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やれること、全部。


 いよいよアンバルハル編クライマックスだ!


 序盤の山場。魔王軍幹部全投入はもちろん、魔王も出陣する。総力戦ってわけ。腕が鳴るぜぇ!


 相手の大ボスは【剣姫アテア】


 とにかくHPがクソ多くて、馬鹿みたいにガードが固い。正面からぶつかったら絶対に勝てない。唯一と言っていい攻略法を用いないと倒せない難敵だ。


 ま、そんなのはとっくに知ってるわけで。


 今さらジタバタしないし、やれることはもはやない。


 幹部を一人も欠かすことなくこのステージに連れてこられた時点で私の仕事は終わったと言っても過言じゃない。


 あとはみんなに作戦を伝えて戦況を見守るだけだ。


 それでもまだやれることがあるとすれば、それは――


◇◇◇


 玉座の間。イベント用背景上にリーザ・モアの立ち絵が現れた。


『――お呼びでしょうか。魔王様』


「うん。リーザ、どう? 調子のほうは?」


『特に変わりありませんわ。私は常に魔王様の命令を遂行できるよう調整しております。好不調の波に乱されるようなことはありませんわ』


「さすがリーザ。次の戦いはアンバルハル編の総仕上げだからさ、頑張ってよ!」


『承知致しました。必ずや魔王様に勝利を捧げてみせましょう』


 恭しく頭を垂れる。


 うんうん。いいねいいね。美しくて気が強い女が従順に頭を下げる姿は。


 こう……滾るよね!


『それはそれとして、魔王様』


「うん?」


『王都アンハルに侵攻して以降、私は魔王様に命じられるままに鍛錬を続けて参りました。先の戦いでは【槍聖】とか抜かす勇者に後れを取ってしまいましたが、今の私でしたら瞬殺できるほどに成長したと自負しております。どうかしら?』


「お、おう……」


 それはちと言い過ぎな気もするけれど。


 まあ確かに、リーザのレベル上げは想定した以上にうまくいった。最終決戦に投入するのに何ら不安はない。


『そこでお願いがありますの』


「何?」


『新しいスキルを託して頂けませんか? 魔王様の《闇の波動》は魔族の能力を底上げしてくれます。どうか私にも寵愛のほどを』


「う、うーん」


 なるほどなあ。リーザはさらに強くなりたいらしい。その意識の高さは素直に褒めてあげたい……んだけど。


 リーザが言う《闇の波動》というのはプレイヤーに与えられたコマンドの一つで、魔王が獲得した『スキルポイント』を、魔王自身や幹部たちに付与する育成システムのことだ。


 スキルポイントは魔王のレベルが上がったりステージをクリアしたりするごとにご褒美として獲得することができる。育成パートではそれなりに重要なファクターではあるんだけど……。


 こういう能力値のポイント振り分けって主人公である魔王に全ぶっぱが基本だ。部下ばっかり育てて自分が弱かったら後で苦労するだけだからね。


 というか、各幹部もレベルが上がるたびに自分だけのスキルポイントを獲得するじゃん。


 リーザに関しては魔法力強化に偏ってるけど、魔法攻撃力は今の段階では申し分ないほど強い。スキルだってレベルに見合わないモノまで覚えている。


 これ以上を求めるのはちょいワガママなんじゃないかな?


『知っていますのよ? グレイフルにばかり《闇の波動》を与えていること』


「……」


 ちっ。バレていたか。


 だってさー、今度の決戦ではグレイフルには幅広く立ち回ってもらいたいしー。


 どちらかというとリーザは後衛だから能力の底上げはそこまで急務じゃないっていうか。戦術的な観点からいくと前衛のグレイフルを強化させたほうがまとまりはいいんだよね。


 てことで、却下。


「別にグレイフルを贔屓してるわけじゃないから。誤解しないように」


『本当ですの? 魔王様の後継にと考えているんじゃありませんわよね?』


「ないない! ンな恐いこと考えてないってば!」


 あんな独裁女王蜂に私の可愛い魔王軍をあげるわけないっての。


「リーザの見せ場はここじゃない。もっと大きな舞台で活躍できるから、そのときアンタを育ててあげる。これは本当。約束する」


『……』


 リーザの立ち絵はしばらくフリーズし、そして。


『約束ですわよ。魔王様』


「うん。信じて」


 リーザは薄っすら笑みをこぼすと、玉座の間から立ち去った。


◇◇◇


 玉座の間。イベント用背景上にグレイフルの立ち絵が現れた。


『をーほっほっほ! 魔王様、わらわが来て差し上げましたわあ!』


「……うん。ご苦労様」


 ほんっと毎回毎回登場するたびにテンション高いなー。


 ただの立ち絵なのに後光が差してるし。何でグレイフルだけ特別仕様なの?


 まあいいや。ギャグ要因枠ってことで納得しとこ。


『またわらわを強化なさいますの? ええ、ええ、わかりますわ。わかりますわ! わらわがこの軍の要! わらわを強くするということは魔王軍全体を強くするということ! わらわが魔王軍と言っても差し支えありませんわ! いえむしろ、わらわが魔王であるということに他なりませんわあ!』


「いや、違うから。おまえは魔王じゃないし、今回呼んだのもスキルポイントあげるためじゃないから。早とちりしないでよ」


 毎度この調子だからなー。グレイフルとのやり取りはちょっと疲れる。


 すると、グレイフルの表情が、すん、と真顔になった。


 後光も消えちゃった。


『では何ですの? わらわには魔王様に構っている暇なんてありませんのに』


「戦いの前にちょっと話しておきたいなって思っただけだよ。グレイフルには今度のステージではたっぷり暴れてもらうからね。そのために強化したんだもん。いっぱい働いてもらうよ」


『あら。それでは一番槍を頂いてもよろしくて?』


「よろしくってよ。むしろ一人で殲滅しちゃってもいいくらい。誰にも邪魔させないから好きに攻めちゃってよ」


 グレイフルの顔に笑みが戻る。それまでの楽しげな微笑とは異なり、嗜虐を孕んだ残忍な笑みだった。


『ならば、わらわ一人で勇者を屠って差し上げますわ! アンバルハル一と謳われている最強の勇者を! もしそれが叶った暁には、魔王様、魔王軍を半分頂きますわ!』


「半分? 意外だね。丸ごと寄越せって言うかと思った」


『勇者を殺した程度ではそこまで欲張れませんわ。魔王様と同格の地位になる。褒賞としてはその程度で十分ですわ。ふう、わらわったら何て謙虚なのかしらん』


 これを本気で言ってるんだからすごいキャラだよなー。


 憎めない。っていうか、もうその調子で行くとこまで行ってこいって感じになる。


「期待してるよ、グレイフル」


『誰に仰っていますの? 大船に乗ったつもりでいなさいな、魔王様。をーほっほっほ!』


 終始楽しげなグレイフルであった。


◇◇◇


 玉座の間。イベント用背景上にクニキリの立ち絵が現れた。


『魔忍クニキリ、只今罷り越しました』


 うんうん。


 イケメンはいるだけでいいね。目の保養になるわ。


『魔王様?』


「おっと。ごめんごめん。見惚れちゃってたわ」


『?』


「どう? 最後の戦いを前に緊張してない?」


『拙者はシノビでござる。そのような感情は生前にすでに捨てております。そして、恐れながら申し上げれば、次戦は大掛かりとはいえ魔王様の覇道の通過点にすぎぬはず。最後の戦いと気負い立つには戦いの規模としては些か見合わぬかと』


「ふうん?」


 さすがシノビ。忍者の末裔。エトノフウガ族だね。


 状況を冷静に分析できている。確かにそのとおり。アンバルハル王国なんて世界征服を目標に掲げる魔王軍にしてみたら単なる取っ掛かりの一つに過ぎない。〝最終決戦〟なんて大袈裟にもほどがある。その指摘はよくわかる。


 でもさ、それが油断に繋がるってことは自覚したほうがいい。


「最後なのはアンバルハルのほうだよ。気負い立ってるのは人間のほう。後がない人間って怖いよ?」


『……』


 クニキリは目を伏せて深々と頭を垂れた。


『確かに追い詰められたネズミほど死に物狂いで抵抗するもの。侮っていては足元を掬われるやもしれません。拙者、そこまで思い至りませんでした』


 さすがは魔王様、と追従してくれる。


 わかってくれたのはいいけどね。私の言う〝最後〟には別の意味も含まれている。


 今回、お兄ちゃんが戦場に出てくる可能性は高い。


 だから、本当に最後になるかもしれなかった。


「顔を上げてよ。てことで、先陣を切るのはグレイフル。クニキリはその補佐に回ってほしいんだ」


 そう言った瞬間、クニキリの顔が苦い物に変わった。


『拙者が女王蜂の……ですか?』


「だって、グレイフルのコントロールはクニキリにしかできないじゃん?」


『いや、それは、買い被りと言うもので』


「任せたわ」


『……。…………。…………御意』


 ものすごい葛藤の末に不承不承と頷くクニキリ。


 そういえば、クニキリが戦場で組まされる相手って癖の強い女キャラばかりな気がする。別に意識してそうしたわけじゃないけど、クニキリって攻守でバランスが取れてるタイプだから補佐役として組ませるには丁度いいんだよね。


 あと受け属性、いじられキャラってのも大いに関係している気がする。


 図らずも、クニキリに緊張感を持たせることに成功したようだ。


◇◇◇


 玉座の間。イベント用背景上にゴドレッドの立ち絵が現れた。


『鬼武者ゴドレッド、【大封リュウホウ】より帰還致しました』


「ご苦労様。【大岩猿】の討伐も順調だね。ひとまずノルマはクリアしたから、ゴドレッドも次の戦いに備えておいて。あ、それでね、ゴドレッドには後でプレゼントがあるから」


『……我に褒美でありますか?』


 大した働きはしていないのに、と立ち絵の表情差分が言外に訴えている。


 大一番の戦場には投入されず、いつも砦の守護や【錬金】の素材集めに駆り出されているからその不満が顔に出ちゃったって感じかな。


「ゴドレッドにはいつも損な役回りばかり押し付けてるからさ、そのお詫びも兼ねてね」


『……いえ、我は魔王様の部下。貴方様の手足も同然。命に従うことに喜びこそすれ、不服に思うことなどあろうはずもありませぬ。ましてや詫びを入れられる謂れなど」


 などとごちゃごちゃ言っているが、詫びるくらいなら戦場に行かせてほしい――って本音が駄々洩れていた。


 それでこそ魔王軍イチの戦闘狂。


 そろそろ本領発揮してもらうとしよう。


「今度の戦いでは、グレイフルとクニキリに道を開けてもらって、リーザとナナベールで後ろを守ってもらう。ゴドレッド、あんたには勇者を倒してもらいたい」


『……ッ! 我にそのような大役を仰せつけてくださるとはッ! ありがたき幸せ! このゴドレッド、必ずや首級を上げて御覧に入れましょう!』


 うんうん。一気にやる気ボルテージを上げてくれて嬉しいよ。


 この後あげるプレゼントも勇者戦に必要なモノだから、きっと気に入ってくれるよね。


 このときのために錬金の素材を集めまくっていたんだから。ゴドレッドも、まさか自分のために素材集めをしていたとは夢にも思うまい。


「勇者との一騎打ち、期待してるからね!」


『お任せあれ!』


 いひひ。ゴドレッドの喜ぶ顔が今から楽しみ!


◇◇◇


 玉座の間。イベント用背景上にナナベールの立ち絵が現れた。


『幹部への激励はうちが最後ってわけか』


 ちょっとふてくされた表情のナナベール。


「何よー。あ、もしかして、ナナベールってば拗ねてんの?」


『ばぁか。そんなんじゃねーっての。前にうちが言ったこと憶えてねーのか?』


「何のこと?」


『魔王様らしからぬことすんなって話に決まってんだろー』


 ナナベールは魔王の皮を被った私――プレイヤーという存在に気づいた唯一のキャラクターだ。見た目は魔王のままだけど、ナナベールの耳にはこうして喋っている私の声がそのまんま聞こえているんだって。


 私が十五歳の女子ってことに気づいて、他の幹部には知られないほうがいいってことまで忠告してくれたんだよね。


『んま、おまえがどうなろうとうちには知ったこっちゃねーけどよー』


「そんなこと言って心配してくれるんだからナナベール好き!」


『キモイっつーんだよ! はあ、マジやりにくい……。話がねえんなら、うちもう行くぞ?』


「えーっ? もっとお話ししようよー! ナナベールと私の仲じゃーん!」


『うっざ。そういうノリ、マジ面倒。んじゃな』


 ナナベールの立ち絵が画面上から消える。


「ちょちょちょ! 待って待って! 嘘嘘! 用ならある! ナナベールにしか頼めないこと!」


 必死で呼び止めると、ナナベールの立ち絵が戻って来た。


『……なんだよ?』


「錬金! ナナベールに造ってもらいたいモノがあるの! あ、でも【レシピ】がなくてさ、もしかしたら口頭で伝えれば造れるかなって思って」


 ゴドレッドにあげるプレゼントの錬金だ。


 本当は【レシピ】を入手してから【錬金】パートに移行しようと思っていたんだけど、【レシピ】取得には特定のクエストをクリアしないといけないからちょい面倒臭くって。


 そこで、究極魔法 《エンド》のときと一緒で、こっちの知識を与えれば未取得の【レシピ】でも錬金できるんじゃないかって思いついたんだ。


『また変なこと思いつきやがって……』


「どう? できそう?」


『知らん。とりま、素材と何造るか教えてみ? そっから考える』


「えっと、素材は……【フェニックスの火種】と【ミスリルの腕輪】と【魔石】が800コ」


『800ぅ!? そんな大量の魔石、どっから調達すんのよ?』


「ああ、それに関しては大丈夫。【大岩猿の遺体】から【魔石】を生成できるから。一体につき100コ。ゴドレッドにすでに十体狩ってきてもらってるから数は足りてる」


『……抜かりねーなー、おい』


「んで、造ってもらいたいモノっていうのが――」


【レシピ】を伝えると、ナナベールは部屋に籠もって【錬金】を開始した。


 しばらくしてから再び玉座の間のイベントスチールを背景にナナベールの立ち絵が現れた。


『……完成したぞ』


「うぇーい! やったぜ! ……って、何でそんな不満顔なの?」


『……魔女としての自信を失った気分だぜ。こっちは試行錯誤して魔法と錬金術をちょっとずつ開発してるってのによー。先に答え知ってるとかずりぃよなー』


 何やら凹んでいる様子。


 気持ちはまったくわからないけど、なんかごめんね?


『で、これで準備は万端ってわけか?』


「うん! やれることは全部やったかな」


『じゃあ、勝てるな』


「たぶんね」


 あとはお兄ちゃんが私の予想の上を行くかどうかだ。


 でもね、負けないよ。お兄ちゃん。


 さあ、第五ステージ開幕だ!


◇◇◇


―――――――――――――――――――――――――――――――

 第五ステージ『リームアン平原~アンバルハル王国最終決戦~』

 勝利条件【勇者アテアの撃破】

 出撃ユニット数【6】

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