王都視察④~お家に帰るまでが視察です~
あいつらは勇者だ。
まだ覚醒していないみたいだったが、ゲーム本編では『王都アンハル攻防戦』において魔王たちの前に立ちはだかる中ボスにキャスティングされている。
『光』と『闇』の属性に振り分けられた二人の連携は多くのプレイヤーを苦しめた。あんな性格だったとは完全に予想外だが、どちらにせよ深く関わって得することはない。
それに――たしかあいつらにも覚醒時を描いたサイドストーリーが用意されていたはずだ。もしアニという存在が影響してサイドストーリーの内容が変わるようなことがあれば、そこから【転生キャラ】が誰であるかバレる危険性がある。
影響力は最小限に留めるようにしなければ。
ゲームを終盤まで楽しむためにも。
バカクソ妹にはせめて中盤まで俺の正体を悟らせてはならないのだ。
金を全部巻き上げられたので馬車にも乗れず、王宮のある第一教会地区までは徒歩でいくしかなかった。レミィがいれば時間も場所もすっ飛ばして行きたいところに行けるのだが。今ここにレミィはいない。自力で戻るしかない。
(まあいいか。王都の地理を足で知っておくのも大事だし……)
しかし。ゲーム世界とはいえ、曲りなりも一国の首都。都市面積もかなり広大だ。いくつもの地区を跨ぐ必要があり、徒歩でとなると十数時間は掛かる距離であった。
(今の俺は一体どういう存在なんだ?)
幽霊には違いない。現実世界では確実に死んでいるからだ。
では、この体は何だ?
ゲーム世界に転生したといっても、所詮は電子だ。この体とてデータに基づいて作られた虚像にすぎない。
なのに、動いた分だけ疲れる。傷を負えば呆気なく死んでしまう。
死んでいるのに、死ぬという概念が存在する。
なんてあやふやなのだろう。ココは――コレは一体なんなのか。……てなことを考えるだけ無駄ってこともわかってる。夢であれ現実であれ、追究したところで意味はないんだ。全部俺の主観でしかない。
そんなものは生きていたときでも同じだった。
俺はココにいる。
歩いて疲れる体も、そういうものとして受け入れるしかない。……しかしまあ、ゲームに乗り気じゃなかったら単なる苦行でしかないぞ。こんなもの。
いま死ねば本当に楽になれるのか。
「なれませんわよ。お兄様はどうせ失敗したことを悔いて悔いて、もう一度やり直したいと思うに決まっていますもの。やり直しはききませんわ。ですから一所懸命にやり抜くしかありませんの」
「…………おい」
「ゲームに乗り気じゃなかったら? それもありえませんわね。この世界はお兄様が望んだから生まれたようなもの。お兄様にその意志がなければ転生すらしていませんわ」
レミィがしれっと帰ってきていた。
俺の歩調にあわせて優雅に飛んでいる。
「今までどこに行っていたんだ?」
別に心配していたわけでも寂しかったわけでもない。
ただ調子を狂わされるのが我慢ならなかった。
「バグの存在のくせにバグってんなよ。俺のそばから離れないんじゃなかったのか?」
「? なんのことですの?」
「ああ? だから、俺が大変な目に遭ってたときにおまえはどこに行っていたのかって訊いてんだよ!」
「どこにって、その質問自体意味がわかりませんの。レミィ、お兄様のそばにずっといましたわよ?」
「いなかっただろがっ! じゃあ何か? 俺が呼んでも出てこなかったのはわざとだったのか? おまえ、無視してやがったのか!」
「……お兄様が何をおっしゃっているのかわかりませんわ。レミィ、ずっとそばにいましたの。ずっとお兄様と会話をしていましたし、お兄様もずっとレミィのこと見ていましたわ」
「は?」
こいつは何を言っている?
しかし、レミィの目は真剣だ。ふざけている様子はない。
「……今日、俺がどんな目に遭ったか覚えているか?」
「一日中歩き回りましたわね。特に収穫もなくて散々でしたわ」
シバキに絡まれたことやシスターベリベラ・ベルに迫られたことは記憶になかった。
それでも、レミィの中には確かな記憶があるらしい。
一体どういうことだ。
「お兄様……。大丈夫です、きっと疲れているだけですわ」
「俺が悪いように言うな」
憐れむ目つきがさらにむかつく。こいつ、本当にいい性格してやがる。
「……もういい。考えるのも疲れる。さっさと帰るぞ」
「ですわね。レミィもなんだか疲れちゃいましたわ。王宮に帰ったら今日も一緒にお風呂に入って体の洗いっこをしましょうですの!」
「まとわりつくな、うざってえ」
とりあえず、この件は保留しておく。
もしまた同じようなことがあれば、この世界に(俺かレミィの存在に)何がしかの異変が起きたと解釈しよう。
その異変は解決しなければならないものなのかどうなのか。
それもまた起きてから考えよう。とりあえず後回しだ。
どうせ、俺の主観の問題でしかないのだから。
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