影法師
クニキリは忍者スキルを発動させた。
忍術《影法師》――三ターン中、強制的に『待機』モードになる。その間、敵の攻撃(魔法を含む)を80パーセントの確率で回避し、クナイを投げつけてカウンター攻撃を自動的に繰り出す。また、『待機』中は一ターンごとにHPが5パーセント回復し、気力ゲージの上昇率が25パーセントUPする。
(拙者の視界に敵の影が浮かび上がる。動けぬ代わりに敵の攻撃には対応できる。そら、どこからでもかかってこい!)
足元の影が濃く深まった。
地面から生えた手がクニキリの足をがしりと掴んだ。
「――っ!?」
「自慰にも劣るですって? わたくしが下手かどうかその身で直に確かめなさい!」
もう片方の足でベリベラ・ベルの顔面を蹴りつけるもガードされ、そっちの足首まで捕まった。
引き倒され、馬乗りに乗っかられる。格闘技におけるマウントポジションの構えだが、ベリベラ・ベルの意識では騎乗位の体位である。
見下ろすベリベラの頬に赤みが差した。
「たあ~っぷりと楽しませて差し上げますわ!」
「――、フッ!」
手首に忍ばせていたクナイを手首の返しだけで投げつける。顔面を狙った一投はあっさりとかわされた。
「そんなもの当たりませんわよ」
「そのセリフ、そっくり返すぞ。拙者におぬしの攻撃は当たらねえ」
「左様ですか?」
ベリベラ・ベルは拳を握り、クニキリの顔面を殴りつけた。
しかしそれを、クニキリは片手で受け止めた。
「当たらん」
「どうでしょう?」
二発、三発と拳を振り落とす。子供のケンカのような見境ない連打。女の細腕でケンカ慣れしていないのは一目で丸わかりなのに、その攻撃力たるややはり勇者のそれであり、クニキリがかわして打ち付けた地面は拳大に陥没した。
拳を何十発とかわし、反対側の手首からまたもやクナイを投擲する。
ベリベラ・ベルが体を逸らすだけでクナイをかわすとようやく拳が止まった。
「……確かに当たりませんね。見直しました。あなた様はさぞ屈強なお方なのですね。ますますそのお体に興味が湧いてきましたわ」
「わかってくれたんならどいてくれ。でないと、拙者の攻撃が先に当たることになる」
「ふふっ。それがハッタリであることくらいわかりますわ。ご自慢の投げナイフはわたくしには当たりません」
「どうかな」
刹那、天井からクナイが降ってきた。
直前にクニキリが投げた一つが天井に跳ね返って精確な角度で舞い戻ってきたのである。
ベリベラ・ベルの背中にクナイが突き刺さった!
ザクゥ!
「あうっ!? ――かはっ!」
「オラァ!」
顔面を蹴りつけて腹の上からベリベラ・ベルを引っぺがすと、クニキリはすぐさま立ち上がった。
ベリベラ・ベルもよろめきながらも立ち上がり、両手で顔を押さえた。
指の隙間から恨めしげな視線をクニキリに投げつける。クナイのダメージはそれほどではなかったようだが、顔面を足蹴にされたことが気に食わなかったらしい。
スーッと、またもや闇の中に姿を消した。
もう恨み言も呟かない。怒りを超越した憎しみだけがベリベラ・ベルを突き動かす。
「――へっ。恐ぇ女だ」
傍目には今の攻防はクニキリに軍配が上がったように見えるが、ベリベラ・ベルと密着したことで『淫靡の香』をさらに吸う結果となり、クニキリの【混乱】状態はより深刻さを増していった。
今後は忍術《影法師》を使ってもベリベラ・ベルの攻撃をかわし切れるかどうかわからない。
(仕方ねえ。仕切り直しだ)
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ベリベラ・ベル LV.17
HP 511/600
MP 186/200
MTK 93
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クニキリ LV.15
HP 512/526
MP 40/40
ATK 99
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