見とけ
第一章第四ステージ『王都アンハル~勇者討伐~』
南門〈荒野〉フィールド。
このバトルフィールドには他の門フィールドにあったような特殊性はない。バリアに守られてもいないし、暗闇に覆われているわけでもない。
だだっ広い荒野が広がっているだけ。
木や岩が障害物としてあるにはあるけど、数が少ないから邪魔になることはない。無視してもいいレベル。逆に言うと、身を隠すこともできないのでピンチになったら凌ぐことが難しくなる。
地形に高低差はなく、全体的にフラットだからどんな攻撃も接近すれば必ず届く。
そして、天候は小降りの雨。
でも、それでステータスに影響があるかといったら皆無だ。川とか海の水フィールドとか、大雨が降った後みたいな沼地フィールドだと移動距離が短くなったり、飛行スキルがないとそもそも移動できなかったりするけれど、そういった弊害はこの〈荒野〉フィールドには存在しない。
フィールドの有利不利はない。
それはつまり、ステータス上の数値のみの戦いということになる。
……まあ、確かに地形によるハンデはない。でも、それを帳消しにして余りある有能スキルがあっちの勇者ジェム&ルッチにはある。むしろ、それが強力すぎるからフィールドの特殊性を消したんじゃないかとさえ思っている。
さらに、姉妹のコンビネーションもなかなかに手強い。
近距離パワータイプのジェム。
中距離スナイパータイプのルッチ。
基本スタイルはこうだが、二人の役割は頻繁に入れ替わる。ジェムが中距離から拳圧砲撃を放ち、接近してきたルッチが怪力パンチを繰り出すパターンもある。
厄介なことに二人とも移動距離が長く、ターンが回ってくるのも早かった。機動力を活かして攻撃の的を絞らせない。ジェム&ルッチの本領はそのスピードにあるのだ。広い〈荒野〉フィールドを縦横無尽に駆け回る二人を捉えるのはそれだけで一苦労だ。
そして、バトルスタート時の配置もまた地味にプレイヤー泣かせであった。
フィールドの中央にプレイヤー側キャラが配置され、その周りを王宮兵が取り囲み、ジェムとルッチがその輪の外側で向かい合って立っている。王宮兵の初期位置はプレイヤーから割りと近く、すぐに攻撃を仕掛けられるので、まず王宮兵を相手にしなければならない流れになる。
避けられない前座は無駄に体力を消費し、いざ勇者と相対したとき削られたHPとMPが後々ボディブローのように効いてきて、プレイヤーの足を引っ張るのだ。
単純だが、それ故に誤魔化しが利かないのが『南門ステージ』の特徴である。
正攻法でしか打ち破る手段はない。
「――って、ちょっと前の私ならそう思っていたかもね」
既プレイ済みのゲームで先の展開も知っているからこそ見える攻略法がある。最短のルートで最大効率を得る最善策。そんな確実な方法など存在しないが、それに近づける作業こそがプレイヤーに課せられた『攻略』であろう。今ある手駒と情報とアイテムを駆使して負けない戦いをしていく。その繰り返しの果てにエンディングが待ち受ける。
苦労した分、感動もひとしおだ。
たとえ改変されたゲームであってもそのポリシーだけは無意識のうちに守られてきた。お兄ちゃんとの戦略バトルがメインになったならそのつもりで『攻略』すればいい。難易度がちょっぴり上がっただけ。やることは依然として変わらない。
でも、
「やれることが変わったんなら話は別だよね」
『攻略』はする。けど、手段は選ばない。
強いままニューゲームの醍醐味はそのチートっぷりを出し惜しみすることなく本編を蹂躙することにある。
やっと気づいた。
私は私のままで魔王をこなせばいい。
劇中の魔王の状態に合わせる必要はない。
二週目の魔王を演じればよかったのだ。
「行くよ、お兄ちゃん」
蹂躙してやるよ。
見とけ!
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魔王 LV.18
HP 802/802
MP 269/269
ATK 133
MAT 145
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アーク・マオニー(5) LV.10
HP 99/99
MP 99/99
ATK 66
MTK 88
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ジェム LV.9
HP 580/580
MP 30/30
ATK 72
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ルッチ LV.8
HP 550/550
MP 44/44
ATK 67
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王宮兵(5) LV.13
HP 220/220
MP 0/0
ATK 55
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魔導兵(2) LV.10
HP 84/84
MP 60/60
MTK 46
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