西門攻防戦、開始
ついにきた。第四ステージの最難関『西門』編。
正規版の【魔王降臨】で最初に訪れる高難度ステージ。どれほどのプレイヤーがこのステージで選択を誤り、何人の魔王軍幹部を脱落させてきたことか。一度死んだキャラは二度と復活しないのがこのゲームのルール。そのシビアさを最初に思い知らされるのがこのバトルフィールドだ。
光と闇、両属性からの挟み撃ち。さらに、暗闇ステージは敵キャラや障害物を不可視にし、フィールド攻略を一層厳しくする。
こんなの初見でキャラクターを一人も脱落させずにクリアしろってのがまず無茶な話である。トライ&エラーを繰り返してようやく攻略法が見つかる、いわゆる死にゲーってやつに近い。
一度攻略しているからよかったものの、これが初見プレイなら確実にクニキリとナナベールを死なせることになったはずだ。もちろん、今も油断ならないけどね。
それに、敵が神父とシスターってのもある意味攻略しやすいポイントなんだ。もし正規版と同じでこのバトルフィールドならではの攻撃を繰り出してくるなら、私はすでにその対策を知っているからだ。
トライ&エラーの果てに叩き込まれた攻略法は今も体が覚えている。
神父の移動距離はどれくらいで、シスターが何ターン置きに魔法を繰り出してくるのか。
ザコキャラはどこから現れてどれほどの強さなのか。
どこに障害物があって、どこに隠しアイテムが転がっているのか。
私はすべてを知っている。
……お兄ちゃんがフィールドをいじっていなければ、だけどね。
これまで戦ってきた他の門ステージではちょこちょこフィールドをいじってきたからなあ。その可能性もなくはない。ま、そこは出たとこ勝負ってことで。そんなのはこれまでと同じだし、悩んでいても始まらない。
それを差し引いても、私ばかりが不利になることはたぶんないはずだ。攻略法が見つかっている私にとってそれほどハンデにはならない。むしろこれで五分五分かな。
ゲーム画面にキャラクターの立ち絵が現れた。
クニキリとナナベールが並んで真剣な表情を作っている。
『影に生きる忍にとって暗がりは決して不得手じゃねえが、勇者が生み出したこの暗闇は一筋縄じゃいかなそうだ』
『うちみたいな引き籠もりに光属性はいっちゃんキツイんよなー。って、魔族はみんな同じか。ま、ここまで来たからには働くけどよー』
愚痴る二人。
ここは一つ発破をかけてあげますか。
「ねーねー、クニキリにナナベール。不安かもしれないけどさ、私が指示するんだから安心してていいよ。大船に乗った気でいてよ。だって、このステージ何度もやってるから攻略法が完璧に頭に入ってるもんね。ちょっと自信あるよ、私」
恐がって攻撃を外すとかそういうポカだけはしないでほしい。二人には自信をもって戦ってもらいたい。
『なんと! それは心強い! 魔王様、存分に働きます故どうかご指示を!』
うんうん。クニキリは忠義に厚くていいやつだなあ!
『えー? 魔王様、的確な指示とかできたんけ? 現場を混乱させるだけさせておいて後はこっちで尻拭いとかそういうんは勘弁してくれなー』
「ちょっ!? 聞き捨てならないよ、ナナベール! あんた、私を何だと思ってんの!?」
『敵より厄介な後方支援? 味方の足を引っ張る老害的な?』
「くわっ! 私の最も嫌いなやつ! 違うったら! ゲームに関しちゃ私そこまで駄目じゃないもん! こちとら何年引き籠もりゲーマーやってると思ってるわけ!? 私のゲーム脳舐めんな!」
『へいへい。んな熱くなるなって魔王様。みっともねーぜー? きひひひひ』
くっ。言わせておけば。
って、ゲームのキャラと言い合ってても仕方ない。
どうせこっちで操作できるんだし、言わせておけばいいか。ナナベールは元々そういうキャラだしね。グレイフルみたいに下手にへそ曲げられて好き勝手に動かれても困るし、今は我慢だ。我慢。
画面が移動し、最奥部の祭壇みたいな場所に立つ二頭身デフォルメキャラにスポットが当たる。
神父の格好をしたこのキャラはサンポー・マックィンだ。
『ついに魔王軍と戦うときが来てしまいましたか。決まっていたこととはいえ、こうなるとさすがに私も緊張しますねえ』
立ち絵が現れる。アゴヒゲを生やしたナイスミドルだ。飄々とした表情だが、真顔になるとちょっとカッコイイ。性格はあれだけど、キャラデザ的には作中ベストテンに入るイケメンである。
酔っぱらいの象徴、頬と鼻の朱色が若干残念だけどね。
『いっひっひ! 神は試練を与えたもうた! こんな私に! ツライ!』
『うちも同じ同じ。めんどいことは好かんのよ。だからさっさと死んでくれな?』
ナナベールが相槌を打つ。サンポー・マックィンの表情が少し引き締まった。
『天に召されるのはあなた方ですよー。私、これでも神に仕えていますのでね。啓示が聞こえるんです。神はこう仰られています。悪は滅びよ、と』
それに応えたのはフィールドの反対側にいるキャラクターだった。
『あなたが言うと説得力がありませんよ、神父さま』
画面がまたまた移動し、神父とは対角線上の末端に位置する場所で止まる。暗闇のフィールド上ではこの二頭身キャラは見えない仕様だ。
だが立ち絵は現れる。
修道服を着た赤髪のシスター、べリベラ・ベルだ。
「まあ、わたくしも言えた立場ではありませんが」
スレンダーなスタイルで、体のラインが浮かび上がっているせいか、それほどおっぱいが大きいってわけじゃないのに巨乳キャラなんかより色っぽく見える。顔が美人なのは当然として、タレ目でくたびれた表情なんかも絶妙にエロい。女キャラにそんなに萌えない私でも、このべリベラ・ベルのキャラデザには初見でドキッとさせられたっけ。性格も憎めなくて、意外とお気に入りのキャラだったりするんだよね。
そんな大人な雰囲気全開のべリベラ・ベルだったが、
『動くな。下手に動けばこのクナイがおぬしの頭蓋を吹き飛ばすぞ』
『男です! 男がいます! わたくしだけの! 男!』
クニキリの挑発を受けて声を荒げた。
あれ? このシーンのべリベラってこんなにテンション高かったっけ?
『あー、シスターべリベラ? ちょいと興奮しすぎじゃないですかね~? どうどう。落ち着いてくださいよお』
『落ち着いてなどいられません! 神父さまもご存じでしょう!? わたくし、あの方の命令で殿方との交流を制限されていたのですから!』
『それはわかっていますけど~』
目を吊り上げるベリベラに対し、サンポー・マックィンは苦笑いを浮かべた。
……ん?
あの方? あの方って誰のことだ?
『いくら相手が男とはいえ、魔族ですよ?』
『逆です。魔族とはいえ、男です。ええ。わたくしは種族で差別いたしません』
『はあ……。その思想は大変立派ですがね……』
『彼はわたくしのものです。よろしいですか神父さま? どうか今回だけはわたくしにお譲りください』
『今回だけはと言われましてもねえ……。貴女が私に男を譲ったことなんてありましたっけ? まあいいですよ。お好きにどうぞ~。私の分まで働いてくれるならなーんにも文句はありましぇーん!』
『ええ、神父さまはどうかその場で静観なさっていてください。――わたくしがすべて犯りますので!』
ベリベラの目がキュピーンと光った。
クニキリの立ち絵がぶるりと震えた。連動してコントローラーまで震える。
『……何やら殺気が。だがおぬし、拙者の足についてこれるか?』
ベリベラとクニキリの立ち絵が消え、サンポー・マックィンだけが現れた。
『いっひっひ! あのひともこうなることを予見してシスターに性行為を禁じていたのでしょうしねえ。何もかも計算どおりというわけですか。いやはや末恐ろしいお方ですよお』
何だろう。文脈がよくわからない台詞だな。
もしかして、お兄ちゃん絡みか? サンポー・マックィンが言うあのひとってのもきっとお兄ちゃんの差し金だ。あるいは、お兄ちゃん本人ってこともありうる……。
会話を引き延ばせないかな? お兄ちゃんの正体に迫れるヒントを引き出すんだ。
と、思っていたら、テキストが自動で流れていく。
時間切れ。戦いまで待ったなし。
しょうがない。
準備はいい?
『死にさらせ!』
『魔忍クニキリ、いざ参る!』
そんじゃ、戦闘開始ッ。
―――――――――――――――――――――――――
サンポー・マックィン LV.12
HP 520/520
MP 210/210
MTK 55
―――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――
ベリベラ・ベル LV.17
HP 600/600
MP 200/200
MTK 93
―――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
王宮兵(5) LV.13
HP 220/220
MP 0/0
ATK 55
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――
魔導兵(3) LV.10
HP 84/84
MP 60/60
MTK 46
―――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
クニキリ LV.15
HP 526/526
MP 40/40
ATK 99
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
下忍(5) LⅤ.10
HP 99/99
MP 15/15
ATK 38
――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
ナナベール LV.15
HP 400/400
MP 390/390
MTK 77
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
パイゼル LV.13
HP 680/680
MP 100/100
ATK 101
――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございます!
よろしければ、下の☆に評価を入れていただけると嬉しいです!




