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逃げた!


 四つ横並びの縦五列――計二十個のバリアの装甲を一直線にぶち抜いていき、四番目を突破してついに最後列に辿り着いた。


 生き残った働き蜂はあと一体。


 オプロン・トニカの攻撃――音波の真空鞭が働き蜂⑤に襲い掛かる!

 働き蜂⑤にダメージを与えた!

『20』


 働き蜂⑤がやられました!


 こうして、魔王軍サイドは大将のグレイフルを残すのみとなった。


 ――ま、ここまでは想定内。


 部下を配置して新たなバリアの複製を防ぎ、行く手にあるバリアはグレイフルがこじ開ける。


 その間、待機するしかない部下は魔法を狙い撃ちされ命を落とすことになる。でも、そうでもしないとこの分厚い壁を乗り越えることはできなかった。


 グレイフルもそれがわかっているから、コマンド入力している私(魔王)に文句を言わなかった。


 ただ目の前の敵だけを見据えている。


『魔王様』


 ゲーム画面にグレイフルの立ち絵が現れた。


「なに?」


『次の攻撃で決めますわ。固有スキルを使ってあの勇者を串刺しにしてやりますわ』


「うん。私もそのつもりだよ」


 グレイフルには《飛行》アビリティがある。バリアを抜けた先――敵陣地には着地できる足場があり、バリアも一個だけなら壊すことなくすり抜けることが可能だ。


 たぶん着地した瞬間に王宮兵に囲まれることになるだろうけど、今のままバリアを挟んで睨みあっていても埒が明かない。やるなら正面突破。そのためにここまで来たんだから。


 オプロン・トニカのターン。


 バリアを生成。グレイフルの手前にある一個に重ね掛け。


 まあ、そうするよね。


 でも次は? バリアをどこに張る? もう張れる場所はないよ?


 一列後退したら移動するスペースがなくなってしまい、王宮兵を使ってグレイフルを囲むことができなくなってしまう。もうどこにもバリアを張れるスペースはない。


 と思っていたら、――え? グレイフルの後ろにバリアを張った?


 いまグレイフルは前後をバリアに挟まれている格好だ。


 でも何で? そんなことしたって意味ないじゃん?


 それからそれから、オプロン・トニカは魔導兵二体にもバリアを張った。へえ。そういう使い方もできるんだ。味方にバリアを張ったってわけだ。


 これでオプロン・トニカはバリアを一ターンの上限(四つ)すべて生成したことになる。


「って、あれ!? 魔導兵は!? いなくなってない!?」


『みたいですわね』


 オプロン・トニカがバリアを掛けた途端にフィールド上から姿を消した。


「どうなってんの!?」


『……どうやら不可視の魔法のようですわね』


「見えなくするってこと!? そんな魔法、このゲームで聞いたことないよ!?」


 透明になってフィールド上を移動できるようになったらしい。プレイヤーにも見えてないから攻撃も防御も難しい。


「むむむ。なんだか不気味だなあ」


『どうしますの? 魔王様』


「うーん。……つってもまあ、魔導兵ったってそんなに強いわけじゃないし、放っておいても特に問題ないかな」


 とりあえず魔導兵は無視しておこう。オプロン・トニカさえ倒してしまえばこのステージはクリアなんだから。よそ見をしている暇はない。


 グレイフルの手番が回ってきた。


「行っけえええ! グレイフル!」


 バリアをすり抜ける。予定通りオプロン・トニカの背後にあるスペースに着地すると、その場で固有スキルを発動させた。


 アニメーションカットインが差し込まれる。蜂の大群が周囲に浮かぶ。兵隊蜂は一斉に尻についた針を突き出し、グレイフルの号令を待つ。その場でくるりと回るグレイフル。スカートがふわりとひるがえり、真上から捉えた映像では真っ白なドレスの花冠と、中央に輝く金髪がまるで花柱のようでいて、可憐なマーガレットを彷彿とさせた。蜜に群がる蜂たちを、女王蜂は日傘の槍の一突きと共に押し出した。


 固有スキル《刺突・黄殺》


 オプロン・トニカに蜂の群れが津波のように押し寄せる。


 無数の針がオプロン・トニカの全身を突き刺していった。


 オプロン・トニカにダメージを与えた!

『135』


――――――――――――――――――――――

 オプロン・トニカ LV.20

          HP  682/820

          MP  155/200

          MTK  85

――――――――――――――――――――――


「さあ! 反撃開始だぞお!」


 バリアを突破して敵陣地へと殴りこみ。


 けれど、オプロン・トニカを射程に捉えたとはいえ王宮兵に取り囲まれているこの状況、いまだ予断を許さない。


 さあ、面白くなってきた。


 ここからはグレイフルの体力が尽きるのが先か、勇者側が全滅するのが先か。


 勝負だ!


「――って、およよよよ……?」


 オプロン・トニカが、グレイフルが来た道を逃げていった。グレイフルに背を向けて。


 そして、またしてもバリアを道に敷いて、今度は東門側にグレイフルを閉じ込めた。


『何なんですの? 何を考えていますの、あの勇者は? 門番をしていたのではなくて?』


 一見、グレイフルの退路を塞いだようにも見えるけど、勇者が離れていったのでは誰がグレイフルを倒すというのか。王宮兵ではグレイフルに太刀打ちできないはずだ。


 となると、やはり狙いは――。


「ピンチになったから勇者は逃げた! そういうことだよね!?」


 思ったとおり。勇者はお兄ちゃんの指示で戦線から離脱したのだ。


 それにしても、勇者がいの一番に逃げ出すって設定的にやばくない? お兄ちゃんはそんなの気にしないんだろうけど、当のオプロン・トニカはどう思っているんだろう。


 ま、どうでもいいか。


「グレイフル、勇者を追って! そんでぶっ殺して!」


『ええ。逃がす気はさらさらありませんわ。ですけど――』


 王宮兵が行く手を塞いだ。


『少々時間が掛かりそうですわね』


「五対一か……。ここまでフラストレーション溜まってっからね! 一気に片付けるよグレイフル!」


『もちろんですわ!』


「うおおおおおおおおお!」

『うおおおおおおおおお!』


 グレイフルが王宮兵に飛び掛かった!

 

――――――――――――――――――――――

 グレイフル    LV.14

          HP  419/575

          MP   81/81

          ATK 124

――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――――

 王宮兵(5)   LV.13  

          HP  220/220

          MP    0/0

          ATK  55

――――――――――――――――――――――




 ところで――、放っておいてもいいとは思うんだけど、さっき消えた魔導兵は一体どこにいるのやら。



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