貫くのだ。


 そこへ行くと、今は本当に予定どおりなのだから顔を曇らす必要はない。


「アニとガンベルム団長はまだ到着しないのか?」


「はい。こちらに向かっているとは思うんですけど」


「アニはともかく団長が私たちとともに来なかったのはやはりおかしい。王都で何かあったのではないか? アニもそちらに巻き込まれていたりしないだろうか」


「その可能性はあります。ですが、こちらの戦いに支障はありません。ガンベルム団長がいてくれたほうがもちろん心強いですけど、アニからはもう今後の作戦を全部聞いていますから。あの人がいなくても大丈夫です」


 アニの作戦はすでに動いている。準備も万端だ。今さら本人が居らずともリリナの言うとおり戦況に影響はしないだろう。


「けれど、アイツがいるのといないのとではやはり違う。締まらないというか」


「調子が狂う?」


「それだ。文句を言う相手がいないからストレスが溜まっていくんだ。ふむ。そう考えると、アイツはいいサンドバッグだったということだな」


「じゃあ、今度から外出するときは縄で縛って連れていくようにしましょう」


 想像してみる。アニのふて腐れた顔が思い出されてリリナと一緒に吹き出した。笑ったことで多少緊張がほぐれた。


 これ以上犠牲者を増やさないためにも気持ちを切り替える。


「第二陣、戦闘準備に入れ!」


 約束された結末に向けて次の段階へと進む――


◇◇◇


 経験値を獲得し、幹部のステータス画面に切り替わる。持ち物や装備品の変更、スキルポイントの振り分けなどを行い、次の戦いに備えるインターバルだ。


 っていうかさ、第一層の戦い終わっちゃったんだけど……


 あっるぇー? 結局、リンキン・ナウト倒してないけどいいの? あいつ、中ボスだったじゃん。クリア条件にあいつ倒すの含まれてたじゃん。


 これもアレかな? 人間兵が全滅した瞬間に強制的に戦いが終わるように設定されてたのかな。んで、リンキン・ナウトにはまんまと逃げられてしまい、お兄ちゃんは兵力温存に成功――みたいな?


 考えてみたら、リンキン・ナウトが防御一辺倒だったのもどこかおかしかったんだ。ボスキャラがダメージ受けない戦闘なんてほぼ負け確イベントだし。時間経過か別条件での強制終了がデフォってのはたぶん間違いないよ。


 後でまた出てくるんじゃない? リンキン・ナウト。


 もしや、その正体はお兄ちゃんか!? おじさんキャラに転生しちゃったとかもう爆笑モノなんですけどーっ! あのお兄ちゃんがっ! あははっ!


 ま、どっちでもいいけど。この第五ステージでたぶん判明するっしょ。


 焦ることはない。私はただゲームを進めていけばいい。


 魔王軍をもっともっと一致団結させて最強軍団にしてみせる!


 さあ、次の戦闘開始だっ!


 バトルフィールドが画面上をスライドしていき、デフォルメキャラたちも画角に収まるようにフィールドのさらに先に進んでいく。


 魔王軍が立ち止まり、画面上部からは馬に乗った騎士たちが続々とフィールド上に姿を現した。


『我ら王族護衛騎士団が相手だ! ここから先には一歩も行かせないぞ!』


 十二体の騎士が馬上で槍や剣を構えて立ちはだかる。


 ステージタイトルが浮かび上がった。



―――――――――――――――――――――――――――――――

 第五ステージ『リームアン平原~アンバルハル王国最終決戦~』

 ―第二層―

 勝利条件【王族護衛騎士団の殲滅】

―――――――――――――――――――――――――――――――



 ん? あれ? 見間違いかな?


 今、一瞬でてきたステージ名のとこのクリア条件に『ケイヨス・ガンベルム』の名前がなかった気がしたんだけど。ケイヨス・ガンベルムが中ボスで、そいつの撃破もクリア条件に含まれていたはず……。


 まさかの不在? 出し惜しみ? 第一層に続けてまたもや兵力温存か?


 もしそうだとしても、中ボスばっかし生かしておくなんて何考えてんの?


 お兄ちゃんの考え全然読めねー。


 そりゃ、勇者アテアと戦う場面で中ボスが二人も参戦するとなるともちろんこっちはやりづらいよ?


 でもさ、そういう小細工はやろうと思えばもっと以前からできたはずなんだよね。たとえば、第四ステージで四つの門に侵攻したときに、勇者を一カ所にまとめて配置しておけばこっちは手も足も出なかった。そういう反則技が使えるんならそのとき使うじゃん? 普通ならさ。ね?


 今それを仕掛ける意味って何?


 それともコレはお兄ちゃんにとっても不測の事態か?


 隠しシナリオ解放しろっての。私にも情報渡してくんないとフェアじゃないじゃんか。


 ……特に追加シナリオの知らせもなく、次のバトルが間もなく始まろうとしていた。


 ちっ。しゃーない。中ボスがいないんならそれはそれでこっちが有利だ。ちゃっちゃと片付けてあげようかね。


 ほら、雑魚ども。かかってこいよ。


 瞬殺してやんよ!



お読みいただきありがとうございます!

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