その1「おとぎばなし」
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・ 鬼になった日 (鬼武者ゴドレッド)【既読】
・ 蝶よ、花よ (殺戮蝶リーザ・モア)【既読】
・ 流浪の果て (魔忍クニキリ)【既読】
・ ノブレス・オブリージュ (女王蜂グレイフル)【既読】
・ 君に名を (赤魔女ナナベール)【既読】
◇ 世界で一番美しい花 (殺戮蝶リーザ・モア)【NEW】
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◇◇◇
遥か昔。まだ人類が誕生するずっと前。
神様はあらゆる精霊たちに命じました。
『この世界に生命を作りだせ。そして、いずれ人間で満たすのだ』
それは人間のための世界の創造でした。精霊たちは神様の命に従い、人間が暮らしやすい環境を整えていきます。
水の精霊は生命を作りました。
火の精霊は生命を守りました。
土の精霊は生命を育みました。
風の精霊は生命を増やしました。
光の精霊は生命を導きました。
闇の精霊は生命を強くしました。
やがて動植物で世界は満たされました。人間が誕生するまであと少しです。
花の精霊は世界をキレイに着飾りました。
彼らの使命は大地に彩りを与えること。
種々の花を創造し、風や虫や鳥を誘惑して種を運ばせます。
そうして勢力図を拡大していきました。
一時の間ですが、世界は花によって支配されました。
それでもまだまだ花はおろか、動植物の定着を拒絶する大地が残っていました。
後に魔王が追いやられる【死の大地】もその一つです。
一度は世界を席巻した花の精霊たちはその誇りに賭けて不断に【死の大地】に挑み続けました。
もっとも、派遣された花の精霊は種族において落ちこぼれに当たる個体ではありましたが。
翻れば、一輪の花も咲かせたことがない落ちこぼれに任せている時点で花の精霊たちは【死の大地】に花が咲くことを期待していなかったのです。
◇◇◇
落ちこぼれの精霊が毎度遣わされる場所はほとんどが植物が育ちにくい土地でした。
最初に引いた土地からして不毛の大地で、成果が出なかったことで落ちこぼれの烙印を押され、以降も見限られた土地にばかり派遣されました。ひどい悪循環です。
本当はみんなその不遇に気づいていましたが、当の落ちこぼれの精霊だけが成果が出ないのは自分の努力が足りないせいだと信じて疑いませんでした。
もっとがんばらなくちゃ。
もっとがんばらなくちゃ。
来る日も来る日も、せっせとせっせと。
そこらじゅうに種を撒き、光や風や水の精霊にお願いして種に養分を与えました。
せめて一輪だけでも。
ううん、せめてせめて芽が出てくれれば望みは繋げられる。
こんな土地にも花は咲くかもしれないって、希望が持てる。
がんばらなくちゃ。がんばらなくちゃ。
がんばって。がんばって。
お花さん。
どうかがんばって咲いてください。
いつまでもいつまでも。
とても長い間、落ちこぼれの精霊は花の栽培に尽力しました。
◇◇◇
結果は、――やはり芽が出ることさえ叶いませんでした。
「そろそろ無理だとお気づきになられたら? あなた、騙されていますのよ?」
ほかの花の精霊にそう言われました。
「騙されているって、どういうことですか?」
「こんな枯れた土地にお花が咲くわけないでしょう。そんなのみーんな知ってるわ。もちろん神様だって」
「そんなっ」
「それよりもここから離れた土地で、見込みはあるのにまだ花が咲いていない場所でがんばったほうがよっぽど有意義というものだわ。一輪でも多くお花を咲かせたいのでしょう? なら、そうしたほうがいいのではなくて?」
「でも、……ここがわたしに与えられた土地ですから」
「ああ、なるほど。そんなだから落ちこぼれなんですわ。だったら一生そうしていなさいな」
花の精霊は呆れてどこかへ行ってしまいました。
落ちこぼれの精霊は愕然としました。
自分は努力が足りないだけでなく頭のほうも足りていなかったようです。
ここでいくら粘っても花が咲くとはもう思えません。同じ時間を費やすならほかの土地に移ってやったほうが確かに意義はありそうです。
「でも、そんなに離れられませんし。どうしましょう。――あ」
海の向こう。一際聳え立つ山影がうっすらと見えます。
あの山の頂上はどうでしょう。
ここからでもかろうじて見えますし、あそこにお花が咲いていたらとてもステキです。
ひゅん、と飛んでいき、山の上を見て回ります。
岩でゴツゴツした山肌に花は一つも見当たりません。ほかの精霊たちの姿も見えません。
「ここにしましょう! ここにお花を咲かせましょう!」
図らずもその山の頂上は世界で一番高い頂きでした。
そんな場所に花を咲かせることができたならこの上ない偉業となることでしょう。
◇◇◇
それからまた途方もない年月が流れました。
落ちこぼれの花の精霊は一輪の花を咲かせるために自分の存在力をすべて注ぎ込みました。
その甲斐あってついに世界一美しい花が山の頂きに咲いたのでした――




