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姉妹の実力②


 身を低くして懐に入り腹と顎を打ち抜くコンボがジェムの得意な立ち回りである。


 背丈が低い少年悪魔に対してもやることは変わらない。


 股が地面に接着するほどの開脚からどのような原理かバネ仕掛けのように跳ね上がり、アーク・マオニー④の体を大振りのアッパーカットで正中線に沿って真っ二つに断裂する。


 手応えこそあったが実体をもたない影悪魔の分身は陽炎の如く揺らめいて消えた。死体がなければ倒したという実感もまたない。


 先ほどは影爪による攻撃で肩を切り裂かれて負傷してしまい、見た目だけならジェムのほうが手負いに見え、それが尚更許せない。


 遠くでルッチも似たような攻防を繰り広げていた。


 ルッチも影爪を喰らい、腹を裂いたのか服の腹部が赤く染め上がっている。


 何度目か、口いっぱいに溜めた空気を弾丸に変えて吹く《エアキャノン/空気砲》が少年悪魔の小さな的に直撃した。


 アーク・マオニー⑤はやはり影となって消えていき、勝ったルッチのほうが消化不良で表情を曇らせている。


「ルッチ!」


 大声で呼ぶと、顔を上げたルッチが「うん!」と大きく頷いた。


 言葉にしなくても通じる。ジェムが何を思いつき、何をしようとしているのか。


 ルッチは何の迷いも見せずに走り出し、ジェムが行こうとしている地点に先回りする。


 頬をぷっくり膨らませると、フッ! と、《エアキャノン》を吹き出した。走りこんでくるジェムに正面からぶつかる軌道で飛んでいく。


 圧縮したエネルギーの固まりは空気であっても色があり物体として視覚化される。一抱えほどの球体がジェムの足に直撃する――その瞬間。


「オラァアア!」


 走行姿勢から振り抜いた右足が、向かってきた《エアキャノン》を蹴り飛ばした。


《エアキャノン》は萎むことなく、跳ね返りの衝撃を上乗せし威力を上げてジェムが調整した弾道を一ミリのずれもなく突き飛んでいく。――的にした魔王目掛けて。


『ほう?』


 魔王はその場から微動だにせず片手を正面にかざした。


《エアキャノン》を受け止めるつもりだ。


《闇化》した肉体にどれだけダメージがあるのか。そもそもダメージを受けるのか。魔王自身、確かめたかったのだ。


 我が身がどれほど強いのか。


『試させてもらおうか』


◇◇◇


 魔力を用いない無属性の《エアキャノン》は物理攻撃と同じであり、本来なら《闇化》した肉体をすり抜けていく。


 だが、それが勇者の放った一撃ならば話は変わってくる。


 勇者には基本的に光の加護が付属される。たとえ物理であっても魔族が相手ならば魔を滅する光属性魔法の効力を有することになる。


 片手で《エアキャノン》を受け止めた。


 ズドンッ! と爆音が轟き、大気は震え、衝撃波が地面を裂いた。推進力に押されて踏ん張る踵が地面をえぐる。


『オォオォオオオ!』


 魔王は雄叫びを上げながら受け止めている手のひらを閉じていくと、やがて《エアキャノン》を握りつぶした。


 パンッ! という弾ける音と共に破裂した空気の固まりが鋭利な真空波となって周囲を切り刻む。


 魔王のローブを切り裂き、その下に隠された隆々とした肉体をさらけ出したのも一瞬で、すぐさまローブは元の形に再生した。


《エアキャノン》は完全に消滅し、見た目にも魔王は手傷を負っていない。


「さっすが魔王様♪ 勇者の必殺技も無効化するなんてさすがだね♪」


 アーク・マオニーが絶賛するが、魔王は苦笑しながら『いや……』と首を横に振った。


『あの者どもはなかなかやる』


『ジェムとルッチの合体技がさく裂!

 魔王にダメージを与えた!』

『56』



―――――――――――――――――

 魔王  LV.18

     HP  746/802

     MP  249/269

     ATK 133

     MAT 145

―――――――――――――――――



『フフッ。防御待機していなければこの倍以上の手傷を負っていたであろうな。余の目に狂いはなかった』


 痺れた右手を見下ろして、魔王は肩を揺らして笑った。


『奴らの実力は本物だ。嬉しいぞ。ますます余の目論見通りに進んでいく』


◇◇◇


「――けっ! んだ、あの野郎! やせ我慢しやがって!」


「やせ我慢? だ、だよね!? あたいたちの攻撃が効いてないなんてことないッチよね!? ね! ジェム姉!?」


「……ああ」


 効いてはいる。だが、大して効いちゃいない。


 魔王にしろ、側近の悪魔にしろ、自分たちの攻撃がことごとくいなされているみたいで気持ち悪い。押しているのは果たしてどちらなのか。


 勝っている気がしない。


 こんなことは初めてだ。


「気圧されんなよルッチ!」


「う、うん!」


 自分にもそう言い聞かせ、ジェムは再び走り出した。



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