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二人で一人


―――――――――――――――――――――――――

 第一章第四ステージ『王都アンハル~勇者討伐~』


 ―南門の戦い―

 勝利条件【勇者ジェム&ルッチの撃破】

―――――――――――――――――――――――――


◇◇◇


 南門を守る勇者ジェムとルッチは、ある意味、最も攻略しにくい相手である。


 北門を守っていたサザン・グレーは良くも悪くも融通が利かず、上からの指示である『門の死守』を頑なに遂行しようとした。


 東門のオプロン・トニカはそもそも武人でないこともあり、臨機応変に対応できずにいた。


 西門の神父とシスターは籠城する形で敵を迎撃する戦法を取り、やはり守りの姿勢を貫いた。


 門の破壊を目的としていた魔王軍にとってこれら勇者はやりにくいことこの上ないが、勇者の撃破のみを目的とするなら動かない標的は攻略においてそれほど難しくない。一度や二度の交戦で無理でも、波状攻撃を仕掛けていればいずれは首が取れるのだから。


 最も倒しにくいのは常に動き回る相手である。


 門も民も守る気がないジェム&ルッチ姉妹は、南門を背後に陣取ろうという意識がそもそもない。


 ――門を壊したければお好きにどうぞ。


 ――民を殺したければいくらでも。


 ――その代わり、その無防備な背中を狩らせてもらう!


 偵察に出した魔王軍の斥候部隊は姉妹の遊撃行動によりことごとく全滅させられた。姉妹は門から離れた草原の中に潜伏して南門に向かう魔王軍を背後から急襲し、時には魔王軍の本拠地であるハザーク砦に攻め込むこともあった。翻弄し撹乱し、戦果を挙げれば深追いすることなくあっさりと引く。あくまで利己的であるが故の身軽さだった。


 姉妹の行動が把握できない要因の一つに彼女らの持つ固有スキルがある。肉弾戦を好む姉妹は魔法がからっきしで、魔力を感知させる余地はなく、亜人特有の高い身体能力と勇者覚醒によって底上げされた潜在能力が攻防の一切を惑わし次手を予測させない。圧倒的な膂力で身の丈三倍はあろうかという魔獣を一撃のもとに粉砕し、快哉を上げて逃げの一手に転じる変わり身の早さは狂人のようにも見える。


 二人のコンビネーションはまさに阿吽の呼吸と言えるもので、視線すら交わさずに連携を取る様は心が通じ合っているか元々一人の人間が二つの肉体に分かたれたのかと思わされる。どちらか一方に気を取られた瞬間、片割れが容赦なく襲い掛かってくる。回避は不可能。防御も意味を為さない。ならば反撃に撃って出るも、避けるのも姉妹で互いの体を押し引きして助け合う有様だ。まさしく一心同体で、二人揃って単一の勇者と言っても過言ではなかった。


 二人で一人――そのことを示唆する逸話がある。


 亜人で格闘家の姉妹であっても、勇者覚醒前は稼業において危うく命を落としかねないような事態に何度も陥っていた。


 この話もその一つ。追っていた賞金首を姉妹で挟み込んだときのことだ。


 妹のルッチが反撃を受けて、その胸に深々と剣が突き刺さった。賞金首を取り逃がし、ルッチの命も風前の灯火。姉のジェムは覚悟を決めると横たわるルッチの心臓から剣を引き抜いた。


 不可解なことが起きた。今まさに命が尽きようとしていたルッチの胸の傷が逆再生するかの如く塞がっていったのだ。しばらく横たわっていたルッチの顔にも次第に血色が戻り、一時間も経つ頃には重傷を負わされたのが嘘だったように回復した。


 反対に、姉のジェムが体力を消耗してうずくまった。その様子を偶々見ていた行商人の口から口に伝わり広まった噂では、ジェムが瀕死のルッチに生命力を分け与えたのであろうという憶測に帰結した。


 命を共有する姉妹。一心同体。


 文字通り、二人で一つの命を繋いでいた。



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