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新規シナリオ『滅びの幕開け』


 北国ラクン・アナで魔石鉱山急襲ミッションを終え、難なく魔石を手に入れた。今後は【調達】コマンドでラクン・アナの魔石鉱山を選べば魔石が取り放題だ。といっても、一回につき一個しか収穫できないんだけどね。


【錬金】で使用する魔石の個数は、生み出すアイテムのレア度が高くなるほど多くなる。物によっては200個とか500個とか必要になることもあるんだ。ちまちま取ってたんじゃ間に合わない。


 ま、その辺はおいおいね。


 これでも一応考えてあるのだ。


【演習】をゴドレッドとリーザ・モアにそれぞれ五回ずつ行わせて、レベルを3まで引き上げる。ようやくカリスマ値が閾値を越えた。これで部下であるゴブリンやシルフを操ることができる。


 ちなみに、レベルが上がれば従わせる部下も上位の魔物に変えられる……んだけど、魔物調達に必要な【角笛】がないのでしばらくはこのままだ。本当はチュートリアルの戦いで入手できたはずなんだ。後でまた入手する機会があるからいいけれど、いま手にしてないのはやっぱり悔しい。

 はよチュートリアルのリベンジがしたいぜ、まったく。


 クニキリの強化は後回し。お兄ちゃんが仕掛けてくる前に間違いなく勝てる戦士を一人は確実に作っておかなくちゃ。満遍なく――、なんてやってたらたぶん間に合わない。


 獲得した経験値ポイントをステータス画面にある各種パラメータに割り振る。ゴドレッドはひたすら攻撃力を、リーザ・モアはひたすら魔力を強化。私はどちらかと言うと攻め重視だ。防御力とか精神力とかの強化はレベルアップで底上げされる分だけで構わない。必要なのは一撃で仕留められるほどの絶対的パワーなのだ!


「ふふん。お兄ちゃんの驚く顔が早く見たいぜ!」


 見えないけどね。


 あっちはゲームの中だし。転生キャラも知らないし。


『魔王様♪ 魔王様♪ 大変だよ! 大変、大変!』


 出たな。アー君。


 そのテンションで出てくるってことは、人類側に何か動きがあったな?


 さあ、お兄ちゃん。


 どう出る?


 もうちょっとやそっとのことじゃあ驚かないよ。いきなりココ――魔王城に攻め上ってきたとしたってドンと対応してみせるし。勇者はまだひとりしか覚醒していないから、向こうの戦力は高が知れている。今のゴドレッドとリーザが相手なら、たぶん五分五分ってところかな。


 でも、忘れてない?


 ココには総大将の魔王がいるんだよ?


「って、忘れてるわけないか。魔王討伐が最終目標なんだから。お兄ちゃんも私を殺したがってるんだった」


 ココには魔王と、幹部が三人。


 あっちは勇者アテアと、ハルスたち農耕兵が数人程度。


 チュートリアルは落としたけれど、手の内がわかっている今なら負けない。


 掛かってくるがいい。


 返り討ちにしてやるわ!


「うふ、うふふ、うふはははっ!」


 部屋の中でひとり滾りながら決定ボタンを押す。


 すると、アーク・マオニーから次の台詞が飛び出した。


 それは予想外の台詞だった。


『アンバルハル辺境の村が次々に滅ぼされています! 人類がどんどん駆逐されてますよーっ♪ やったね、魔王様♪』


 …………


 ……


「は?」


◇◇◇


 辺境の村への【偵知】には【魔忍クニキリ】を遣った。


 もし万が一、これがお兄ちゃんが仕掛けた罠だとしたら、【偵知】に遣った幹部が殺される恐れがある。


【偵知】を行わないという選択肢はない。かといって、ゴドレッドとリーザ・モアを失うわけにもいかなかった。クニキリも優良キャラだが、ふたりに比べれば一段落ちる。苦渋ではあるが、クニキリを捨て駒に使うしかなかったのだ。


 お兄ちゃんめ。私がクニキリを仲間にしたのを見越して罠を仕掛けたのだとしたら、ホント大したものだと思う。これ以上ないってくらいこの嫌がらせには揺さぶられた。


 でも……もしこれがお兄ちゃんの罠じゃないとしたら?


 人間の村を滅ぼすのは魔王軍しかいない。けれど、私はそんな指示は出していない。どの村にも【農耕兵】がいたらまず勝てないから、幹部のレベル上げに専念するしかなかった。


 チュートリアルでの嫌がらせは、私を慎重にさせる効果も狙っていたはずだ。その策略にまんまと嵌ったせいで、序盤に攻略すべきアンバルハルへの侵攻が一つも進めなくなってしまった。


 これこそ、お兄ちゃんの狙いだったはずなのだ。


 じゃあ、どうして村が滅ぶ?


 私は何もしていないし、お兄ちゃんだって守った村を自ら滅ぼすわけがない。


 じゃあ、誰が村を滅ぼすの?


 もし、この展開がお兄ちゃんの思惑どおりじゃないとしたら。


「ゲーム世界がもう狂い始めている……?」


 ――い、いやいや、結論を出すのはまだ早い。


【偵知】で得た情報がなければ推理のしようがないじゃない。クニキリが戻ってくるまで、私は上の空のままゴドレッドを【演習】に回した。


 七回目の【演習】が終わり、ゴドレッドのレベルが4に上がったときだった。


『魔王様! 【魔忍クニキリ】が【偵知】から帰ってきました♪』


 アークの声にびくりとなる。


 無事に帰ってきた?


 罠じゃなかったということかしら……


 安堵と不安を半分ずつ覚えていると、ピロリン、と軽快な音が鳴った。


『【軍議】に新たなシナリオが追加されました』


 ……これを観ろってことだよね?


 私は【軍議】の中の【引見】を選び、【NEW】マークが付いたシナリオにカーソルを合わせる。


――――――――――――――――――――――――――

◇ 滅びの幕開け(アンバルハル辺境の村)【NEW】

――――――――――――――――――――――――――


 正規の本編でも同様のタイトルがあったが、それはチュートリアルで【アコン村】を滅ぼした際のシナリオである。本当ならハルスやリリナといった村人を人質にして、第一ステージで戦う勇者を誘き出す内容なのだが。


 どのように変わっているのか。


 アンバルハルでは一体何が起きているのか。


 決定ボタンを押す。


 新規シナリオ、オープン。


◇◇◇


 場面は玉座の間に転換され、【魔忍クニキリ】の立ち絵が現れた。


『クニキリ』


『ここに』


『おまえを呼び出したのは他でもない。アンバルハルで何があった? 何を見た?』


 クニキリは一瞬目を伏せ、三白眼をぎょろりと正面に戻した。


『はっ。拙者が到着したときにはもう村には火の手が上がっておりました』


『火の手だと?』


『村は一面火の海で、生きた人間の気配は皆無。何者かの襲撃にあった模様。辺境の村はほぼ全滅しておりました』


 全滅?


 滅びた村は一つや二つじゃなかったってことか……


『何者かの襲撃……か。下手人は魔族ではないのだな?』


『拙者のように封印されていた者が、魔王様復活の余勢を受けて蘇り、人間どもに報復しているものと当初は考えましたが、しかし、それはありえぬことかと』


 すると、アーク・マオニーの立ち絵が現れた。


『魔族の動向はボクが監視しているからねー。封印が解けた時点でボクの『目』に引っ掛かるよ♪ 今回のことは魔族がやったことじゃない。ボクが保証しますよ、魔王様♪』


『クニキリよ、おまえの目に村の惨状はどう映った?』


『不自然……。そのように感じました』


『ほう……』


『抵抗の跡がありませんでした。襲撃を受けたのなら、人間は無駄に足掻き、あるいは逃げ惑うもの。しかし、死体はおろか血痕さえも見当たらなかったのです。まるで、煙のように消失していた……』


 クニキリは自分で言っておきながら、得心がいかない、という顔をした。


 ……煙のように消失した? 人間が?


 私は何か引っ掛かるものを感じた。


 魔王が言う。


『して、すべての村が灰燼に帰した……のか?』


『いえ、炎上した村は三つ。他の村は、村人が消失した以外に大きな損傷はなかったかと』


『他に気づいたことはあるか?』


『おそらく下手人ではないと思われますが』


 一旦間を置いて、クニキリは眼光を鋭くした。


『流浪の民・エトノフウガの者と接触いたしました』


◇◇◇


 場面が変わる。クニキリの回想シーンだ。


 村内を背景にクニキリの立ち絵が現れる。SEで砂利を踏む足音が響く。無人の村を警戒しながら歩いていた。


『妙だな……。どの家も中は綺麗に片付けられている』


 クニキリは考える。


(盗賊に襲われるにしろ、突然煙のように消えるにしろ、直前まで普通に暮らしていたはずだ。日用品を使用していた跡すら見当たらないのはさすがにおかしいだろ)


 すべての家を調査し終え、村を後にしようとしたそのとき、クニキリが叫んだ。


『何奴!?』


 遮蔽物のない広場の真ん中で、スゥッと立ち絵が現れる。


 黒装束を着た黒髪の女の子だった。


『てめえ、エトノフウガか……』


 エトノフウガ族の【剣士ソヨカゼ】。


 エトノフウガとは国を持たない流浪の民で、格好や人名がもろ和風。現実世界の日本人をモデルにしているのは明白だった。


 でも、どうしてこんなところにソヨカゼが?


 エトノフウガ族が登場するのはもっと後のはずなのに。


 そういえば、設定では魔族の動向をゲーム序盤からずっと監視していた……んだったっけ?


 エトノフウガ族は魔族にも人類にもどっちにも加担せずに中立の立場を貫くんだけど、最終的には神討伐に助力してくれる。


 戦闘民族であり、剣術と体術の達人が多く居て、敵に回すとものすごく厄介なんだ。


 ソヨカゼが口を開いた。


『そういう君は屍鬼か。系譜を同じくする者とお見受けするが』


『大昔のことなんざ知らねえよ。この身は魔王様にお仕えするためにのみ存在する。出自も種族もどうだっていい話だろうが』


『その忠義に厚いところは他人とは思えぬ。が、たしかにどうでもいいことだった』


 クニキリが二本の短刀を両手に構える。クニキリの戦闘スタイルだ。


 対して、ソヨカゼは抜刀することなく背を向けた。


『逃げるのか?』


『いま君と戦う理由がない。お互い、異変を嗅ぎつけて物見に来ただけだろう。ならば、後はこのことをそれぞれの主に報告するのみ。違うか?』


『生憎と、拙者は殺生を禁じられちゃいねえのさ』


『私もだよ。しかし、私は好まぬ。意味がないし、何より疲れる』


 現れたのと同じように、フッ、と唐突にソヨカゼの立ち絵が消えた。


『……ッ!?』


 クニキリは後を追うこともできず、渋々構えを解く。


 たぶん、戦っていたら負けていただろう。エトノフウガ族はこのゲームではジョーカーのような存在だ。中立の立場ではあるが、稀に【侵攻】したバトルフィールドにエトノフウガ族のキャラが参戦してくることがある。敵側にたったひとり加わっただけでこちらが全滅しかねない事態に陥ってしまうのだ。なのに、エトノフウガ族はいくら倒しても退けるだけで殺すことができず、運が悪いと、何遍も同じキャラが【侵攻】を邪魔しにくる。


 ソヨカゼはエトノフウガ族の中でも二番目に厄介なキャラだ。


 LV.1のクニキリではどうあっても太刀打ちできない。


 退いてくれて助かった。――って、これ、回想なんだから心配する必要ないんだけど。


 回想シーンが終了した。


◇◇◇


『エトノフウガ族でさえ警戒する事態ということか……』


『魔王様♪ こんなの放っておいていいと思いますけど? エトノフウガも所詮人間だしさ! 人間がいくらくたばったって嬉しいだけで痛くも痒くもないもんね♪』


『そうもいかぬ。アンバルハルでは何かが起きている。アークよ、特に注意しておくのだ』


『えー? 面倒臭いなあ。そんなの魔王様が自分でやってよ』


 生意気なアークを『無礼者め!』と叱責するクニキリ。


 この後、ふたりの喧嘩を魔王が仲裁するというドタバタコントに無理やり発展して、【引見】シナリオは終了した。


 炎上した村。


 消失した人間。


 早くも登場したエトノフウガ族のソヨカゼ。


 先の展開がまったく読めない。


「……これはこれで面白いけどさあ」


 大好きな【魔王降臨】がどんどん違うゲームになっていく。


 お兄ちゃんめ……


 私のゲームに何してくれちゃってんの?


お読みいただきありがとうございます!

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