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鬲皮視霆榊・ウ蟄蝉シ?(莉ョ)③--SYSTEM ERROR:[魔王軍女子会(仮)③]


「誰って、魔王だけど?」


『……そうなんよな。おまえは魔王様。それは絶対に揺るがない――ってのに、いやだからわけわかんねーっつーか』


「はあ?」


 ナナベールは困った顔して言いにくそうにしている。


 そして、意を決したように口にした。


『今うちには魔王様の声が女の子の声に聞こえるんだが、これってどういうことなん?』


「え?」


『喋り方も違うし、自分のこと「余」って言わんし。いつから入れ替わったんだ? ……いや、そうじゃねー。そうじゃねーはずだ。魔王様は魔王様だ。この気配は間違わない。魔王様は何も変わっちゃいねー。変わったのは――うちの認識か?』


 どくん、どくん、どくん、どくん。


 心臓の鼓動が痛いくらい早くなる。


「も、もしかして、ナナベールには私の声が聞こえているの? この声が?」


『おう。ばっちりな。「私」って言ってる。おまえ、女の子なんか?』


「う、うん。性別は女だよ」


『だよな。十代半ばの人間の声だ。うちの姉ちゃんがそんくらいの年齢だったから近いもん感じる』


 嘘。すごい。すごいすごい!


 ゲームキャラが現実の「私」を認識してくれた!


 キャラクターとしての魔王じゃなくて、この私を!


「いつ!? いつから気づいてたの!?」


『気づいたのはついさっきだ。……ん、どうだろな。ずっと前からその声と口調だった気もする。迷いの森でうちのこと誘ったのもおまえ?』


「そうだよ! ずっと一緒に戦ってきたのも私だよ!」


『そっか。なんだかなぁ、変な感じがするぜー』


「え? どして?」


『だってよぉ、魔王様が女で子供だなんてよー、想像してなかったしよー』


「……もしかして、やる気なくなった?」


『んー。今はまだ何とも言えん。いきなりだったからなー。なんか、話してるうちに段々魔王様の声が女の子の声に聞こえだして、そしたら口調も変わってよー。記憶の中の魔王様ってどうだったっけ? って思って、百年前のこと思い出してみたんだわ。まああれだ。ビックリしたってのが正直な感想だな』


 そっか。


 いやまあ、そりゃそうなるか。


 あんないかつい恰好した魔王が実は女の子だったなんて知ったらそりゃ――


「ちょっと待って! もしかして、私の姿も見えてたりする!?」


 私は思わずポータブル機のカメラレンズを覗き込んだ。もしかしたら、こっちの世界が向こう側にも見えているのかもしれない。


『私の姿って何だよ? 魔王様は魔王様だぞ?』


「えっと、違くて……。女の子に見えるかって話」


『いや、今までどおりの魔王様だな。黒いローブ着て頭まですっぽり隠してる』


 ということは、正しく認識されているのは声と口調だけってことになる。


 ちょっと残念。魔王が私みたいな女子中学生って知ったらみんな絶対驚くのになあ。


 あ、でも、折角会えるのにデカTにパンツ一丁はまずいか。魔王としての威厳がないし何より恥ずかしい。


『で? 女のおまえも魔王様なんはわかったけど、以前の魔王様はどこ行ったん?』


「え? えっとそれは……」


 うーん。なんて説明すればいいんだろう。


 魔王っていうキャラがゲーム世界に存在しているのは事実だけど、それを操っているのが私なわけだから、魔王=私って構図になるんだけど。でも、正確には「私」ではないわけで。


 ナナベールがいる世界がゲームだって教えるわけにもいかないし。……いかないよね?


『二重人格みたいなもんけ?』


「んー、ちょっと違うかな。そこにいる魔王に私が乗っかってるっていうのかな。私が代わりに魔王を操ってる感じなんだけど。でも魔王にも自我はあって」


 シミュレーションパートでは当然プレイヤーが操作するわけだけど、イベントに登場する魔王にはちゃんと性格があって自分の意志で行動しているし、きちんと声も付いている。声なし立ち絵なしの無個性主人公ってわけじゃないのだ。


『魔王様はおまえのこと知ってんの?』


「え? さあ? そういえば、考えたこともなかったな」


『……』


 ナナベールが目を閉じて考え込む。


 しばらく黙っていたかと思うと、つまり、と口を開いた。


『おまえは高次元の存在なんか? 魔王様の目を通してこの世界を見て、魔王様の口を通して指図する。そういう存在か? たぶん、この世界の神よりも上の存在……』


「わっ!」


 すごい! よくわかんないけど当たってる気がする!


「なんかそんな感じだよ! たぶん!」


『で、魔王様はそのことに気づいてねーんだな。でもそれはおまえが魔王様の考えに則った行動を取っている証拠でもある。魔王様の意志に反する行動を取っていたら魔王様ならすぐに気づくはずだもんよ。おまえは魔王様であって魔王様でない存在。で、そっちの世界のおまえは十代の女の子。きっと、そっちで別の名前があるんだと思う。偉い立場にあるのかどうか知らんけど、少なくともうちらより遥かな高みにいる存在だ』


 めっちゃ当ててくるじゃん。思わず感心しちゃう。


「ナナベールってやっぱり頭いいんだね……」


『おまえはバカそうだけどなー』


「なにおう!?」


『でも、魔王様なんだよな。うちの耳がおかしくなったってだけで、本質は以前と変わってねーってことか。ま、それだけなら問題なさそうだ。んじゃま、これからもよろしくっつーことで』


「え……? えっと、そんなんでいいの? そんなあっさり受け入れちゃえるもの?」


『だってよぉ、うちの手に負えることじゃねーもん。だったら受け入れちまったほうが簡単だわな。楽だしよー』


「楽って……」


 そんなんでいいわけ?


『あ、でもよー。気を付けたほうがいいぜー。世界征服っていう目的は一緒なんだろうけど、魔王様とおまえとじゃ全然違うところが一個だけある』


「え!? な、何それ!?」


「うちらに干渉し過ぎてるところだ。魔王様は自分のこと導だって言ってよー。導くことはしても教えたり助けたりはしねーんだ。でも、おまえは逆。変なこと知ってるし教えてもくれる。それで助かったことは何度もあるけど、魔王様は絶対にしねーから。他のやつに怪しまれたくなかったらそこんところ気ぃつけなー」


 なるほどね。それは盲点だったわ。


 ある意味、私の存在に最初に気付いたのがナナベールでよかった。ほかの幹部だったらきっと大騒ぎになってたところだ。


「わかった。気を付けるね。あんがと、ナナベール」


『おう。せいぜいめんどくせー事態にならんようにがんばれなー』


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