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狂化


 神父がゴーレムハンドに気を取られているうちにパイゼルは祭壇を下りていた。


 ナナベールの指示はこうだ。


〝神父がゴーレムハンドに攻撃すりゃ暗闇は晴れる。そんときクニちーがどこいるか見っけて、急いで助けに行ってこい。うまくいったらあとでなでなでしてやっから〟


 ご主人様に褒められることはメイドにとって無上の喜び。


 しかも、なでなで付きときた。


(やるぞーっ!)


 パイゼルは俄然やる気を漲らせて礼拝堂内を駆けていく。


 クニキリがいるおおよその位置を目指して走る。そのとき、祭壇から《エンジェルラダー》の光が波のように広がった。


(いました! クニキリ様の姿が見えました!)


 床に描かれた魔方陣の中央に縛られている。エナジードレインの禍々しい魔力渦が足許からクニキリの生命力を奪っていた。


 奪われた生命力は床を辿っていき、青白い光となって術者の許へと流れている。あの先にシスターの勇者ベリベラ・ベルはいる。


 ベリベラ・ベルにダメージを与えれば、クニキリは解放されるはずだ。


(やってやるですよ!)


 ――ところで、攻撃の命中率の低いパイゼルが行ったところでベリベラ・ベルに攻撃が当たるのだろうか。


 その点においてもナナベールに抜かりはなかった。まだパイゼルと距離が離れていない時点で連携スキルを発動しておいたのだ。


 赤魔女ナナベールの部下パイゼルの固有スキルは《バーサク/狂化》である。


 バーサク状態のとき、一定時間、ステータスが異常上昇する。すなわち、『身体能力の強化』、『行動範囲の拡大』、『攻撃力倍加』、『防御力倍加』、そして――『攻撃命中率の百パーセント確定』だ。


 攻撃はすべてヒットする。


 しかも、攻撃力二倍の威力で。


 これが戦闘特化型アンドロイドメイド・パイゼルの戦闘時における固有スキルであった。


 ただし、《狂化》時は気分が異様に高揚しているため、三回に二回は命令を無視して勝手な行動をする。無差別に敵に向かっていくところは自ら召喚したゴーレムハンドにも通ずる特性であろう。


 いまパイゼルは『クニキリを助ける』という命令を一応理解しているが、行き当たりばったりで行動を変える恐れがある。


 ナナベールが心配するのはその一点のみ。こればっかりは部下レベルがどれほど上がっていて、どれほど【忠誠心】があったとしても関係ない。《狂化》は理性を失わせるのだ。


 だが、敵がそこにいるかぎり必ず攻撃を行い、絶対に命中させるその性質は、戦う気のない魔導兵には反応せずにまっすぐベリベラ・ベルに向かうはず。この状況、この瞬間においてのみ、パイゼルの固有スキルは最適解の動作だけを行うのである。


 わずか二ターンでベリベラ・ベルの魔法射程圏内に入れた。あと一回行動でベリベラ・ベルに接触できる。クニキリを拘束しているかぎりベリベラ・ベルも今の場所から移動することはできず、暗闇に覆われていても一度把握したその場所を間違うことはない。


 もう近い。


 拳をギュッと握り込む。


 もはや息遣いすら聞こえてくる距離まで近づいて、次の一歩で肉薄できるというまさにそのときだった。


 パイゼルの移動を阻む影が暗闇に潜んでいた。


 長椅子の通路は人ひとり分しか通ることができず、通せんぼするように配置されたソレがいる以上、パイゼルは奥に進むことができない。


 通路最奥にいるベリベラ・ベルに辿り着けない。


「な、何なんですか!? あなたたちは!?」


 三人の魔導兵がパイゼルの行く手を阻んでいた。


 先頭に立って魔法の杖を構えるのは年端のいかない少年だった。


「この先には絶対に行かせないよ!」


 勇敢なる宣言。


 言霊に力が宿っていたのかパイゼルは思わずたたらを踏んだ。


 少年はニコッと無邪気に笑った。



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