光化
光線が荒野を一直線に閃いた。
『――何っ!?』
二本のレイピアが交差し、魔王の腹を十字に切り裂いた。
闇化したはずの肉体から鮮血が噴き出し、魔王にとって予想外のダメージを負わせた。
『馬鹿なっ!?』
光の速さですり抜けていったのはヒト型をした発光する物体。
立ち止まったソレは少女の像に形成されていく。
両手にレイピアを持ち、魔導兵の外套をはためかせ、毅然とした眼差しを幼さ残る容貌に湛えた麗しい少女。
ヴァイオラ親衛隊隊長リリナ。
推参。
「――魔王、覚悟!」
再び光が爆ぜる。
光線と化して瞬きの間に移動し、初撃を喰らって振り返った魔王の背後に現れた。
がら空きの背中を斬りつけ、またしてもダメージを負わせた。
『ずわぁあああ!?』
二刀流による一撃は背中に二本の直線を刻んだ。
光が闇を振り払い、その下に隠された本体に刃を届かせた。
『なぜだ!? なぜ余の返し技が発動しない!?』
《エンダーク/闇化》は敵のあらゆる攻撃を無効化・弱体化させ、自動的に反撃を加える迎撃型補助魔法。〝絶対防御〟を実現する最強の盾であったはず。
それなのに、なぜ光の少女の攻撃がこうも通用するのか。なぜ自動反撃が行われないのか。
再度、光の少女が移動する。
瞬きの間にかき消え、気配はやはり背後に。
「やあっ!」
三度目の攻撃には魔王もかろうじて反応した。
二本の剣先がローブを貫いて肉体に迫る。
刺突が本体に到達する直前、魔王の〝絶対防御〟が発動した。光の剣が闇を払って闇化を解除するのと同様に、闇の力が剣にまとわせた光をかき消した。
光と闇が相殺し、少女の攻撃は単なる物理攻撃に成り下がる。
『ぬうっ……!』
魔王の腹を二刀のレイピアが突き刺し、同時に魔王の蹴りが少女の腹を薙ぎ払う。
お互いに力の入らない態勢からの攻撃は、両者の間合いを外す程度の衝撃にしかならなかった。
光の少女の三度目の攻撃は両者痛み分けで終わった。
『おまえ、何者だ……っ!? 新たな勇者か……!?』
少女の発光が止む。
生身に戻るも、少女の勇壮な眼差しが曇ることはなかった。
「勇者じゃないわ! 私は王宮の魔導兵。一介の兵士にすぎない」
そして、柔らかな笑みを湛えた。
「昔から、魔王を倒すのは勇者の一刀だって決まり事、まさか知らないわけじゃないでしょ? 魔王さん?」
『――っ!?』
光の少女に気を取られて気づかなかった。
ジェムとルッチはすでに移動していて、魔王を挟み込む形で向かい合って立っていた。
図らずも戦闘開始時の立ち位置である。
気力を溜めて、勇者スキルの準備を整えていた。
「ったく! 余計なお世話だって言ったろリリナ! でもよお、時間稼ぎには感謝すんぜ……!」
ジェムは獰猛な笑みを浮かべた。




