聖火
赤魔女ナナベールは跨がった箒を飛ばして移動していた。
移動距離はやや短い。幹部同士で比較するならゴドレッドよりマシなレベルだ。リーザ・モアより若干劣り、グレイフルやクニキリでは比較にならない。クニキリがベリベラ・ベルと数ターンマッチアップしてようやく祭壇に到着した。
ナナベールが動いている間に生き残った四人の下忍たちも祭壇に集結していた。ナナベールを守護するように囲んでいく。
「おいおい、うちよりクニちーの助太刀しに行かなくていいんか?」
「クニキリ様のご命令です。ナナベール様の手足になれと」
「はん! そりゃいいや! なら遠慮なく使わせてもらお」
下忍を従えてサンポー・マックィン神父と対峙する。
サンポー・マックィンは微笑を浮かべている。傍らには体力を半分以上削られたパイゼルがなぜか半裸状態で倒れていた。
「あ~、あなたが赤魔女……。ホムンクルスの生みの親ですか?」
「んむ? ようわかったね。そいつを造ったのはうちだよ」
「少々目に余るんで言っちゃいますけどぉ。彼女の破れやすいコスチュームとか、全然攻撃が当たらないノーコン加減は全部あなたの趣味ですよね~? ちょっと可哀想じゃありません? せめてもうちょいいい服着させてあげてくださいよ~」
「おまえに言われる筋合いじゃねーわな」
「いっひっひ。これでも神父なもんで。不憫な少女を見てるとね。憂鬱になっちまうんですよぉ。あんまりイジメないであげてくださいね~」
「失礼なやっちゃな! うち、パイゼルのことイジメてねーっての! アレもコレも全部愛情表現だってーの!」
「そうですか。ま、いいんですがね。どうせこの場であなたか私、どちらかが死ぬんですから。余計な干渉でした。ですが、口にできてスッキリしました。これで心置きなく戦えます」
神父の頭上に光の球が出現した。
光属性の攻撃魔法である。呪文を唱えていないのでまだ形にはなっていないが、感じ取った魔力量から中位地撃魔法級であることが察せられた。
「へえ、何かやる気出してんじゃん。絶対柄じゃねーだろ」
「ええ。普段はちゃらんぽらんですよぉ。今日は朝からお酒を控えていましたからねえ。調子が出ないんですよぉ。だからでしょうかねえ。柄にもなく私、やる気マンマンですよぉ!」
==聞きなさい 光の精霊よ 我を断罪する者よ==
==内と外を繋げ 肉体を開き 魂に触れよ==
==清めたまえ 悪しきものを去らしめよ==
詠唱を開始する。やはり光属性の魔法である。
ナナベールは下忍たちに告げた。
「束になってうちを守れ」
「御意」
「ばか。全員で前に出るなよ。後ろにも控えてろ。王宮兵がそこまで来ている」
相変わらずの暗闇で敵の位置までは特定できないが、身廊にいた王宮兵たちが下忍を追ってこないはずがなく、少なくとも祭壇の周りを囲んでいると見ていい。
神父にばかり気を取られていると背中から斬られてしまう。
「全方位警戒してな!」
「ぎょ、御意!」
(つっても、神父のアレってどうせ範囲攻撃だろうしなー。うちを守るったってあんま意味なさそうだ。一発はもらう覚悟をしておかねーとなー)
ナナベールにも策略はあったが、そのためにもまずは神父の魔法をやり過ごす必要がある。
耐えるか、避けるか。
(ま、うちに魔法を避けられるほどの機敏性を求められても困る。つーわけで)
亀のように縮こまり、光魔法に備えた。
==ローセル、アングル、シュール、ラングラン、コギュ、ラ、マルタ==
神父の顔つきが非情なものに変わった。
「紡げ――《セントファイア》!」
その瞬間、祭壇が青い爆炎に包まれた。
ナナベールは青白い炎の揺らめきの中、下忍たちがことごとく消し飛んでいくのを目撃した。
「ぐわあ!」
魔族を滅する聖なる火――《セントファイア》
MPを『50』も消費する高位地撃魔法。人間が使える最高位の魔法は中位地撃魔法だが、その上を行使できたのは勇者であればこそだろう。
範囲攻撃であり、ナナベールを中心に下忍たちをも巻き込んで聖火の火柱が祭壇の中央に立ち上った。
「――ふう。初めて使いましたが、さすがに疲れますねえ。そう何度も使えない特大魔法でしたが、……まあ、上手くいったんじゃないでしょうかねえ」
セントファイアの火が消えて、煙幕が晴れる。
そこに立っている魔族は皆無であった。
サンポー・マックィンの魔法攻撃!
下忍①に『231』のダメージを与えた!
下忍②に『232』のダメージを与えた!
下忍③に『230』のダメージを与えた!
下忍④に『233』のダメージを与えた!
下忍①がやられました!
下忍②がやられました!
下忍③がやられました!
下忍④がやられました!
赤魔女ナナベールに『118』のダメージを与えた!
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ナナベール LV.15
HP 282/400
MP 360/390
MTK 77
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