仲間
プレイ画面で、瀕死のナナベールに近づいていくべリベラ・ベル。
もはや光を失った祭壇上にはクニキリとパイゼル。
暗闇で見えないが、そのちょうど中間あたりに魔導兵三人が固まっているはずだ。
コントローラーを強く握りしめて、思わず叫んだ。
「んだよそれぇ! 殺すと発動するとか、サンポーのスキルってそんなんじゃなかったじゃん!?」
ナナベールの作戦で、サンポーに勇者スキルを使わせる前にぶっ殺せて、やったぜしめしめ! って思ってたのにぃ!
何で発動しちゃってんの!?
しかも、回復だけじゃなくてナナベールに呪いまで掛けてる!? こんなの聞いてない! そんな能力じゃなかったじゃんか! 詐欺だ、詐欺!
それとも、ナナベールが相手だから?
正規版でもナナベールが相手だと起きる特殊イベントだったりするのかな?
「って、考えても仕方ない! 今はこの状況をどうにかしないと! ――ナナベール、聞こえる!? 大丈夫なの!? ねえ!?」
『――お、おお。魔王様かよ。聞こえてるからそんな大声で喚くなっつーの』
「よ、よかった。思ったより平気そう」
『平気じゃねえっつーの。体中の骨が歪まされていってる……。これ、マジでやばいぜ……』
「そんなっ」
いつも飄々としているナナベールがこんな弱弱しい声を出すなんて。
本当に追い詰められているんだ……
「ど、どうすればいいの!?」
『うちが死ぬ前にこの戦いを終わらせる。それっきゃねーだろーな』
至極真っ当な回答だった。
ていうか、それしかない。戦いさえ終われば掛けられた呪いは解ける。それがこの手のゲームの基本だ。
『けどよ、あのシスターの姉ちゃん、神父のおっちゃんより強そうだぜ? 短時間で倒すの厳しくね?』
しかも、べリベラ・ベルの体力は全回復している。倒すのはより困難になった。
けど、それでもなんとかするしかない。
べリベラ・ベルを数ターン以内に殺すんだ……!
「待ってて、ナナベール。私、あんたをこんなところで失いたくない」
『へへっ。そりゃま、優秀な部下は惜しいわな』
「それだけじゃないよ! なんかさ、一緒に作戦練ったりしてさ、あのとき本当に仲間って感じがしたんだ。……私、リアルに友達いないし。ネットにもだけど」
『……』
「だから、ナナベールだけは死なせたくない!」
ナナベールの立ち絵が『へえ』と意地悪そうに笑った。
『んじゃま、よろしく頼むわ魔王様。うち、今考えるのもしんどいからよー、作戦は任せたぜ。魔王様の言うとおりに動いてやる。そんでさっさと決着つけろよな』
そうして、ナナベールの立ち絵が消えた。
「任された!」
プレイヤーだからとか、魔王だからとか関係ない。
死なせるものか。
ナナベールは絶対に死なせない!
「クニキリ! パイゼル! 聞いて! すぐにナナベールのそばに行って! ナナベールを守って!」
『御意!』
『はいぃ!』
「ナナベールはべリベラ・ベルから距離を取って!」
『……そりゃ無理だ。うちの両足、もう使いもんにならんもん』
くうう……
一番救いたいナナベールが『行動不可』なんて……
このままだとあと一ターンでべリベラ・ベルの攻撃を喰らってしまう。
ナナベールに魔法は効かないからたぶん直接攻撃を仕掛けてくると思う。
ナナベールのHPの残量から逆算して……サンポーの呪いでターン終わりにダメージを負うとして……べリベラ・ベルの攻撃力がああでこうで……希望的観測で猶予は――たったの二ターン……!
この二ターン内に活路を見い出せ!
「…………」
なんとかなるかも?
いやでも、苦しいか? さすがに無茶な作戦だ。一か八かどころか、奇跡が起きるのを願うレベル。
でも、これしかない。これまでにも何度か見てきた『ご都合主義』が今ここでも発生してくれたらこのステージを乗り越えられる……!
賭けるしかないっ!
「クニキリ! 移動先変更! ナナベールのそばじゃなくて魔導兵のトコに走って!」
『しかし、それでは』
「いいからっ! そんで、魔導兵①を攻撃して!」
『……』
沈黙が流れる。
クニキリにも私がしようとしていることの意図が掴めたようだ。
『この暗闇ではどいつが魔導兵①なのか判別できませぬが』
「大丈夫。あいつらは固まってるはずだから。範囲攻撃すれば全員に当たる」
『拙者の範囲攻撃となると――《火遁の術》しかござらぬが、おそらく奴らに大した傷は負わせられぬかと』
「いいよ、それでも。とにかくべリベラ・ベルを動かす。ナナベールから離せられればそれでいい。んで、パイゼルもクニキリに付いて行って。魔導兵に手あたり次第攻撃ね。魔導兵①じゃなくてもいい。場を引っ掻き回せ!」
「了解です!」
「で、最後にナナベール。あんたにもやってもらいたいことがある。まずポーションで回復して。それから――」
無謀な賭けを口にする。
案の定、ナナベールから否定的な言葉が返ってきた。
『無理だろ、そんなの。うちに何を期待しとんの?』
「無理じゃない。今はまだレベルが足りないからできないってだけで、でもいずれはできるようになる。気合と根性でなんとかしてみせてよ!」
『なこと言われてもよー。詠唱の呪文忘れちまったしよー』
「……詠唱の呪文さえわかればできるの?」
『あー、……たぶん』
だったら、いける。
今ネットで調べてもいいんだけど、私の頭の中にその呪文は色あせずインプットされている。
だってカッコイイ詠唱だったから。
厨二ゴコロを刺激するもので、事あるごとに詠唱してたから覚えてる。
いける……!
「ナナベール! 私と一緒に詠唱して! そんで、ぶっ放せぇ!」
俄然、やる気が出てきた!
私はついに、私の詠唱で魔法を繰り出すときがきたんだ!
見てろよーっ、べリベラ・ベル! お兄ちゃん!
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ナナベール LV.15
HP 115/400
MP 335/390
MTK 77
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クニキリ LV.15
HP 235/526
MP 40/40
ATK 99
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パイゼル LV.13
HP 112/680
MP 80/100
ATK 101
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ベリベラ・ベル LV.17
HP 600/600
MP 156/200
MTK 93
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