ヴァイオラ親衛隊隊長リリナ
王宮兵たちが奮闘を見つめながら、リリナは【ヴァイオラ親衛隊】に入った当初のことを思い出していた。
――私、どうして隊長なんかになったんだろう。
【魔法の指輪】が反応してこの指に嵌まったあのとき、リリナの運命は大きく変わった。
最初は魔法の才能が天才的だったルーノが心配で、そばにいるために自らも魔導士になるしかないと思っていた。
実際そうだったし、適正する人間がごくわずかしかいない【光の指輪】を装備できたことでルーノと同等に重宝されることになった。
ルーノのそばにいる。その目的は達成できた。
でも、だからといって戦場に立ちたかったわけじゃない。
幼馴染のハルスやガレロが兵士になりたがっていて、自分にも何かできることはないかと考えて、そうしたら目の前に一本の道が自然と開いていって……。
兵士になりたかったわけじゃないのに。
戦場に立ちたかったわけじゃないのに。
ましてや、どうして隊長なんかになりたいって思うのよ!?
何もかもが裏目に出る。自分の意志に反して才能は開花し、魔導兵の中では誰よりも魔力の扱いに長けていて、昔からみんなのまとめ役ばかりしてきたことも祟って、自分でもどうかと思うくらい自然な流れで【ヴァイオラ親衛隊】の隊長に就任していた。
ヴァイオラの友人で信頼を得ているというのも大きな要素だ。アニは一も二もなくリリナを隊長に指名したし、ヴァイオラもあっさり承諾した。そして、リリナ自身も自分以外に適役はいないと思ってしまった。
かくして真面目だけが取り柄の隊長の出来上がり。
実力はあっても実戦経験のない小娘に託していい役職じゃないのに。反対するひとが誰もいなかったのもいろいろと問題だと思う。
不満は募るばかり。でも、親衛隊のみんなと過ごした日々の中で、隊長という役回りがしっくりくるくらい嵌まっていたことは自分でも認めている。人一倍正義感が強いことも、なってみて気づいた点だ。
――私には隊長の素質があった。私以外のみんな、その素質を見抜いていた。私だけが自分の才能を信じ切れずにいたんだ。
でも、今はもう迷わない。自分にできることをする。そうするって決めた。ハルスとガレロは誓ってくれなかった〝何があっても必ず生きて帰ってくる〟という決意を自分だけは守り切る。
何があっても必ず――みんなで生きて帰ってくる!
ガレロが言うような敵を殺し尽くす戦い方ではなく、味方を守り抜く戦い方。
それがリリナが到達した必勝法。
甘いと言われたって構わない。
理想は掲げなければ目指せないのだから。
自分の感情に嘘は吐けないし、一度こうと決めてしまえば吹っ切れたように邁進することができる。
みんなを守って、みんなと一緒に帰還する。
そのためには自らも命を懸ける必要がある。
――足手まといにならないように、自分で自分を守りつつ、勇者様を援護する!
リリナは自分に《エンチャント/付与》の魔法を掛けた。
==聞け! 光の精霊よ! 我を断罪する者よ!==
==内と外を繋げ、肉体を開き、魂に触れよ!==
==清めたまえ! 善なるものを迎え入れよ!==
==ローセル、アングル、シュール、ラングラン、コギュ、ラ、マルタ==
==紡げ――《エンチャントライト/光化》==
全身が淡い光を湛え、柔らかなきらめきを振りまいた。
手足を揺り動かすだけで光が尾を引いて中空に弾け飛ぶ。
見るも楽しく美しい変化にリリナの頬も思わず緩む。アニが編み出した応用魔法。
これだけなら素敵なのに、アニが開発し実現させたこの効果はどんな魔法よりも殺傷力が高かった。
――こんなふうに使いたくないけど……っ!
王宮兵の数が減ってきたところでジェムとルッチが戦いに割り込んできた。アーク・マオニーを二体倒し、魔王に対しても勇者スキルでダメージを与えた。
隙間ができる。
ジェムとルッチの連携攻撃の合間を狙って、リリナも攻撃を開始した――!




