提案
やっべー。
クニキリ、ちょーピンチじゃん。
ていうか、ベリベラの《エナジードレイン》ってこんな拘束技じゃなかったような。一回吸収したら、はいおしまい、ってそんな感じだっただろ。
クニキリの体力が全回復してたおかげで、吸われ続けたとしてもあと数ターンは保つな……。不幸中の幸いだったよ。
ふーっ。仕方ないなあ。
パイゼルを差し向けて解放してやるか。
『なーなー、魔王様よー。神父のほうは一旦放っておいてよー、ちょっくらクニちー助けに行ってもいいか?』
「え?」
びっくり。突然、ナナベールの立ち絵が現れて話しかけてきた。
しかも、クニキリを助けに行きたいんだって。
『うちのパイゼル送ればなんとかなんだろ』
「私も同じこと思ってた。それにしても、神父と戦ってる最中なのによく見てるねー」
『うちは所詮後衛だしな。前衛のパイゼルにそんな暇はねーだろーけど』
それもそっか。
いやでも、ゲーム内の登場人物がそこまで俯瞰的に戦況を見ているとは思わなかった。
ナナベールだけが特別なのかな。
「ナナベールってもしかして、実は仲間思いのいい奴だったり?」
茶化して訊くと、ナナベールの表情が「うえっ」て感じに歪んだ。
『ちげーって。クニちーがいないとこの作戦成り立たねーんだわ』
「作戦?」
すると、ナナベールの顔があくどい笑みを浮かべた。
『うち、いいこと考えたんよ』
「うひっ」
いいねー。ゲームキャラとの作戦会議。アガるわー。
こういう体験してんの世界で私だけじゃね?
「――――」
ナナベールの作戦を聞いてめっちゃ鳥肌が立った。
作戦自体はとてもシンプル。だけど、ゲームキャラのほうから「搦め手」っていうか敵の裏をかく戦法を提案されてすっごくゾクゾクしちゃった!
「それいいよ! それでいこう!」
『おう! 魔王様も絶対気に入ると思ってたんよなーっ!』
八重歯を覗かせて嬉しそうに笑うナナベール。あら可愛い。
作戦を実行するにも、まずはクニキリを助けなければ!
◇◇◇
戦闘開始時とは反対に、神父は光魔法を連発した。《エンジェルラダー》の光線が暗闇に閃き礼拝堂内を照らし上げた。全滅した王宮兵たちへの供養のつもりでもあった。
光が弾けるたびにパイゼルの体にヤケドの跡が増えていく。
同時に、衣服も破けていく。すでにボロボロだったメイド服はもはや原型を留めておらず、今や下着までもが被弾脱衣の対象となっている。
よって、パイゼルは最後の砦とばかりにブラとショーツを両手で庇っていた。
「どこまで脱がす気ですか! もう! エッチ!」
「……いやあ、こっちとしてはそんな気ないんですけどねえ」
パイゼルは破けやすいと言っていたが、ナナベールが用意した素材を使っているため防魔法素材が組み込まれている。本来、ちょっとやそっとの魔法では破けるはずがないのだ。
それでも破けるということは神父の光魔法がそれだけの威力を有している証左でもあった。
そしてそれは取りも直さずパイゼルの防御力の高さをも表している。絶大な魔法防御力を誇るメイド服を貫通するほどの光魔法を受けてもなお叩ける減らず口は神父には驚異的であった。
先ほどの《セントファイア》も喰らっていたはず。まだ立っていることがそもそも奇跡なのである。
もちろん、カラクリがあった。
とにかく攻撃一辺倒のパイゼルと、それをいなしながら反撃する神父。
後衛で戦況を見守るナナベールにはパイゼルを補佐する隙と余裕があり、戦うパイゼルにすべての能力値を一時的に底上げする魔法《ブレイブロバスト/勇猛》を掛けていたのだ。これにより魔法防御力が上がり、どんな魔法攻撃を受けてもダメージを半減させられる。
そして今、神父のほうにも魔法を掛けた。
防御力を下げる魔法 《コロージョン》
「――くっ! 赤魔女、何かしましたね!?」
「そりゃあ、なあ。隙だらけだもんよ。ついでに、これも掛けとく。あんましチョロチョロすんなし。パイゼルのパンチが当たらねーだろー」
動きを遅くする魔法 《スロウ》
途端に、神父の足が不自然なくらい鈍くなる。
「な、ん、で、す、と、ぉ、お、お、お、お!?」
体だけじゃなく口まで回らなくなった。遅くする時間は一ターンだけだが、攻撃の命中率がほぼ100%になる。
パイゼルが拳を握り、神父の懐深くにまで入り込んだ。
「私の番です!」
狙うはアゴ。下から抉るようなアッパーカットが繰り出された。
「や、め、て、ぇ、え、え、え、え――――、ぐへえッ!」
ズバンッ!
神父の体が中空を舞う。会心の手応えをパイゼルは打ち込んだ拳に感じ取った。
クリティカルヒット!
パイゼルは神父サンポー・マックィンに大ダメージを与えた!
『210』
祭壇の際まで吹っ飛ばされた神父は、仰向けに倒れたまま目を回している。致命傷には至らなかったがすぐに立て直しが利くほど柔な攻撃ではなかった。
「ナナ様、やりました! 見てましたか今の!? ……って、ナナ様?」
ナナベールの視線は背後の暗闇へと向けられていた。
「……なんぞ?」
暗すぎて何も見えない。だが、魔力感知に長けたナナベールはたとえ暗闇の中であってもそこで行使された魔法がどの属性のものであるか判別できた。特殊な魔法であれば魔法名を言い当てることも可能だ。
(エナジードレイン? にしては強力すぎじゃね? コレ、クニちーやべえかも……)
魔方陣に拘束されていることまで看破した。このままだとクニキリは生命力が空っぽになるまで吸い取られ続けてしまう。しかも、クニキリを逃がすには術者を攻撃するしかないときた。
「あっ! ナ、ナナ様! 前! 前を見てください!」
振り返る。祭壇の際で倒れていた神父が立ち上がった。
自分に回復魔法を掛けていた。砕けたはずのアゴまで再生し、見たかぎり外傷はなくなっている。
「どなたを先に葬るべきか、いま確信しました。貴女でしたよ、赤魔女!」
神父の手のひらから『ビッ!』と光線が飛び出し、ナナベールの全身を焼いていく。
「きゅうっ!」
痛い。
《ブレイブロバスト/勇猛》の効力が切れたタイミングでもあったために大ダメージを受けた。思わずその場でたたらを踏む。
「……痛ぇっつーの」
「それはそれは。安心しました。魔法の天才である赤魔女にもきちんと通じるようですねえ。このまま《エンジェルラダー》で焼き殺して差し上げましょう。天使のハシゴで昇天できるのですよ。光栄に思いなさい」
「けっ。やなこった。宗教ごっこはテメエ一人でやってろよ」
とはいえ、あんなもんを何発も喰らっていたらナナベールの命も危うい。
神父はもう油断しないだろう。ナナベールのみを警戒し、ナナベールに攻撃を集中させるつもりだ。パイゼルの攻撃が外れやすいと言ってもそれは確率の話であって当たるときは当たる。神父はパイゼルの攻撃を食らう覚悟でナナベールに照準を合わせた。
(やっべえ。こっちはこっちでピンチだぜぇ。どうする……?)
必死に頭を働かせる。するとすぐに妙案が浮かんだ。
こういうときほどすぐに知恵が回るのはナナベール自身もどうかと思うのだが、それはさておき。
(けけっ! おもしれーこと考えちゃった!)
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ナナベール LV.15
HP 156/400
MP 335/390
MTK 77
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パイゼル LV.13
HP 177/680
MP 100/100
ATK 101
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サンポー・マックィン LV.12
HP 590/720
MP 104/210
MTK 55
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