絶対の矛
モニタ画面の中、信じられないことが起きていた。
王宮兵を全員殺して、魔王一人でジェム&ルッチ姉妹を相手にしていたら、【魔導兵①】の手番が回ってきて自分に光属性の補助魔法を掛けたのだ。
すると【魔導兵①】の二頭身キャラが光り輝いて、まるで光そのものになったみたいに光速移動をし始めた。
二十マスくらい距離が離れていたはずなのに、一度の移動で魔王がいるマスの隣にまでやって来た。
そしてそのままダイレクトアタック。
『【魔導兵①】の攻撃!
魔王にダメージを与えた!』
『76』
「何でよ!?」
魔王には《エンダーク》を掛けている! 勇者以外のザコキャラの攻撃は全部無効化されるはず! どういうことよこれ!?
目を疑ったのはこのあとだ。
移動と攻撃を終えた【魔導兵①】のターンが終了した……と思いきや。
引き続き【魔導兵①】が行動を開始した。
魔王の背後に移動するとまたしてもダイレクトアタック!
『【魔導兵①】の攻撃!
魔王にダメージを与えた!』
『99』
「ずわぁあああ!?」
ちょーダメージ喰らうじゃん!? おかしいって!?
あ、そうか、背中を攻撃されたからだ! 無防備な背中は正面からの攻撃より受けるダメージが大きいんだった!
……って、そこじゃない!
ていうか、どうして二回連続で『移動』と『攻撃』ができてんの!? ターンが回ってくるのが早いとかってレベルじゃないよ! ありえない!
それに何より、
「何でよ!? 何でカウンターが発動しないんだよ!?」
《エンダーク/闇化》は敵のあらゆる攻撃を無効化・弱体化させ、自動的に反撃を加える迎撃型補助魔法。
〝絶対防御〟を実現する最強の盾――。
そのはずだよね!?
それなのに、何でそれが発動しないんだよ! 意味わかんない!
さらに私は驚愕することになる。
【魔導兵①】がさらにさらに移動を開始したのだ。やはり背後に移動してきた。
流れるように三回目のダイレクトアタック!
『魔導兵①の攻撃!
魔王にダメージを与えた!』
『46』
「はあっ!? 三回目!? はああああ!?」
……三回目にしてようやく《エンダーク》が発動した。
背後からの攻撃を、魔王は向きを入れ替えて正面から受け止め、一回目と二回目に比べて半分ほどのダメージに抑えることに成功した。
さらに、魔王のカウンターが【魔導兵①】に炸裂。
だが、王宮兵に与えたほどのダメージはない。
『魔王のカウンター攻撃!
魔導兵①にダメージを与えた!』
『31』
この【魔導兵①】の防御力が高いのか、あるいは魔法防御力が高いのか。それとも、魔王の攻撃が弱体化された?
何にせよ、【魔導兵①】は王宮兵なんかと違って一筋縄ではいかないらしい。
攻撃と反撃の衝撃からお互いに一マスずつ弾かれて、二マスの距離を置いて動きを止めた。そこでようやく【魔導兵①】のターンが終了した。
やっと回ってきた手番。魔王の行動を決めろとメッセージウィンドウが指示してくる。
その前に、確認したいことがある。
コントローラーのポーズボタンを押す。
システムメニューが表示され、『コンフィグ』や『タイトルに戻る』などの項目が並ぶ中、『ヘルプ機能』を選択。
さらに出てきた項目の中から『魔法一覧』を覗く。
この『魔法一覧』では劇中で一度でも使用された魔法は自動的に登録され、属性や消費ⅯP、効用や使用者などの情報を閲覧することができるのだ。
すでに一周目をクリアし、お兄ちゃんによってコンプまでされたこの『魔法一覧』は登場するすべての魔法が登録されている――はずなのだが、今回のプレイで新たに応用魔法やら合体魔法やらが編み出されているので、新規登録はまだまだ続いていた。
【魔導兵①】が使用した魔法が何であるか気になったのだ。
とっくに予想はできていて、あとは確認するだけ。
もし『魔法一覧』になければ『スキル』の項目にも同じ理由で閲覧するつもりだったけど……。
やっぱりあった。見つけた。
そこには私がまだ使ったことがなくて、その上まだ見たことのない魔法が【NEW】と付いて登録されていた。
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【NEW】《エンチャントライト/光化》
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なるほどね。そういうことか。
魔王が掛けていた《エンダーク》をかき消すような強化魔法って考えたとき、すぐに思いついたものがコレだった。
そして、やっぱりコレで正解だった。
解説を開く。
《エンライト/光化》――消費MP『5』。
移動距離が増加し、通常攻撃時には光属性が付与され命中率が百パーセントに上昇する。
また、一ターンの間に三回行動、三回攻撃を可能にする。
ただし、行動するたびにさらにMPを『10』ずつ消費する。
なるほどね。
つまり、上限いっぱいに動いた場合、一回の使用でⅯPを『35』消費することになる、ってことかな。
三回目の攻撃がつまりターンの切れ目。だから最後の攻撃にだけカウンターが発動したんだろう。
カーソルを【魔導兵①】に合わせる。
【魔導兵①】のステータスが表示された。
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魔導兵① LV.10
HP 53/84
MP 25/60
MTK 46
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残りMPは『25』――。
今後、たとえ【魔導兵①】が《エンライト》を使っても三回行動はできない。できて二回行動が限界だ。
それでは魔王に致命打は与えられないし、この【魔導兵①】が少しでも頭が働くならこの戦いにおいて《エンライト》はもう使ってこないはずである。
光属性の持ち主ならきっと回復魔法が使えるはずで、私ならそっちにⅯPを回して勇者の援護に回る。だってそっちのほうが遥かに効率がいいから。
魔王のHPを200以上減らしただけでも大きな成果だ。【魔導兵①】の役割は十二分に果たされている。
それが証拠に――ああ、やっぱり。
ジェムとルッチの気力ゲージがⅯAⅩ状態。いつでも勇者スキルが使える状態だ。
そんで、やっぱりそれを狙っている。
魔王の足ではもう勇者スキルの射程範囲内から出ていくことが難しい。
私は素直に防御待機してターンを終えた。
「いいわよ。どっからでも掛かってこいっての。――後で死ぬほど後悔させてやる」
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魔王 LV.18
HP 484/802
MP 239/269
ATK 133
MAT 145
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アーク・マオニー(5) LⅤ.10
HP 99/99
MP 99/99
ATK 66
MTK 88
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ジェム LV.9
HP 580/580
MP 30/30
ATK 72
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ルッチ LV.8
HP 550/550
MP 44/44
ATK 67
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