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繧ャ繝ャ繝ュ縺ョ髱呈丼①--SYSTEM ERROR:[ガレロの青春①]


――――――――――――――――――――――――――――――――――

【髫?縺励す繝翫Μ繧ェが解放されました】


『髫?縺励す繝翫Μ繧ェ【繧ャ繝ャ繝ュ縺ョ髱呈丼】を閲覧しますか?


 ◇ はい

   いいえ

――――――――――――――――――――――――――――――――――


◇◇◇


〝――木こりは耳がよくなくっちゃならねえ〟


 父親は深く酒に酔うと決まってこのセリフを口にする。出だしは毎回同じ。しかし、繋がる話の内容がまったく違うので酔っ払いの戯言として聞き流してきた。


 そんなもの、耳に限らず体のどの部位にも言えることだろう。それに木こりは斧を振るう筋力と、伐採した木を運び出す体格と体力がなければ務まらず、耳だけよくても意味がない。父親の言い分にはどうにも納得がいかなかった。


 そして、決まって父親はこう言って話を締めくくる。


〝――だからよ。迷ったときこそ耳を澄ませろ。聞こえてくるはずだからよ〟


 何が、と訊くより早くいびきをかき始めるのもいつものことであった。




 ガレロは幼い頃から父親の仕事に付き合わされ、早いうちから斧を振り回してきた。


 アコン村は森と草原の境界に位置する集落だ。


 村民の気風は穏やか。


 子供のうちから親の仕事に従事し、自然の中から物事を学んでいく。家業を継ぐのは息をするのと同じくらい当たり前のことで、ガレロだけでなくハルスもリリナもいずれ親の跡を継ぐ。そこに誰も疑問を抱くことはなかった。


 生きるだけで忙しい人生。


 幸せを感じたことはないけれど、退屈を覚える暇がないのはある意味幸福なことである。絵物語の英雄には憧れても、確定した将来に悲観することもない。むしろ、悩む必要がない分楽な生き方だった。


 そんなガレロも人並みに思春期を迎える。


 弟分のハルスや妹分のリリナにも話したことがない不器用で格好悪い若気の至り。


 時折、村を訪れる行商の娘に恋をして、彼女を追って村を家出したことがある。ハルスたちには冒険の旅に出たと誤魔化しているが、その内容は村の大人たちにいまだに詰られるほど酷いものだった。


 行商の娘に言い寄り不義を働き、娘に許嫁がいたことでさらに泥沼に発展。行商たちからは追いかけ回され、村は行商としていた取引が全部ふいになってしまい今度は父親から顔の形が歪むくらい殴られた。行商への詫びに二度と娘に会わないことを誓って幕引きにした。


 笑い話にするにはまだ心の傷が深すぎる。


 ガレロにとっては本気の恋だったし、生涯でただ一度の大恋愛だとも思っている。


 剣も魔法も、ドラゴンも悪魔も出てこない。けれど、あの瞬間ガレロは確かに勇者であったし、行商の娘は塔に囚われた姫君だった。


 冒険の旅に出たというのもあながち冗談ではなく、生きていると実感した唯一の体験であった。


 この感覚がまだ燻っていたときに魔物の襲撃事件が起きた。【農耕兵】となって敵の幹部と戦い、見事に討ち取った。そのときの感情の昂りは娘と致した行為のときに感じたものにも匹敵した。クセになるほどの衝撃だった。


 剣姫アテアの活躍を目の当たりにし、ますますガレロの心は村から離れていく。


 木こりになんてなるものか。


 俺がなりたかったものはアレだ。


 今度こそ――この恋を成就させるんだ。


◇◇◇


 城壁の見張り台に立つ。


 最近はここにいるのが日課で、酷いときは朝から晩まで一歩も動くことなく王都の外を眺め続けた。見張り役の衛兵たちは最初こそ顔色を窺いに挨拶に来たものだが、今ではこの場所をガレロに譲って見回ることさえしなくなった。


 誰にも会いたくなかった。誰の評価も受けたくなかった。


 勇者に選ばれた者たちはどいつもこいつも一癖も二癖もある変人ばかりで、自分だけがまともに見えた。自分だけが普通だった。普通であることを後ろめたく思い、それが実力の有無でないにしろ、えもいわれぬ劣等感に襲われた。


 このままでは真っ先に死ぬのは自分であり、英雄になれないばかりか勇者になった誉れさえ忘れ去られ、戦場に散っていった数多の「無名」の一人に落ちぶれる気がした。


 そんなものになるために村を出たわけじゃない。そんなものになるくらいなら木こりとして一生を終えるほうがまだマシだ。ガレロは生きて英雄になりたいのである。


 戒名のように付けられる「英雄」に何ほどの価値があるというのか。


 ここから動かなくていいのなら、いつまでもこの場で雲を眺めていたい。


 そのとき、足音が近づいていてきた。


 振り返ると、見知った顔だった。


「よう。久しぶりだな」


「アニ……」


 ヴァイオラ陛下付きの占星術師。


 魔物の脅威からアコン村を救ってくれた英雄。


 こいつに付いてきたことでガレロの人生は一変した。


「……」


「何だ? 俺の顔に何かついてるか?」


「あ、いや。何でもない。あんたに出会ってからずいぶん遠くに来ちまったなと思っただけだ」


 別に恨みはしない。お門違いなのは重々承知しているし、たぶんいまだに村に引きこもったままだったらそれはそれで発狂しそうなほど己の無力さを嘆いたことだろう。


 アニに付いてきたこと自体に後悔はなかった。


 ただそこから先の途上にあったはずの選択肢に気づけなかった自分の視野の狭さに腹が立つ。


 ハルスのように身の丈に合った立場に収まれたなら。


 リリナのように割り当てられた役割に納得できたなら。


 こんなふうに思い悩むこともなかったのだろうか。


 アニは、ハッ、と鼻で笑った。


「確かに、おまえは大いに出世した。ただの村人から今やアンバルハルの勇者様だ。感慨もひとしおだろうさ。素直に喜べよ。おまえたちが憧れたものになれたじゃないか。他人事みたいに達観してたらもったいないぜ」


 アニは、ガレロが抱く劣等感には一切気づいていなかった。


 勇者になれたことをこそ後悔しているというのに。


「俺は勇者様だぞ、っつってな。えばり散らしたっていい。いやむしろ、傲慢になれ。そういう強気が国民に希望を抱かせる」


「みんなが抱く勇者像ってやつか」


「それだ、それ。わかってるじゃないか。自信いっぱいに酒を煽って豪快に飯食って、好きなだけ女を抱け。強いってだけで正義なところを見せつけろ。そうすりゃ後に続きたい馬鹿が大勢出てくる。訓練して武芸を磨いていつか自分も勇者に――なんて夢を見て、結果的に兵士の質が向上するなら願ったり叶ったりだ。品や愛想で魔族を倒せるわけじゃないんだ。格好つけるだけ損だぞ」


 くっ、と思わず笑みが浮かぶ。


 ガレロも大概英雄や勇者に理想を見なくなったが、アニはもっと冷徹な目で勇者を兵器か何かのように捉えている。


 もっと言えば、兵士の士気を鼓舞し国民に活力を与える「道具」としてしか見なしていないのではないかと思う。「勇者」の肩書きには表敬するがその個人には特段思い入れることはない。


 仮にアニが勇者になった場合、自分のこともそうやって冷静に弁えてしまえるような気がする。肩書きを大いに利用し、目的のためなら一切躊躇うことなく勇者の格式を貶めるに違いない。


 ガレロとは違う。そもそもの出発点が違う。


 アニは目的があって勇者に指示を与えている。その目的とやらが世界平和なのかは疑わしいところだが。


 そしてガレロにはそれがない。言うなれば、手段が目的みたいなものだった。勇者に祭り上げられた時点で彼の旅は終わりを迎え、引くことも進むこともできないでいる。


「何の用だ? 作戦の変更でも伝えに来たのか?」


 決戦前に激励にくるタマではないし、伝令なら兵士を寄越すだろう。アニ自身が動くということは、第三者には絶対に秘密にしたい用事にほかならない。アコン村を救ったときからそうだった。この男の秘密主義は徹底している。


「おまえに用があって来たわけじゃない。ぶらぶら散歩していたら偶然目についたんでな、気まぐれに話しかけてみようと思っただけだ」


 額面通りに受け取るつもりはない。ガレロに用事がなかったことが本当かどうかも怪しいが、きっとその「散歩」とやらもきっと隠密なのだろう。


 アニは見張り台から四方を見渡した。「見晴らしがいいなあ」と口にするものの、その真剣な眼差しには剣呑な雰囲気が漂い、遠い眺めに感動しているようには到底見えなかった。


 ……ガレロが目についたから話しかけたということだけはもしかしたら本当なのかもしれない。それを口実にすれば見張り台に上ってごく自然に周囲を監視できる。


 すぐに立ち去る気配を見せなかったので、ガレロは沈黙に耐えきれず思わず訊いていた。


「ハルスは今どうしているんだ?」


『魔法の指輪』を装着できた人材を、アニなら逐一把握していると思ったのだ。


 案の定、アニはハルスの近況を押さえていた。


「王族護衛騎士団に正式に採用された。ケイヨス・ガンベルムのお気に入りで、常に隣に置いている。もしかすると後継者候補に選ばれたのかもしれないな」


「騎士団長の?」


 それはすごい。大出世だ。


「ま、あくまで候補で、しかも俺の憶測だ。真に受けるなよ。単純にケイヨス・ガンベルムの夜のお相手っつー可能性だってあるんだし。……これも冗談だ」


 想像したのかアニが顔をしかめる。ガレロも、もしハルスがそういう立場にいるのだとしたら同情を禁じ得ない。リリナに何て言えばいいのか。


「そうだ。リリナは? あいつも確かなんとかって親衛隊の隊長に選ばれたんじゃなかったか?」


「ヴァイオラ親衛隊な。陛下の護衛部隊の隊長だ。実力を買われたってよりは陛下の気の置けない間柄だから抜擢した。最近は癖のある隊員たちに振り回されて忙しそうにしているな。――って、こんなこと本人から直接聞けばいいだろう。何だ? 全然会ってないのか、おまえたち?」


 幼馴染の二人を羨ましく思った。まだ何者にでも成れる余地を残した二人のことが。


 会えば、この醜い嫉妬を二人にぶつけてしまいかねない。そうしたらきっと、もうこれ以上どこにも向かえなくなるはずだ。


 黙りこくるガレロに何を思ったのか、アニは明るい口調で言った。


「まあいいさ。それで正解だよ。おまえはもう他の奴とは違うんだ。足手まといは相手にするな」


「足手まといか……。ひでえ言い様だな」


「気を悪くするなよ。そいつらのことを気にしておまえがいちいち足を止めていたんじゃそう言われても仕方ないだろってことだ。ハルスたちを悪く言われたくないならおまえがまっすぐ前を見なきゃ駄目だ。立派な戦果を挙げて友人たちの誇りになってやれ」


 らしくないセリフを言い置くと、アニは満足したのか見張り台から降りていった。


 立派な戦果――か。


 たとえば魔族との戦いに命からがら勝利したとする。


 ハルスたちは「勇者ガレロはアコン村出身なんだぞ!」と胸を張って言い、母親は泣いて息子を褒め、父親はガレロがしでかした不義なんてなかったかのように鼻を高くするだろう。村の連中全員がガレロを誇りに思い、ガレロと関わりがあることを自慢するのだ。


 想像するだに気持ち悪い。


 俺の価値って何なんだ……




 心の中はもうぐちゃぐちゃだった。


 何のために戦うのかわからない。


 憧れていた英雄にはなれないのだと悟り、勇者になれたせいで王宮兵への興味も失くした。今さら木こりに戻りたいとも思えない。


 じゃあこのままがいいかと言えばそれも違う。本音を言えば戦いたくない。死にたくないのだ。死にたくないから強くなりたかった。死にたくなかったから勇者になれた。そして、そのせいで戦場に行かされる……


 ままならないものだと苦笑する。


 結局、俺はどうなれば満足できるのだろう。


 俺は一体、どうしたいんだ……


〝――だからよ。迷ったときこそ耳を澄ませろ。聞こえてくるはずだからよ〟


 なあ、親父。


 一体何が聞こえてくるってんだよ……



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