土塊の狙い
ナナベールは魔王にテレパシーを送った。
「なーなー、魔王様よー。神父のほうは一旦放っておいてよー、ちょっくらクニちー助けに行ってもいいか? うちのパイゼル送ればなんとかなんだろ」
『……余も思っていたところだ。それにしても、神父と戦っている最中によく見ていたものだな』
「うちは所詮後衛だしな。前衛のパイゼルにそんな暇はねーだろーけど」
神父が《エンジェルラダー》を放つ度に礼拝堂内が明るく照らし出される。そのとき、反射的にフィールド内を見渡していた。ここが敵地であり常時闇に覆われているので警戒はするし、少しでも戦況を確認するのは当然のことだ。
そのおかげと言っては何だが、クニキリの窮地に気づけたのだ。
『しかし、ナナベールも意外と仲間思いだったのだな。クニキリを助けたいと言い出すとは思わなかったぞ』
(うーえっ。どうしてそうなるかなー)
『ちげーって。クニちーがいないとこの作戦成り立たねーんだわ』
『ほう?』
「うち、いいこと考えたんよ」
『申してみよ』
(魔王様って魔王を名乗ってる割にはめちゃくちゃ幹部の言うこと聞いてくれるんよなー。変わってるっつーかなんつーか。全然偉そうじゃねーんだ。魔王なのに。ま、うちはそっちのほうが好きだけどなー)
説明し終えると、魔王は上機嫌にその提案を受け入れた。
『よかろう。ナナベールの好きにするといい』
「おう! 魔王様も絶対気に入ると思ってたんよなーっ!」
敵の裏をかく。しかも、ほとんど騙し討ち。
これこそ魔王軍の真骨頂。
「これで勝負を決めちゃる! ――パイゼル! ゴーレムハンドを召喚しろい!」
「あっ、はい!」
《ゴーレムハンド/土塊》は土属性の低位地撃魔法だ。
攻撃特化型自動土人形を生み出し使役する召喚魔法。
==聞け! 土の精霊よ! 我を束縛する者よ!==
==中心を保ち、我の肉体を支えよ!==
==星星の廻転を拡げ、支配を崩せ!==
==ローセル、アングル、シュール、ラングラン、コギュ、ラ、マルタ==
==紡げ――《ゴーレムハンド》!==
パイゼルを守護するように、あるいは迫り来る神父を阻むようにして、手型の巨大な土人形が地面から生え出すように召喚された。
巨人の手のひらのようなフォルムで拳を作ったり開いたりしている。
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ゴーレムハンド HP300/300
MP0/0
ATK80
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「な、なんですぅ!? これぇ!?」
驚愕する神父にゴーレムハンドが反応する。神父に飛びかかり、広げた手のひらで虫をはたき落とすが如く神父にのし掛かる。
「ぶべぇ!?」
ゴーレムハンドの攻撃!
神父にダメージを与えた!
『78』
「いちちちちっ! こ、こりゃたまらん……!」
巨体の下から這い出てきた神父が一目散に距離を取る。そのすばしっこくもふざけた挙動を見るに、これまた致命傷に至っていない。見れば、やはり自分自身で回復魔法を掛けている。
攻守に強いのは光属性持ちの魔法使いの特性と言える。こと対魔族戦において、放つ魔法はすべて必殺の威力があり、魔族が得意とする闇魔法をかき消す抗魔法スキルを有しているので守りも堅い。弱点と言えばせいぜい物理攻撃への耐性がないことだが、離れて戦う分にはハンデにすらならない。
光属性の魔法使いの天敵は同属性の戦士くらいだ。それか、圧倒的な戦力差がなければ相手にするのは難しい。
百年前のかつてのナナベールであれば問題なかった。だが、力を取り戻しきっていない今の状態だと魔法力は神父と同レベル程度。拮抗した魔法力では、神父の魔力が尽きないかぎり、この不毛な攻防は続く。
そのもどかしさと悔しさに苛まれたナナベールの内心など露知らず、神父は相変わらずおどけた口調で不平を口にした。
「は、反則ですよぉ! こんなバケモノを召喚するだなんてぇ! こっちは一人で頑張っているっていうのにぃ! あんまりじゃないですかぁ!」
「知るかボケェ! もともと兵士の数はそっちのほうが多かったやろがい! こっちも使えるもんは全部使うんじゃ!」
数の有利がそのままアドバンテージになるとは思っていない。
ゴーレムハンドを召喚したのには別の狙いがあった。
「そらいけ! そこのエセ神父をぺちゃんこにしろい!」
ナナベールの号令に従ってゴーレムハンドが神父に狙いを付ける。
握り潰さんと広げた手のひらを神父に伸ばした。
「甘いですよぉ! そう何度も喰らってたまりますか! そりゃ! 《エンジェルラダー》!」
光線がゴーレムハンドを貫通した。魔物であっても所詮は土塊。燃やせば崩れる鉱物には変わりない。
高エネルギーを含んだ光は放射される際に熱を帯び、接触した対象を焦がすほどの高熱を発する。魔を滅ぼす聖なる光というだけではない。たとえ無属性であったとしても、それ自体が岩をも溶かす灼熱魔法でもあるのだ。
ゴーレムハンドの小指と薬指がボロボロと崩れ落ちた。
ゴーレムハンドにダメージを与えた!
『133』
「いっひっひ! そんなにお強くなさそうですねえ!」
「ま、勇者相手ならこんなもんだろ」
神父の足止めという役目を十分こなしてくれた。その巨体が目隠しの役割になったことも大きい。おかげで神父はいまだに気づいていない。
この数ターンの間に、パイゼルが祭壇を下り、クニキリの許へ駆けつけていることに!
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サンポー・マックィン LV.12
HP 567/720
MP 90/210
MTK 55
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ナナベール LV.15
HP 156/400
MP 335/390
MTK 77
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パイゼル LV.13
HP 177/680
MP 80/100
ATK 101
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ゴーレムハンド HP167/300
MP0/0
ATK80
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