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勇者シナリオ⑩『賞金稼ぎジェム&ルッチ』その6


 持ち物は住まいと一緒に燃えてしまった。ほとんど手ぶらで戻って来たルッチは、集合場所にいないジェムを探しに向かった。


 ジェムはすぐに見つかった。


 ジェムから水筒をもらったあの日、一緒に墓穴を掘った廃墟にいた。


 墓を暴いていた。


 ルッチが来たことに気づくと、ジェムは申し訳なさそうな顔をした。


「悪い。あとでちゃんと埋めなおすから」


「何をしていたッチ?」


「……内乱の最中にあたしの家族は略奪が目的の暴徒に襲われた。奪われたのはウチに伝わる家宝でさ。あたしの両親はそれを守ろうとして犠牲になった。別に思い入れなんかねえし、ソレを目にするまでは正直忘れていたんだ。でもよ、勝手に王の私物にされたんじゃ堪らねえだろ。そんなんじゃ親父もおふくろも浮かばれねえ。だから――奪い返してやったのさ」


 墓の隅のほう。孤児の遺体に触れない離れた角っこにこっそり埋めておいたのだ。


 ソレは手のひらに乗る大きさの木箱で、ぱかりと音を立てて開けると、中には二つの指輪が布に包まって収まっていた。


「キレイな指輪ッチ!」


「まあな。でも、魔力が籠められている。見るやつが見りゃあ、魔法具だってすぐにわかる。効力までは知らねえが、ベアキルサンが目の色変えて捜索させてるくらいだ、かなり貴重なもんなんだろう。ますますあいつには渡せねえ」


 言いながら、ジェムは片方の指輪を左手薬指に嵌めた。


 効力は知らないが、指に嵌めることで恩恵を得られることは想像できる。あるいは呪いかもしれないが。


 ジェムは悪戯っぽい笑みを浮かべながら残った指輪をルッチに差し出した。


「どうする? あたしは本物の盗人さ。それでも付いてくるってんなら、コレ、嵌めろ。そしたらルッチも共犯者だ」


「くれるの!? やったあ! ありがとう!」


 ジェムの手のひらから引っ手繰るようにして受け取ると、ルッチは何の迷いもなくジェムと同じ左手薬指に指輪を嵌めた。あ、と言う間もなかった。半分冗談のつもりだったのに。


「わあい! お揃いッチ! 嬉しいッチ!」


 ペアリングがそれぞれの指に嵌まったとき魔法は発動する――はずなのだが、今のところ特に変化は見られない。もしかして、不良品か?


 まあいい。ルッチが飛び跳ねて喜んでいるのだ。くれてやった甲斐があったと思うことにしよう。――ところで、コイツ怪我してたんじゃなかったか? 思ったより頑丈なのかもしれない。


 エメットでの用は済んだ。ジェムはリュックを背負いなおし、ルッチはお気に入りのポーチを腰に付けた。


「行くか」


「うん!」


 二人はエメットを後にした。


◇◇◇


「ところでルッチ、おまえ今いくつだ?」


「実はあたい、自分の誕生日を知らないッチ。たぶん十五歳だと思う。で、次の次の季節に一コ歳を取ることになってるッチ」


「じゃあ、今年から〝今日〟がおまえの誕生日だ。エメットを出ていく日だから丁度いい」


 十六歳。


 晴れて成人。


「ルッチ、これからあたしと賞金稼ぎをしよう。あんたには素質がある。その打たれ強さは才能だ」


「賞金稼ぎ!? わあ、なんだかカッコイイ! それに楽しそうッチ!」


「決まりだな。次は行き先を決めよう。どこに行きたい?」


「……戦争がないところがいいッチ。もう家族が死ぬところは見たくないッチ」


「なら、アンバルハルだな。あそこは平和な国だって評判だ。――ハッ、早速商売上がったりじゃねえか! 賞金稼ぎは廃業か!?w」


「チチチチ! ジェム姉と一緒なら何だっていいッチ!」




 ここに、魂の契約を結んだ姉妹が誕生した。


 血のつながりがなくても二人はれっきとした姉妹だ。


 どこまでも。いつまでも。


 死さえ二人を別つことはできない――



(勇者シナリオ⑩ 了)


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