第一層⑥ 初めての共同作業その3
機は熟した。
魔王様が動いた当初より、上空にて息をひそめて準備を進めてきたリーザ・モア。指示通り気力は充溢している。いつでも固有スキルを撃つことができる。
遥か下方に広がるリームアン平原の戦況がこの高度からだとよく見えた。グレイフルが端から兵士を追い立てている。それはまるで箒で塵をまとめるが如く。クニキリも自らを囮に主力部隊を追って来させている。そして、そうやって人間が集結していく中央では、ゴドレッドが抵抗する者を拉ぎ狩り、ナナベールが逃げ出そうとする者を行動不能に陥らせた。
今、リーザ・モアの視覚にあの地上は焼却炉にしか映らない。
劫火に焼き焦げるのを待っている。
『リーザ・モアよ。遠慮はいらぬ。焼き払え』
「ええ。元より遠慮する気なんてさらさらありませんわ。殺し損ねた剣士ごと焼却してあげる……!」
掲げた手のひらに黒い炎球が揺らめき立つ。その火は徐々に大きく強く燃え盛り、激しい光を照らし出す。
上空にありながら大地をも震わす地獄の業火。そのうねりを感じ取った人間兵たちは一斉に空を見上げた。
黒い太陽が浮かんでいた。
悪魔が鎌首をもたげていた。
「灼熱に抱かれて眠りなさい! 舞い狂え――《蝶・インフェルノ》!」
巨大な黒炎球が墜落する。
炎と見紛ったそれは何十万匹と集まった黒いアゲハ蝶の群れである。一匹一匹が青い炎を内包し、触れた物を消し炭にするまで燃やし尽くす。その塊が無上にも地上に落下した。
刹那、火柱が天を貫いた。
阿鼻叫喚さえ許さない灼熱の暴力。
悲鳴を上げる間もなく皮膚は焼かれ肉塊は溶け骨まで消滅していく。
後に残るのは爆風が刻む炭化の跡だけ。
「――……ふう」
肩の力を抜くリーザ・モアの眼下には、黒い焦土と化したリームアン平原が広がっていた。
巻き添えを食った魔族はおらず、人間兵だけをことごとく焼き殺した。
『どうだ? おまえのために誂えた舞台で標的を破壊し尽くした気分は?』
普段は仲が悪いあの幹部たちがかき集めた兵士を全力で消し飛ばしたのだ。その爽快感たるやかつて味わったことのないものだった。
リーザ・モアの口許が妖しく歪む。
「そうですわね。控えめに言って、最ッ高、ですわ……!」
恍惚と、嬉々として開眼し、唇を艶めかしく舐めて。
リーザは震えた。
「脳筋女や赤魔女を下僕にしたみたいで気分爽快! 一匹も撃ち漏らすことなく殺し尽くしたことなんてほとんどないもの! 楽しかったわ!」
『これが〝連携〟だ。おまえたちが苦手とする、な』
全幹部の脳内に魔王様の声が伝達される。
『これまでの勇者との戦いは一対一か、あるいは二対二という状況がほとんどだった。個人戦でのおまえたちの強みを余は寸分も疑ってはおらぬ。しかし、此度の総力戦のような戦場においてはさらなる強みを生み出すことができる! 〝連携〟だ! 全幹部が一つの意志の下に統一したとき、勇者はおろか神すら圧倒する力が発揮されるのだ!』
幹部たちは息を呑む。敵戦力を壊滅させた魔王様の手腕をたった今目の当たりにしたばかりだ。疑う余地はない。
『余の戦略に従うがよい。おまえたちがまだ見たことのない景色を見せてやろう』
◇◇◇
この一連の流れをゲーム画面上で再現すると――
グレイフルが画面端っこから端っこまで行ったり来たりしながら人間兵に攻撃し、追ったり追われたりしながらフィールド中央へ誘導する。
クニキリの《影分身》も人間兵を誘き寄せる撒き餌になる。
ゴドレッドは無傷の人間兵にダメージを与えてHPを削っておき、ナナベールの魔法で消耗した人間兵をその場に釘付けにする。
十体の人間兵を一カ所に集める。できれば、リーザの固有スキルの射程圏内に全員を押し込める形で。
そして――、思い通りの盤面にゲームを進行させたとき、満を持して《蝶・インフェルノ》を炸裂させた。
人間兵①に『188』の大ダメージを与えた!
人間兵②に『185』の大ダメージを与えた!
人間兵③に『189』の大ダメージを与えた!
人間兵④に『190』の大ダメージを与えた!
人間兵⑤に『192』の大ダメージを与えた!
人間兵⑥に『183』の大ダメージを与えた!
人間兵⑦に『189』の大ダメージを与えた!
人間兵⑧に『187』の大ダメージを与えた!
人間兵⑨に『185』の大ダメージを与えた!
人間兵⑩に『190』の大ダメージを与えた!
人間兵①をやっつけた!
人間兵②をやっつけた!
人間兵③をやっつけた!
人間兵④をやっつけた!
人間兵⑤をやっつけた!
人間兵⑥をやっつけた!
人間兵⑦をやっつけた!
人間兵⑧をやっつけた!
人間兵⑨をやっつけた!
人間兵⑩をやっつけた!
「てなわけで! ミ・ナ・ゴ・ロ・シ♪ かーんりょ♡」
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第五ステージ『リームアン平原~アンバルハル王国最終決戦~』
―第一層― 終了
勝利 魔王軍
敗北 アンバルハル王国軍
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