最終決戦、開始!
アンバルハル編最終決戦の舞台は【平原フィールド】だ。
障害物も遮蔽物もないバトルフィールド。
魔王軍とアンバルハル王国軍、双方全戦力が投入される総力戦。ガチンコバトル。
フィールドマップの下方にプレイヤー陣営が配置され、敵側がいる上方に向かって攻めていく形になる。
オールメンバーが参戦するバトルでは、幹部それぞれに一体の専属部下が補助役として付いてくる。操作できないし戦いに直接参加はしないんだけど、気力ゲージが溜まると【幹部スキル】と【連携スキル】のどちらかを選択することができるようになる。
そして、魔王が参加する戦いなので投入される【部下】は強制的にアーク・マオニーになる。まあ、主要なレギュラーメンバーなんだから当然っちゃ当然なんだけどね。
というわけで、出撃ユニットは次のとおり。
【魔王】
【殺戮蝶リーザ・モア】
【鬼武者ゴドレッド】
【女王蜂グレイフル】
【魔忍クニキリ】
【赤魔女ナナベール】
【不死影アーク・マオニー】×5
計十一体のキャラを操作してステージクリアを目指す。
また、このステージはフィールドが三層に分かれていて、各層に配置されたボスを倒せば先に進める仕様になっている。
第一層は人間兵グループ。
十体の【人間兵】と、【千人隊長リンキン・ナウト】が中ボスとして登場する。
接近戦がやたら強いリンキン・ナウト。油断ならないボスキャラだ。
そいつらを全部やっつけたら、フィールドマップが移動して次の第二層に進む。
第二層は騎士団グループ。
十二体の【騎士】と、【王族護衛騎士団団長ケイヨス・ガンベルム】が中ボスとして登場する。
光属性魔法の使い手で中距離攻撃を多用してくるケイヨス・ガンベルムはなかなかの曲者。馬に乗っているから移動範囲が広くて逃げ回ったりするから倒すのも一苦労なんだ。
ケイヨス・ガンベルムたちもぶっ倒したら、いよいよ第三層――最後のフィールドにコマを進める。
第三層は勇者戦。
【剣姫アテア】との対決だ。
このボス戦が実はゲーム内で一、二を争うくらい高難度のバトルだったりする。
アテアはとにかく固くて、速くて、痛い! 全然ダメージ受けないし、一ターンで二回行動できるし、勇者スキル《ライトニング・ブレード》は横三マス縦七マスを撃ち抜く広範囲必殺スキルで一度にHPを半分ほど削られる。デタラメに強いのだ!
攻略のポイントは、勇者戦まで如何に消耗を少なくできるか。
第一層、第二層をほとんど無傷で乗り切るのが理想。まあ、無理だけど。リンキン・ナウトもケイヨス・ガンベルムもかなりの強敵だし、兵士たちもザコキャラとはいえ最終決戦だけあってそれなりに強いしね。
言い換えれば、回復薬やマジックアイテムを如何に消費せずに乗り切るかに掛かってくる。
幹部を一人も脱落させないのは当然として、作り置きしておいた回復薬をアテア戦までできるだけ残しておくことが必須となる。
つっても、この攻略ポイントはあくまでも【正規版の魔王降臨】での話。
お兄ちゃんが転生したこの【変化版の魔王降臨】ではどこまで既存の考え方が通用するかわからない。
あの【魔導兵】とかいうのも絶対に参戦してくるだろうし。
お兄ちゃんもこの戦いにはきっと参加すると思う。
【人間兵】に紛れているのか。はたまた【魔導兵】の中にいるのか。
どんな形で登場するかわからないけど、……でも、予感があった。
アテア戦か、もしくはその前にお兄ちゃんと対決するだろうっていう……そんな予感が。
◇◇◇
ゲーム画面では、本編ストーリーのイベントが流れ始めた。
『準備はよいか? 我が魔王軍が誇る幹部たちよ』
草原フィールドに降り立った魔王軍キャラクターたちが、二頭身アバターと立ち絵が交互に切り替わって会話していく。
『うへー。人間どもがうじゃうじゃいるぜー。つーかよー、人間側の兵士ってあんなに数いなかったろ? 王都の、なんつった? 千人隊だか何だかしかいないって話じゃなかったん?』
ナナベールがそう言うと、画面外から人間兵のキャラクターがぞろぞろと姿を現した。
『一般人から傭兵を集めたそうよ。職業兵じゃないから大して強くなさそうだけど、あれだけ数がいると厄介ね』
応えたのはリーザ・モアだ。閉ざされた目の内側で、千里眼を飛ばして戦場を網羅している。
同じく千里を見通す目を持つグレイフルが軽口を叩く。
『でしたら、貴女の魔法で一網打尽にしたらよろしいんじゃなくて? リーザ。わらわは無価値な人間には用はなくってよ。存分に掃討するがいいですわ』
『……そのつもりだったとしても、貴女に指図されると途端にやる気を失くすから次からは黙っていて。グレイフル』
クニキリと部下の中忍の立ち絵が現れる。
『クニキリ様……(ひそひそ)』
『そうか。わかった』
中忍の報告を聞いたクニキリが魔王に上申した。
『魔王様! 魔王様の目論見どおり、人間どもは王都の全戦力をこの平原に集結させたようです。いま王都は最低限の守りすらありません。武具を持たぬ人民が首をすくめて隠れているだけです。今なら簡単に攻め落とせますが、如何でしょう。拙者の部下に襲わせましょうか?』
それを聞いた魔王は、ふん、と鼻を鳴らした。
『いらぬ。余の目論見に気づいているのなら余計な口を挟むでないわ』
『……出過ぎたことを申しました。お許し下さいませ』
『目論見って何ですの?』
グレイフルが訊ね、リーザが答えた。
『魔王様は最初から王都を、いえ、王国そのものを乗っ取るつもりでいたのよ。城壁の門を壊したのだって籠城できなくするためだし、この平原まで主力を引っ張り出したのはいずれ魔王軍の拠点となる王都を無傷で手に入れたいからよ。必要以上に人間を殺させないのは後々労働力として使役するつもりだからでしょう』
『ですの? 魔王様』
『ふっ。気づいておったか。余は人類を根絶やしにしたいわけではないのでな。無益な殺生をする気はない』
『あら、気が合いますわね。わらわもその考えには賛同致しますわ。人間は家畜にできますもの。皆殺しにするだなんてもったいないことですわ。わかりまして、リーザ? 昔みたいに人間を土地ごと消滅させるなんて真似してはいけませんわよ?』
『掃討しろと言ったり殺すなと言ったり。貴女、数分前に言った自分のセリフも覚えてないの? バカなの?』
『前後の文脈くらい読み取れませんの? 低能ははたしてどちらかしらね? リーザ?』
『前後の文脈を無視して突っかかって来たのは貴女のほうよ、グレイフル。これからはあまり口を開かないことをお勧めするわ。貴女の馬鹿さ加減は今さら直しようがないけれど、苦労するのは周りにいる私たちなの。永久に黙ってて』
『いいですわ。人間をぶっ殺す前に貴女を殺して差し上げますわ、リーザ! 準備運動にもならないでしょうが、せいぜい抗ってみせるがいいですわ!』
『そういう脳筋じみた振る舞いが気に入らないのよ! いいわ! 掛かってきなさい! 貴女から血祭りにしてあげるわ!』
『はあ!?』
『ああ!?』
『やーめーろっての!』
いがみ合うリーザとグレイフルの間にナナベールが割って入った。
『うっせぇぞ、おまえら! 喧嘩する体力はアレとの戦いに取っておけ!』
ナナベールが指さした先――アンバルハル軍の遥か後方には泰然と構える勇者の姿があった。
英雄ハルウスの鎧を纏った金髪碧眼の少女――剣姫アテア。
幹部たちの顔つきが変わる。全員が油断ならない眼差しを向けた。
『勇者がたった一人だからといって見くびるでないぞ? あの勇者はこれまでの敵とは違う。心して掛かれ』
魔王のよく通る声が場に緊張感を与えた。
『ゴドレッドよ』
『ははっ!』
『おまえが勇者を倒すのだ』
『はっ! 必ずや魔王様に勝利を捧げてみせましょう!』
『皆の者も活躍を期待しているぞ。だが、死ぬことだけは許さんッ! わかったな?』
応ッ!――魔王軍幹部が心を一つにした瞬間であった。
最終決戦――戦闘開始ッ!
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魔王 LV.20
HP 1000/1000
MP 281/281
ATK 151
MAT 167
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ゴドレッド LV.18
HP 1060/1060
MP 0/0
ATK 187
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リーザ・モア LV.19
HP 755/755
MP 299/299
MAT 160
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グレイフル LV.20
HP 911/911
MP 94/94
ATK 171
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クニキリ LV.18
HP 665/665
MP 46/46
ATK 123
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ナナベール LV.17
HP 480/480
MP 415/415
MTK 87
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アーク・マオニー LV.10
HP 99/99
MP 99/99
ATK 66
MTK 88
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◇◇◇
遥か遠くから魔王軍幹部たちの視線が集まっていることに気づいた。
剣姫は不敵な笑みを浮かべて、
「掛かって来い、魔王軍! ボク、アテア・バルサが君たちをやっつけてやるんだから!」
勇者の気勢に兵たちが呼応し「えい、えい、おーっ!」士気が高まった。
ついに両軍が衝突し、長い戦いが幕を開ける――
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アテア・バルサ LV.25
HP ????/????
MP 199/199
ATK 170
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