猛追
『逃がしませんわよ――――!』
グレイフルが吠える。
同時に、コントローラーが激しく振動した。
「おわ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、わっ!?」
ちょ!? バイブ機能がめっちゃ強い! それも長いし震えすぎ! 電動マッサージかってくらいに!
「ていうか、キャラの感情と連動してんだねこれって……ッ」
つまり、それほどグレイフルはいまだかつてないほど猛り狂っているってことだね。いいねいいね! テンション上がってんね――!
「おおっ!? さっき固有スキルブッパしたばっかなのに、もう気力ゲージMAXじゃん! 行けッ! グレイフル! 王宮兵を蹴散らせーっ!」
『ハァアアアアアア!!!!』
グレイフルの攻撃!
王宮兵①にダメージを与えた!
クリティカルヒット!
『189』
―――――――――――――――――――――
王宮兵① LV.13
HP 31/220
MP 0/0
ATK 55
―――――――――――――――――――――
「よっしゃ! 強ぇええ!」
気力ゲージが溜まってるから通常攻撃力が二割増しだし、その上クリティカルヒット――会心の一撃が出る確率も大幅にアップしている。
今のグレイフルは、ザコキャラ相手なら通常攻撃で固有スキルばりのダメージを与えられるのだ。
四方から王宮兵の攻撃が始まった。
取り囲まれたグレイフルはしかし、王宮兵①の攻撃を槍で受け止めて弾き、王宮兵②の攻撃はあっさりとかわした。王宮兵③の攻撃はまともに受けたが、王宮兵④に対してはダメージを半減させた上でカウンターを繰り出した。
王宮兵④にダメージを与えた!
『66』
――――――――――――――――――――――
王宮兵① LV.13
HP 154/220
MP 0/0
ATK 55
――――――――――――――――――――――
そうしてまた回ってきた手番で王宮兵①にトドメを刺し、ターンエンド。またもや四方からの攻撃が開始されたが、弾き、かわし、捌き、カウンター攻撃――相手ターンにもかかわらず敵のHPを削り、自らもダメージを受けないようにうまく立ち回っている。
もはや私、要らなくね――?
グレイフルが強すぎて指図を挟み込む隙がない。
コントローラー握ってる意味あんのかな。
それでも攻撃をまともに喰らうことがまあまああって、ちょこっと焦ったりもした。けれど――蓋を開けてみたら、グレイフルの圧勝で終わった。
『チェエエエエイッ!!!!』
グレイフルの攻撃!
王宮兵⑤にダメージを与えた!
クリティカルヒット!
『179』
王宮兵⑤を撃破した!
――――――――――――――――――――――
グレイフル LV.14
HP 166/575
MP 81/81
ATK 124
――――――――――――――――――――――
ザコは片付いた。
問題は道に設置されたトラップだ。すぐにもオプロン・トニカの後を追いたいところだけど、トラップ床が移動の邪魔をする。バリアは時間経過で自然消滅してくれたけど。
どうやって攻略しようかな。
おっとっと、その前に当初の目的を果たさないとね。
――――――――――――――――――――――
東門 LV.1 HP100/100
――――――――――――――――――――――
グレイフルの攻撃!
東門にダメージを与えた!
『120』
東門を破壊した!
別に勝利条件ってわけじゃないけれど、ここまで来ておいて何もせずに引き返すのも違う気がするし。ついでってことで。
さてと。
「じゃあ、どうやってあのトラップを破壊する?」
『何を言っていますの? そのような悠長なことしてられませんわ!』
「え?」
『強行突破ですわ! それしかありませんわ!』
止める暇もなく、グレイフルが【毒沼】のど真ん中に突入した。
グレイフルにダメージを与えた!
『30』
「地味に痛い!」
確かにトラップ床の威力って一撃KOするほどのもんじゃないってことはわかっていたけど……。
本当に大丈夫!? これ、死なない!?
次のターンで【毒沼】を通過すると、今度は【氷床】エリアに差し掛かる。
氷が自動的に攻撃してきた!
グレイフルにダメージを与えた!
『50』
「かなり痛い!」
やっとこさトラップ床エリアを突破できたものの、HPが大幅に削られた。
――――――――――――――――――――――
グレイフル LV.14
HP 86/575
MP 81/81
ATK 124
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回復アイテムはさっきリーザに結構な量を使ってしまった。今後のことを考えると節約しておきたいところだが……。
とりあえず『レッドポーション』を使ってHPを『100』だけ回復しておく。HPを『500』回復させる『ハイポーション』はあまり予備がないのでここでは使わない。グレイフルは比較的防御力が高めだからこれでたぶん大丈夫。
「でも、油断は禁物だよ! 勇者をぶっ殺したらすぐに撤退するからね!」
『わかってますわよ。わらわを誰だと思っていますの?』
不意に、画面上にグレイフルの立ち絵が現れた。
私を挑発するみたいに『ふふん』と笑い、
『誰よりも冷静沈着にして魔王軍イチの頭脳派と呼ばれるこのわらわが油断などするはずありませんわ!』
「……」
突っ込むところかな、これ。
でも、機嫌を損ねて『忠誠心』が減少しても嫌だし……。
おだてておくか。
「そ、そうだよね! グレイフルのことだもん! それくらいわかっているよね! よっ、さすが冷静沈着の女王! 魔王軍イチの頭脳派!」
『当然ですわ! をーほっほっほ!』
グレイフルの忠誠心が『2』増加しました!
こんなことで好感度上がるんかい!
チョロいぞ、グレイフル!
『さあ、追いますわよ!』
敵は老いぼれ勇者。移動速度も移動範囲も大したことはない。
かなり時間を食ったが、数ターンもあれば追いつけるはずだ。
ううん! 絶対に追いついてやる!




