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パイゼルVSサンポー・マックィン


 最初に祭壇に到達したのは、スタート時から一直線に前進してきたパイゼルだった。


 祭壇に上がり、ついに神父と対峙する。


「か、観念してください! で、でないと私があなたを倒します!」


 黒革の手袋を手首まで引っ張って装着する。これが肉弾戦を得意とするメイドの戦闘スタイルだ。


 ナナベールの命令に従い、一番手強いはずの勇者の相手をさせられてすでに半べそをかいていた。だが、それ以上にご主人様による折檻のほうが恐ろしいので勇気を奮い起こして両拳を正面に構えた。


「いっひっひっ! おやおや、ずいぶんと可愛らしいメイドさんがおいでくださいましたねーっ! いや~、……おっぱい大きいですね~」


 神父サンポー・マックィンが鼻の下を伸ばすと、パイゼルは咄嗟に胸を隠した。


「ヒッ!? ど、どこ見てるんですか~っ!? セクハラで訴えますよ!」


「魔族に訴えられる神父! ギャグにしては高度すぎやしませんかね? そんなんじゃ誰も笑いませんよ~」


 仮にも魔族に接近されたというのにサンポー・マックィンから余裕の色は消えない。


 なおも楽しげに、不埒な目つきをパイゼルに向けた。


「いっひっひ! い~いカラダしてますね~っ!」


「ンもう! どうしてみんなしておっぱいにばっかり注目するんですか~っ! 私の名前がパイゼルなのもどうせ笑うんでしょう!」


「ほ~お? パイゼルさんとおっしゃる? いい名前じゃないですか~。いえいえ、誤解しないでくださいな。私が言っているのはその器のことでして、何も特定の部位を指して褒めたわけじゃありません!」


 パイゼルはきょとんとする。神父の言葉の意図するところが掴めない。


「ホムンクルスですか~。しかも、元修道女の肉体を基礎に使っています? いますよね。なんていう極悪非道の罰当たり! 神からの祝福を受けるべきひとに神への叛逆を無自覚に行わせているだなんて! こういったことができるのも赤魔女たる所以ってやつでしょうかね~。いくらちゃらんぽらんな私でもさすがにこれは真似できません!」


「? よ、よくわかりませんが不愉快です! 私の肉体はナナ様に作っていただいたもの! 確かに元は人間だったかもしれませんけど、私はいまナナ様にお仕えできて幸せなんです! 罰当たりだなんてそんなことあなたなんかに言われたくありません!」


「まあ、人格はすでに書き換わっているんでしょうが。そういうふうに信じ込まされていること自体が非道だって言ってんですよ。貴女にはもう理解できないでしょうがね。ええ、それが憐れでなりません。神に仕える者として。……おや? 柄にもないことを言ってしまいましたか。いっひっひ!」


 神父の手のひらが白く輝きはじめた。


「せめて私の手で天に召されるよう施して差し上げましょう。これでも一応神父ですから」


 それまでのだらしなかった顔つきが嘘のように引き締まり、神父らしい慈愛に満ちた眼差しを元修道女のホムンクルスに向けた。


「お逝きなさい。神の導きがあらんことを」


 詠唱が礼拝堂に木霊した。


==聞きなさい 光の精霊よ 我を断罪する者よ==

==内と外を繋げ 肉体を開き 魂に触れよ==

==清めたまえ 悪しきものを去らしめよ==

==ローセル、アングル、シュール、ラングラン、コギュ、ラ、マルタ==

==紡げ――《エンジェルラダー》==


 天から降り注ぐ光のスポットが、光の速さで駆け抜けた。


「――――ッ!?」


 咄嗟に避けたパイゼルであったが、左半身を光に晒され、腕一本丸ごと浄化の炎に焼かれて灰になった。それはまるで地を走る斬首の刃。しかし痛みはなく、片腕を失ったにもかかわらずむしろ天にも昇るような心地よさが全身を駆け巡った。


 雲間から地上に注がれた天使のハシゴ。


 人間であった頃、その奇跡を目の当たりにして神の存在を直に感じ取ったことがある。


 刹那、そんな知りえない経験を思い出す。


「――――――っ!?」


 パイゼルはハッと我に変えると、失った肩を抱いてよろめいた。


 ダメージがないなんて嘘。


 数秒遅れて激痛が左半身を襲った。


「うぐぐ……ッ! そ、それがあなたの魔法ですか……ッ!?」


 光属性魔法《エンジェルラダー/浄化》は中位人撃魔法だ。


 光の攻撃魔法の中では最低位の威力である。


 だが、術者が勇者で神父という本職が扱えば階位は二段階ほど跳ね上がる。


「大したものですねえ。初見でコレをかわすだなんて。ますます放っておけません。貴女のような魔族はここで葬っておかねば」


 再び詠唱を開始した。


「いいえ、私の番です!」


 その隙を衝いてパイゼルが仕掛けた。


 右足を後ろに下げて半身に構え、ステップを踏んで神父の懐に入り込み、渾身の右ストレートを撃ち込んだ。


 しかし、必殺の拳は神父のカソックを掠めただけで空振りに終わった。パイゼルの攻撃は威力は大きいが命中率が安定しないのが難点である。


「そんな大振りだと当たるほうが難しいですよお!」


「まだまだですぅ! おりゃおりゃおりゃおりゃあああああ!」


 可愛らしい掛け声に似つかわしくない怒涛のパンチの嵐。


 鉄槌の如く強化された拳は一発でも当たれば致命傷だ。


 それがわかっているのかサンポー・マックィンは軽やかにバックステップを踏み、絶妙に間合いを外してきた。あと一歩の距離が届かない。


「もうっ、止まってください! 当たってくださいってばあー!」


「はいそうですかと言うこと聞くバカがどこにいますぅ!? 魔族の割に純粋なんですねえ! そんないい子ちゃんには浄化の光をプレゼントぉ!」


 サンポー・マックィンの手のひらが光ったと同時に、パイゼルの脇腹を穿つ光線が放たれた。


「きゃあっ!」


 メイド服が破れ、露わになった白い肌が火傷で赤く爛れた。


「ひどーい! この服を縫うのにどれだけ時間掛かったと思ってるんですかあ!?」


「最初に気にするのそっちですか? 体の傷には興味がないと? いやはや、やはり人類とは価値観が違っているみたいですねえ。命に対する捉え方がまるで違う。そこんところどうなんです? ホムンクルス。永遠に近しい寿命を持つ貴女には我々短命種の言葉など理解できませんか?」


 痛みなど気にせずにパイゼルがなおも仕掛ける。


 相手の懐に潜り込み、右手を振り上げて――、


「言ってる意味がわかりません!」


 ブォン! と厳つい風切り音を鳴らしてパンチを繰り出す。さすがにサンポー・マックィンも「うひゃあ」と声を上げて不恰好な姿勢でなんとか避けた。


「危ない危ないっ! 挑発するのも命懸けですねえ! いっひっひ!」


「もうもうもう! 当たってくださいよお!」


「いやー……、貴女みたいにおっぱい大きいひとがモーモー言ってるとなんだか牛さんに見えてきますねえ……。いっひっひ!」


 サンポー・マックィンにそう煽られてパイゼルは悔しそうに歯噛みした。


「もうっ!」


―――――――――――――――――――――――――

 サンポー・マックィン  LV.12

             HP  520/520

             MP  196/210

             MTK  55

―――――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――

 パイゼル   LV.13

        HP  550/680

        MP  100/100

        ATK 101

――――――――――――――――――――



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