打開策
『おーい、魔王様ーっ! 魔王様ったら、魔王様よーい!』
「ナナベール?」
ナナベールが呼んでいる。魔王としての私を。
画面にナナベールの立ち絵が現れた。
『なーなー、暗闇ん中に勇者モドキがいて本物の勇者がどこにいるかわからないって感じなんよな?』
「……さすがだね、ナナベールは。あっさり状況をまとめてくれた。うん。そうだよ。王宮兵に攻撃されたら隣接マスに反撃すれば当たるけど、魔法主体のベリベラや魔導兵は手の届く範囲には絶対に近づいてこないし、魔法を撃ってくる方角もわからない。相手の位置を特定するのが難しいんだ」
大体この辺りってのはもうわかってるんだけど、そこに魔導兵が三体潜んでいるから紛らわしくなっている。ナナベールの言うところの勇者モドキだ。
「それに、サンポー・マックィンが光魔法を使ってくれないから全然フィールドが明るくならなくて」
『ほへー。あの神父のおっちゃんに魔法を使わせたらこの真っ暗が晴れるんか?』
「一瞬だけね」
『魔王様ってな伊達じゃねーんだなー。ちょっとだけ尊敬した。だったらさー、うちに考えがあるんだけど。聞く?』
「え? マジで? 聞く聞く! 教えて教えて!」
ナナベールの考えってやつを聞いた……けど。
「うまくいくかなあ?」
『なんとかなんだろ。どっちにしろこのままってわけにもいかんしな~』
「それもそうだね!」
迷っている暇なんてない!
やってみよう! もし駄目ならまた別の手を考えればいいんだし!
行け行けーっ!
◇◇◇
クニキリは踵を返すとスタート地点へと駆け戻った。
左右に分かれて行った部下の下忍たちとも合流し、ナナベールの許までやってくる。足の遅いナナベールを追い越し、さらに走っていく。
向かう先は唯一の光源――サンポー・マックィンがいる祭壇だ。
クニキリは、先ほど洩れ聞いた魔王様とナナベールの会話を思い出す。
「うちに考えがあるんだけど。聞く?」
『申してみよ』
「シスターのほうは放っておいてよー、神父のほうを囲んでボコボコにするってのはどう? いくら魔法を使わんって言っても、ンな状況で反撃せんわけにいかんだろ。神父に魔法使わせたら他の奴らの居場所もわかる。神父にもダメージを与えられる。一石二鳥――ってことにはならん? やっぱ無理?」
『神父を殺せば光源は永久に失われることになる。加減が必要だ。おまえたちにそれができるのか?』
「そんくらいならやれんじゃね? 知らんけど。ま、どっちにしろこのままってわけにもいかんしな~」
『ならば試してみよ。もし失敗に終わるようならそのときはそのときだ』
「ふはっ! さっすが魔王様じゃん! そうそう。そうやって後方腕組みしながらでっかく構えてなって! うちらで活路を見い出しちゃる! ――ってことで、行くぜぇクニちー!」
その瞬間走り出していた。
確かにナナベールの策はこの状況を打開する唯一の方法にして、最適解のようにも思える。分散した仲間を一箇所に集めることは防衛面からしても合理的だ。一石二鳥どころか三鳥の効果が見込めるはず。
しかし、それ故にこの策には敵の目論見までも潜んでいる気がしてならない。こうなるように誘導されている。あるいは、こうなることを最初から予測し対策されている恐れがある。
見極めるのだ。闇の住人たる忍の矜持に懸けて、勇者どもの狙いを挫くために。




