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タッグマッチ


 勇者を名乗った男は、赤ら顔でへらへらと笑っている。


 酔っぱらっているのか呂律まで怪しい。


「神父の勇者……か」


 クニキリは失笑した。


「羊飼いといい、商人といい、今世の勇者も種々雑多なことよ」


「うちらもそんなに変わらんけどなー」


 ナナベールの指摘に、確かに、と頷く。


 魔王軍の幹部も種族や属性などバラエティーに富んでいる。


 だが、勇者側に戦闘職が少ないのはどうにも偏りを感じてならない。偶々なのか、それとも神とやらの気まぐれか。


「光属性の魔法使いか。この暗闇は属性魔法の威力を引き上げるための装置だな。闇が深ければ深いほど、光も闇に飲み込まれぬように強くする必要がある。そうして放たれる光魔法は通常よりも威力が増す。拙者らを葬るために自らに制約をかけたわけか」


 制約は重ければ重いほど反動は強くなる。


 魔法行使における基礎知識である。


「いっひっひ。それは買い被りというものですよぉ。そこまで考えてまっせーん! まぁーあ? 副産物として有効なことには気づいていましたが、私はどちらかと言うと楽して戦いたい派なんですがねぇ~え?」


 副産物? つまり、この暗闇の本命は別にあるということか。


(まさかただの目くらましというわけではあるまいが……)


「避けろ、ボケナス!」


 不意に、ナナベールから足蹴にされる。


 よろめいて動いたその場所に、暗闇の中にあってなお暗い影が駆け抜けていった。


「なっ!?」


 手の形をした影がクニキリの体を掴もうとしたのだ。


 あのような魔法は見たことがない。


 おそらく闇属性魔法。神父とは別の術者による攻撃であった。


(闇魔法の正体を隠すための暗闇だったのか……)


 ナナベールは腰を落として身構えた。


「勇者は二人いる。うちらと奴らで二対二ってわけかよ。おもしろっ!」


「……ボケナスと言ったか? さっき」


「おう! 助けてやったんだ、感謝の一言くらい言えよな!」


(拙者が助けたときは言われなかったけどな)


 小さいと思われそうなので口にはしないが。バッチリ気にするクニキリであった。


「いっひっひ。魔族にも仲間意識があるんですねえ。微笑ましいコンビ愛じゃないですか。ですが! 私たちも負けていませんよお! 愛は愛でも実際にくんずほぐれつ愛し合っちゃってますからね、私たちはぁ!」


 神父から後光が差し、パア、と眩い光が空間全体に行き渡る。


 しかしそれも一瞬、今度はクニキリたちの背後からドス黒い闇が波のように生じ、光を飲み込んで押し返した。


「聞き捨てなりません、神父さま。いつわたくしたちが体を重ねて愛しあったのですか? 気持ち悪いことをお言いになりませぬよう」


 すぐ近くから発せられたその声に、クニキリもナナベールも咄嗟に後退った。


 暗闇の中に女がいた。


 修道服を着た若い女だった。


「シスターの勇者べリベラ・ベルです。どうかお見知りおきを」


「神父の次はシスターか」


 舞台が礼拝堂なのだから然もありなんである。


 前方に光属性の神父が立ちはだかり、後方を闇属性のシスターが退路を閉ざす。しかも、地の利は勇者側にあり、さしずめクニキリたちは罠に掛かった哀れな獣であった。


「二対二……か」


「別にクニちーが一人で戦っても止めねぇよ? うちはできるだけ楽したい」


「いっひっひ! どうやらそちらのお嬢ちゃんとは気が合いそうですねえ!」


「怠けないでください神父様。わたくしがそちらの殿方を相手にしている間だけでも足止めして頂かないと困ります」


 図らずも対戦相手が定まった。


 ナナベールは正面を見据えていたずらっ子ような笑みを浮かべた。


「ってわけでよぉ、神父のおっちゃん。怠け者同士ゆっくり戦りあおうぜー」


「ゆっくりどころかそのままお帰り頂いちゃってもよろしいんですよお? 平和が一番ですからねえ! いっひっひ」


 クニキリはクナイを取り出して背後の闇に狙いを定めた。


「女であれ戦場に立つ以上容赦はせぬ。いざ、参らん!」


「はあ……はあ……久しぶりの男……。絶対に逃がしません……!」


 二対二。


 光と闇の勇者タッグと、魔女と忍者の異色タッグが対峙した。



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