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アザンカの決意


 右肩にクナイをもらった魔導兵①の許へ、魔導兵②③が駆け寄った。


「ルーノ君、大丈夫!?」


「いい、痛く、ないっ!?」


「……んく、ちょっと痛いかな」


「い、いま、ち、治癒魔法、掛ける、ね……っ!」


「ありがとうクレハちゃん。アザンカ先生も。でも僕、これくらい平気だよ」


「平気って、そんなわけないじゃないですか! ひどい怪我をしているのに! そもそも、どうして攻撃魔法を撃ったりしたんです!?」


 魔忍クニキリのスキルがカウンタータイプであることは勇者様との戦闘を見てわかっていたことだ。


 攻撃すれば反撃される。怪我を負うことも知っている。


 なのにどうして、と魔導兵②は魔導兵①に詰め寄った。


「だって、勇者様が困っていたんだもん。僕たちのお仕事は勇者様のお手伝いでしょ?」


「そ、それはそうですけど、でも」


「勇者様は身動き取れない状態だった。なら、僕が行くしかないかなって」


「そこです! そこが違うんです! どうしてそんな結論になるんです!? 行くならルーノ君じゃなく私が行くべきでしょう! 私は大人でルーノ君たちはまだ子供なんですから!」


 魔導兵①は小首をかしげた。


「戦場に大人も子供もないってアニは言ってたよ」


「……あのひとの言うことは聞かなくていいです。どうせ屁理屈ばっかりなんだから」


「それにね、クレハちゃんもアザンカ先生も女の人だから。お姉ちゃんにいつも言われているんだ。男なら女の人を守れるくらい強く大きくなれって。でないと、女の子にモテないぞって」


「今の状況と関係なくないですか、それ!?」


 魔導兵②が頭を抱えている最中、魔導兵③の詠唱が終わった。


「つ、つむ、げ――《ヒーリングハンド》」


 クレハによる治癒魔法がルーノの右肩を癒す。突き刺さったクナイがボロボロと崩れ落ち、痛ましい傷跡は見る見るうちに塞がっていった。


「わあ! さすがクレハちゃん! 治癒魔法上手になったよね!」


「ル、ルーノ、君が、修行手伝って、く、くれた、から」


「クレハちゃんが頑張ったからだよ! やっぱりクレハちゃんはすごいなあ! 頑張り屋さんだし、頭がいいし、可愛いし! 僕、クレハちゃんのこと尊敬しちゃう!」


「か、かわ!? ~~~~っ。あ、あんま、り、ほ、褒めない、で」


 ぐいぐい来る魔導兵①に湯気が立ち上るほどに赤面する魔導兵③。


 あまりに緊張感のないやり取りに魔導兵②は思わず嘆息した。


(いくら子供だからってちょっと無邪気すぎじゃないですか? 今、戦闘中なんですけど……)


 しかし、それもこの子たちの魅力だとわかっているので多くは言うまい。


 魔導兵②は二人の肩を抱いてその場に立たせた。


「とにかく、あまり無茶はしないこと! いいですね!?」


「はーい! 先生!」


「は、い」


「私たちの任務は【勇者様を無事に生還させること】です。基本的に戦闘には参加せず、万が一にも勇者様が命の危機に晒されたときにはお助けする。その方針に変わりはありません。そのためにも戦況を正確に把握する判断力が必要になります」


 一番やってはいけないことは勇者様のピンチだと勘違いして魔族を倒せる機会を潰してしまうことである。


 戦闘経験に乏しい魔導兵たちに求められるのは戦闘の邪魔をしないことだけだ。


「軽はずみな行動は控えましょう」


 この戦闘において守るべき勇者様は二人いる。どちらの戦いも見張っていなければならず、魔導兵たちに掛かる責任は重かった。


「あ、あれ……っ」


「どうしました? クレハさん」


「神父、さま、のほう……。魔女、の詠唱……」


「闇魔法だ! 何か仕掛ける気だよ!」


「待って! 動いちゃ駄目! まだ私たちの出番じゃありません!」


 赤魔女が放ったのは闇属性魔法 《ダクネスコンフェ》――ステータス異常【暗闇】状態にする精神魔法だ。


 王宮兵たちは軒並み目を潰されて混乱に陥り、赤魔女の策略によって同士討ちをし始めた。


「そん、な……っ。ち、治癒し、に、行かなくちゃ……ッ」


 駆け出そうとする魔導兵③を魔導兵②が止めた。


「いけません! あの人数を治癒するのは不可能ですし、クレハさんも巻き込まれてしまいます!」


 それに赤魔女の魔法も継続して作用している。祭壇に近づけば誰もが盲目にされてしまう。


「で、でも、あ、あのひとたち、し、死んじゃう……ッ」


「僕も行くよ! みんなを助けなくちゃ!」


「ルーノ君も大人しくしていなさい!」


 魔導兵①も取り押さえ、二人を胸元に抱き寄せた。


「先生……っ。でも、このままだとみんながっ!」


「……ッ!」


 歯を食いしばる。わかっている。彼らは時間を置かず全滅するだろう。死んでしまうだろう。だが、戦闘に参加するとはそういうことだと魔導兵②は弁えている。


 自分はちっぽけな存在だから。


 元教師で戦うための訓練を何も受けてこなかった弱い存在だから。


 今はまだ、できることしかできない……ッ。


「勇者様の動向だけを観察するんです! それが私たちの任務です!」


 そう諫めると、二人は悔しそうに目を伏せた。


 心を鬼にしようと魔導兵②は決意する。


 魔導兵に課された任務は【勇者を生きて帰すこと】だけだから。


 それとは別に魔導兵②――アザンカは、胸に抱く二人の子供たちを守り切ることを己に課した。



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