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東門攻防戦、開始


―――――――――――――――――――――――――

 第一章第四ステージ『王都アンハル~勇者討伐~』


        ―東門の戦い―

   勝利条件【勇者オプロン・トニカの撃破】

―――――――――――――――――――――――――



 特攻――刺突ッ。


 グレイフルの魔槍が再度勇者に牙を剥く。だが――、


 ガギィインッ!


「ッ! チィ――――!」


 空中で見えない壁に弾かれてしまい、その衝撃で踏み切り位置まで戻される。


 都度、八回。グレイフルはいまだに攻めきれずにいた。


 東門を守護する勇者、オプロン・トニカは宮廷音楽家である。


 その戦闘スタイルは独特で、常にアゴ先に構えたヴァイオリンで音を鳴らし、奏でた音楽を詠唱代わりに魔法を発動させていた。


「ほっほっほ。せっかちですな、魔族のお嬢さん。まだ第一楽章も終えておりませんぞ。音楽は心穏やかに堪能するものです。そして風雅とは享受する者の振る舞いと併せて現れるのです」


「わらわを下品と詰っているつもりですの? 戦場に場違いな音をかき鳴らす輩のほうがよっぽど無作法ではなくて?」


 オプロン・トニカは口許に笑みを刻むだけで、演奏する手を止めなかった。


 それは既存の楽曲をベースに戦況にあわせて即興を交えた奇想曲。


 奏者であるオプロン・トニカはただ佇んで演奏をしているのに、曲調が軽やかになればステップを踏んでいるかのように見え、悲壮感漂うアダージョを奏でれば跪き頭を垂れているかのように錯覚させる。


 音で幻覚を見せる魔法使い。


 だが、グレイフルの目の前に展開されたソレは間違いなく質量を伴った堅固な『壁』であった。


 大気中に浮かび上がった円形のバリアで、物理的攻撃を防ぎ切り、時にはその衝撃すら相手に跳ね返す。


 自ら放った刺突の衝撃を幾度も受けたグレイフルは少しずつダメージを重ねていた。


 勇者スキル《ウォール・オブ・サウンド》


「さあ、わたくしの演奏をどうぞ心ゆくまでお楽しみくださいませ」


 音色は緩急激しさを増し、バリアの数もリズムに合わせて増えていく。


(勇者の戯言はともかく、このスキル、なかなか厄介ですわね……)


 グレイフルは思わず己の槍を見下ろした。


 日傘の形状をしていて、傘を開けばそれは盾となり、オプロン・トニカの魔法と似たような効果を発揮する。


 プライドが邪魔をしてこれまで使ったことはなかったが、円形のバリアに阻まれるたびに自身の得物の能力さえ克服できていないのかと揶揄されたみたいで腹立たしい。


(力で押し切るしかありませんわね……)


 バリアは不滅ではない。時をかければ自然に消滅するし、叩いた箇所にはヒビが入った。強度はそれほど高くない。


 その証としてオプロン・トニカはバリアを生成する演奏を止められないでいる。常に増やしていなければ消費量に追いつかないのだ。


 オプロン・トニカは守りを増設するだけで積極的に攻撃してこなかった。


 その目的はおそらく時間稼ぎ。ここを陥とせないとわかれば魔王軍は別の門に兵を移動せざるをえなくなる。


 オプロン・トニカにとって門の死守が第一義、あわよくば背後を衝いて魔王軍を追い払えれば最上の結果となる。


 翻ってみれば、グレイフルは決してこの場から引いてはならず、オプロン・トニカの時間稼ぎに付き合うほかない。


 時をかければ結局は軍を引くしかなくなるが、そのときはやはりオプロン・トニカの思惑どおりの結果をもたらすことになる。


「付き合ってられませんわね」


 バリアごとぶち抜いてあの勇者を始末し、東門をこじ開ける。


 結局、やることは同じ。


 グレイフルは魔槍を両手持ちに構え直した。



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