表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/335

狂奔


 それはまさに突風の如き飛翔であった。


 大気を切り裂いて滑空してくる女王蜂に、王宮兵たちは竦み上がる。


 バリアが立ち塞がっているにも関わらず、今にもその槍が喉元を突き刺してくるのではないかと錯覚させられる。それほどに恐ろしいプレッシャーだった。


 そしてそれはグレイフルだけに留まらない。部下である働き蜂五体も追随してバリアに押し寄せてきた。


 下策の極み。ダメージを負うとわかっていながら、愚直にバリアに槍を突き立てた。


 グレイフルの攻撃!

 バリアにダメージを与えた!

『41』


 バリアが衝撃を跳ね返す!

 ガギィインッ!

 グレイフルにダメージを与えた!

『7』


「まだまだですわ!」


――――――――――――――――――――――

 グレイフル    LV.14

          HP  510/575

          MP   81/81

          ATK 124

――――――――――――――――――――――


 働き蜂たちも左右のバリアを攻撃していく。


 働き蜂①の攻撃!

 バリアにダメージを与えた!

『7』


 バリアが衝撃を跳ね返す!

 働き蜂①にダメージを与えた!

『8』


―――――――――――――――――――

 働き蜂①    LV.2

         HP  52/60

         MP   3/3

         ATK 22

―――――――――――――――――――


 カウンターは避けられない。


 だからといって萎縮していても始まらない。


 傷ついても倒れても、前進するしか道はなく、その先にしか勝利はない。


 下策であろうと愚直であろうと、物理的攻撃でしかバリアを打ち破れないのであればそうするまで。それ以外の方法を知らなかった。


 否! 姑息は女王蜂に似合わない!


 正々堂々! 正面突破! 力でねじ伏せてこそ正しき覇道!


「何よりッ、そうでなければ美しくありませんわッ!」


 グレイフルが自負とするのは、何が何でも勝つということではない。如何にして勝つか、ということだけである。


 勝利することや相手を殺すことは決定事項であり、内容に無様があることをとにかく厭った。女王に相応しい勝利にしか興味はない!


「攻めよ! この障壁を突破し! 敵将の首を討ち取れ! わらわに献上せよ!」


「献上!」

「献上!」


 女王蜂が令を発し、働き蜂たちが呼応する。


 槍を繰り出し、跳ね返ってきた衝撃にいくら吹き飛ばされても、諦めない。何度でも立ち上がる。バリアを崩し、壊し、再生すればまた壊す。そうして出来たスペースに働き蜂が踏み込んで新たなバリアの複製を阻害する。


 ダメージを負いながらも止まらぬ猛攻。


 茨の道を行くが如く、進むたびに傷ついていく。


「オォオォオォオオオオォ――――ッッッ!」


 その雄叫びをオプロン・トニカは演奏の音色の狭間に聞く。


(何だと言うのです!? 魔王軍とは一体!?)


 己の命ですら軽々しく投げ打つ野蛮さ。やはり人類と魔族が分かりあうことはない。種を優先し個を殺すその在り方は虫けら同然だ。


 魔王軍幹部にして蜂の化身というから然もありなん。部下を平気で死地に引き連れるその狂奔はまさに蛮夷にしか為せない所業である。


 こんなものは戦いとは言えない。


 こんなものは策略とは言わない。


 こんな……こんな……。


「死を恐れてはなりませんわ! 美しくあろうと努め、その結果散るのなら、それは誉れとなりますわ! わらわの部下に相応しく! ――突貫!」


「突貫!」

「突貫!」


 働き蜂の突撃は止まらない。


 死よりも何よりも女王蜂の寵愛から外されることをただ恐れて。


 オプロン・トニカには理解できない。


 しかし、魔王軍の士気は確実に上がっていた。


(第一防衛線が突破された――!)


 統一された群の動きに翻弄されていく。次々にバリアが破られていく。


(第二防衛線も突破されたッ!? このままでは……っ)


 オプロン・トニカは勇者スキル《ウォール・オブ・サウンド》を一旦停止し、楽曲を攻撃魔法に切り替える。バリアを突破されるのはグレイフルと、その部下たちの連携が上手いからだ。まずはその連携を断ち切らねば。


「喰らいなさい――――っ!」


==聞け! 氷の精霊よ! 我を隔絶する者よ!==

==永遠に祈りつづけ、我が道を閉ざせ!==

==不死でありながら呼吸を止め、境界を映せ!==

==ローセル、アングル、シュール、ラングラン、コギュ、ラ、マルタ==

==紡げ――《ヘイルストーム》!==


 氷の弾丸で働き蜂たちを狙い撃つ!


 範囲魔法が標的にしたのは働き蜂③と働き蜂④である。射線にグレイフルがいなかったのは残念だが、今はまず敵の数を減らすことが最優先。手駒がいなければバリア生成を阻害できないし、突破力も削れる。魔王軍の進軍を止めて押し返すにはこれしかない。


 氷の弾幕が降り注ぐ。正面から浴びせられた働き蜂はその体に無数の風穴を開けた。


 働き蜂③にダメージを与えた!

『55』


―――――――――――――――――――

 働き蜂③    LV.2

         HP   5/60

         MP   3/3

         ATK 22

―――――――――――――――――――


 働き蜂④にダメージを与えた!

『56』


 働き蜂④がやられました!


 一体減らした。――だが、この一ターンを消費したことでバリアの複製が間に合わない。


 その隙を衝いたグレイフルが三列目のバリアに槍を突き入れた。


 バリアが衝撃を跳ね返す!

 グレイフルにダメージを与えた!

『8』


――――――――――――――――――――――

 グレイフル    LV.14

          HP  434/575

          MP   81/81

          ATK 124

――――――――――――――――――――――


 バリアを破壊した!


 すかさずそのマス目に働き蜂②が移動する。


 ついに、バリアの防衛ラインは第四、第五を残すのみとなった。


 眼前にまで迫ったグレイフルに、オプロン・トニカの闘志は萎縮するどころか再燃した。


「――よろしい。ならば、貴女の部下を一人残らず葬って差し上げましょう。たった一人残されたお嬢さんに何ができるか見物です」


 一呼吸置いて、グレイフルは応えた。


「心配ご無用ですわ。働き蜂が切り開いた道をむざむざ閉ざすわらわではありませんの。きっちりとおまえを仕留めてやりますわ!」


 決着の刻は近い――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ