お兄ちゃんの目的って?
勝利条件が【勇者の撃破】である以上、バリアを突破しなくちゃいけない。
でも、そのバリアを破ることがほぼ不可能。
こんな戦い方ってない。
お兄ちゃんめ、相変わらず人が嫌がることが得意なんだから。マジ最低。
でも……でもさ――、だったら、お兄ちゃんの目的は何? こんなことして何の意味があるの? って思った。
お兄ちゃんのことだから私の性格を読んだ上で、この作戦が一番効果的だと判断したはず。
実際、結構イラっときてるもんね。さすがはお兄ちゃん。
けどね、困りはするけど実のところそれだけなんだ。
別にグレイフルが窮地に立たされたわけじゃない。
北門の戦いのときみたいに絶体絶命のピンチに陥ったわけじゃない。
攻め手を欠いた――なら、一時撤退したって構わないんだ。
超攻撃型の布陣で出撃ユニットを組み直せばたぶん攻略法だって見えてくる。(グレイフルが撤退命令を聞いてくれる保証はないけど)
相手は亀のように身を縮ませて守っているだけ。じっとしているだけなら怖くもなんともない。
撤退するっていう手がある以上、私は別に困らないのだ。
じゃあ、狙いは何?
お兄ちゃんは勇者に一体何をさせているの?
東門の死守?――なんだかしっくりこない。
時間稼ぎ?――でも、私のプレイ時間とゲーム世界の時間の流れが影響しあっているとはちょっと考えにくい。
たとえば、文章で「一週間後」とか「一年後」とか書いちゃえば、設定上、それだけの月日が経過したことになるよね? 所詮は創られた物語。プレイヤーの視点では一瞬だ。
でも、実際に中で生きているキャラクターたちはきちんとその時間を生きている……はずなんだ。
転生した先がプレイヤーの決定ボタン一つで時間が進むんだったら、いくらお兄ちゃんでも世界を変えようがないだろう。
プレイ時間とゲーム世界の時間の流れが違うなら時間稼ぎなんて無意味だ。
となると、あと考えられるのは――。
「私との戦いを避けてる?」
何でって思われるかもだけど、……うん。それが一番しっくりくる。
で、それが何でかって考える。
――考えろ。考えろ。
お兄ちゃんなら私が一番嫌がることを仕掛けてくるはず。それが何なのか考えろ。
私がされて嫌なこと……。
「あ、わかった。お兄ちゃんの考えてること」
……ぇえ? でも、マジで? そんなん反則じゃんか。
思えば、『北門の戦い』も不自然な終わり方をした。
勝利条件は【勇者の撃破】だったのに、なぜか勇者を倒してもいないのに勝利のファンファーレが鳴りプレイヤーが勝利したことになった。あの展開はやっぱりおかしい。
だけど、『私との戦いを避けるため』と考えると辻褄が合うんだよね。
正確に言うなら『勇者を逃がすため』だね。
そう。お兄ちゃんの狙いとは、この第四ステージで勇者を一人も殺させないことなんだ。
北門での途中終了も、この東門での籠城戦も、勇者を死なせないための戦略。私に勇者を各個撃破させないつもりなんだ。
この第四ステージはシナリオ上避けては通れない。ううん、多分どのステージもシナリオ通りにいくしかない。
だって、本気で私との戦いを避けようと思ったらこの戦いを起こさないようにすればいいんだから。
おそらく、ゲームのシナリオは変えられない。お兄ちゃんに変えられるのはその内容だけ。戦いの結果だけなのだ。
第四ステージは予定通り行われている。じゃあ、次の第五ステージも必ずあるってこと。
第一章の終盤――第五ステージは両陣営の駒をすべて出し合う総力戦。
お互いに手駒が多いほうが有利になる。
そう。お兄ちゃんはそのときのために戦力を残しておこうとしているんだ。そのために勇者を生かそうとしているんだ。
もし、お兄ちゃんの思い通りになったとしたらどうなると思う?
この章のラスボス的存在の『剣姫アテア』と、取りこぼした勇者たち『中ボス』が最後のバトルステージに一挙に投入されることになる。
一つのフィールド上にボス級の敵が三人も四人もいたとしたら……。
――ね? 勝てるわけないじゃんよ。絶対クリアできないっての。
これって、今後のシナリオを知っているからこそできることなんだよね。
つまり、如何にそのときまで戦力を温存・拡充しておけるかってことが、私とお兄ちゃんの戦いの本質だったんだ。
「もちろん知ってたよ? うん。私もそのつもりだったし? うんうん」
お兄ちゃんが第五ステージまで表に出てこないのは予測済み。
逆に考えれば、第五ステージには必ずお兄ちゃんはバトルフィールド上に現れる。
私が今すべきことは、最終ステージに投入されるかもしれない敵を一人でも多く減らすことだ。
勇者を逃したら絶対に駄目。
第四ステージに出てくる勇者は一人残らず殺さなくっちゃ。
サザン・グレーを追ったリーザは正しかった。だから、
「この東門の戦いでも確実にオプロン・トニカをぶっ殺す。――わかった? グレイフル」
『当然ですわ!』
グレイフルも気力十分。
ひとまず、この膠着状態をぶち破れ――!
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