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阿修羅


「くぅ……!」


(まんまと罠に嵌まってしまいました。皮肉ですねえ……。この私が偽物に引っかかるなんて……)


 だが、奴らは失念している。《セントファイア》の魔法はいまだほつれていなかった。詠唱に時間を掛けたことで持続力が生まれ、編まれた魔力はそのままだ。《セントファイア》を撃つことはまだ可能――!


(オマヌケさん! 暢気に解説している場合じゃないですよお! くたばりなさい!)


 外すことも躱すことも不可能な至近距離。


 クニキリに向けて、いざ、《セントファイア》を――、


「――っ! ッッッ!?」


 神父は棒立ちのまま、指先をぴくりとも動かすことができなかった。


(魔法が……撃てない!? な、何が……起きて……!?)


 クニキリが溜め息交じりに言った。


「麻痺毒だ。折角気配を隠して接近したってのに、何の策もなく姿を現すわけがないだろう。拙者の攻撃ではテメエを一撃で殺すのは難しいんでな、しばらく動けなくしてからなぶり殺しにするしかない。油断なんざしてねえぜ。解説してやったのは毒が回るまでの時間稼ぎだ」


 クニキリが印を結ぶ。


 周囲ににわかに霧が掛かり、神父ごと亜空間に移動した。


 そこはクニキリが展開した心象世界。


 見渡す限りの野原。


 空には満月が浮かんでいる。


 朧に雲が掛かり、遮られた月光が一筋の糸となって地上に降り注ぐ。


「こ、ここは一体――!?」


 戸惑う神父の目の前で旋風が巻き起こる。


 木の葉が渦を巻くその中心にクニキリの影がボウと浮かび上がった。


 黒衣から覗く眼光は赤い尾を引き、血の通わない無機物めいた殺意を振りまく。あたかも人斬り用にこさえられた刃の如く。


 見栄えも装飾も削ぎ落とした単なる兵器としての絡繰り人形。


「今生の暇乞いあらば今申せ。死後に誉れを咲かすがいい」


 唖然とする神父の無言を辞世と受け取り、クニキリの体が深く低く沈み込む。


 眼前に構えた二本指を小刻みに振り、最後の印を完成させる。


「――――」


 虚空に大小様々な手裏剣が無数に出現した。


 黒く鈍い鉄器が月明かりを反射し、星々の如く燦めき神父の頭上を回天する。


 周回しながら手裏剣自体も独楽のように回転すると、獰猛な唸りを上げて一斉に射出された。


 範囲内にいる敵を一網打尽にする手裏剣の雨霰。


 間断なく容赦なく、結界内に閉じ込めた神父を縦横無尽に切り刻む――!


 固有スキル《魔忍殺法・阿修羅》


 サンポー・マックィンに大ダメージを与えた!

『202』


 手裏剣の猛威を全身に受けて、神父の体が藁くずのように空中に投げ出された。


「――――ぐああっ!」


 落下した床は礼拝堂内の祭壇上。


 心象世界から現実へと送り返され、元いた地点へと落とされたのだった。


「ぐ……うぐ、う……ッ」


 なおも立ち上がる神父に、クニキリは本心からの賛辞を口にした。


「大したもんだ。戦士でもないくせによく折れずに立ち上がる」


「……ぃ、いっひっひ。当然じゃあないですかぁ。だって、私は神父サンポー・マックィン。勇者なのですからねえ」


 だが、体は麻痺毒に侵されて思うように動かない。


 魔法を練ることはおろか移動もままならない。


 立ち上がれただけでも奇跡であった。


 不運は続く。立ち上がった正面では、遅れて駆けつけたパイゼルが今まさに攻撃を繰り出そうと構えていた。無理せず立ち上がらなければ的にならずに済んだかもしれないのに。


(いやはやまったく。らしくないことはするもんじゃないですねえ。こういう場合、死んだフリでもしているほうがまだらしさがあったってもんですよ)


「私の番です!」


 パイゼルの攻撃!

 サンポー・マックィンにダメージを与えた!

『88』


 右ストレートが顔面を捉え、鼻の骨と歯が数本折れた。


「ぴぎゃ!」


 パイゼルに掛かっていた固有スキル《バーサク/狂化》のバフが切れていたのは幸か不幸か。威力が元に戻ったことで、一撃で済んでいたはずの攻撃を何度も受ける羽目になる。その前に麻痺が治れば良いのだが、それを座して待ってくれるほど魔忍もお人好しではない。


 クニキリが小太刀で斬り付ける。


 刃先に縫い込んだ麻痺毒が重ねて体の自由を奪った。


 クニキリの攻撃!

 サンポー・マックィンにダメージを与えた!

『51』


 連撃!

『27』



―――――――――――――――――――――――――

 サンポー・マックィン  LV.12

             HP  127/720

             MP   55/210

             MTK  55

―――――――――――――――――――――――――



「ぎゃふん! ――――はあ、はあ、はあ、はあ」


 かろうじて踏み止まる。神父はもはや満身創痍であった。


 遠くからナナベールが語りかける。


「おっちゃんの敗因は戦闘開始時に魔法をバンバン撃たなかったことだぜー。もったいぶってんのか出し惜しみしてたんか知らんけど、うちらが祭壇に近づく前に《エンジェルラダー》を連発していれば今頃ピンチだったのはうちらのほうだっただろうぜ。つまり、おっちゃんらは初手から躓いていたってわけだ」


 神父は鮮血に塗れながらも、いっひっひ、と愉快そうに笑った。


「……それだけじゃないでしょう。私たちにとってもあなた方は相性最悪だったんですねえ。補助魔法が得意な赤魔女に、闇の住人である魔忍。私たちの強みをことごとく打ち砕いてくれました。ええ、ええ、もうサイアクですよお」


 他にも因子はあるのだろうが、たとえそれらがすべて欠けていたとしても結果は変わらなかったような気がする。


 この身が勇者に……いや、そもそも神父になってしまった時点でろくな死に方はしないだろうと思っていた。


 そうとも。神は見ていたのだ。


 だからこのような最後をお与えになった。


「自業自得……。いえ、因果応報ですね」


「御免!」


 懐に潜り込んできたクニキリが二刀を交差させるように斬り付けた。


 サンポー・マックィンにダメージを与えた!

『36』

『35』



―――――――――――――――――――――――――

 サンポー・マックィン  LV.12

             HP   56/720

             MP   55/210

             MTK  55

―――――――――――――――――――――――――



「ごはあっ! ――――ふひっ、いっひっひ! 集中攻撃ですか! 麻痺で動けない人を相手に! 容赦ないですねえ! さすがは魔族!」


 負け惜しみの悪態も、赤魔女に「褒めるなっての! 照れるじゃねーか!」と軽くいなされた。どこまでも性悪。さすがは赤魔女。


「もはやこれまでのようですね……」


 いつもの癖で無意識に懐に手を入れる。そこにあるはずの毒酒の瓶の感触がなくて、サンポー・マックィンは思わず苦笑した。


「戦いってことで自重しましたが、こんなことなら一本くらい忍ばせておけばよかったですねえ」


「――やれ、パイゼル」


 クニキリが命じ、パイゼルが渾身の一撃を神父に放った。


「おりゃあああああ!」


「ぶへえっ!」


 クリティカルヒット!


 殴りつけた顔面を勢いそのままに地面に叩き付けた。


 頭蓋が砕ける音がした。



【神父サンポー・マックィン】をやっつけた!


◇◇◇


 ぃよっしゃーっ! 見たかオラァ! これが私の実力よお!


 ……いやまあ、半分はナナベールの作戦のおかげなんだけどね。


 ゲームキャラがプレイヤーに指示するとか何なんだろうね。面白いからいいけどさー、ちょっとモヤるのは何でだろう。


 ま、いいや。


 兎にも角にも、これで勇者ひとり脱落だ。


 あばよ! 神父さん! バイバイプーッ!



お読みいただきありがとうございます!

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