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伝授


 向かってくる王宮兵に《フレアウェーブ》をお見舞いする。中位人撃の範囲魔法だ。しかし、王宮兵が怯む気配はなかった。


 さすがは王都の警護を任されただけあって敵は硬い。HPの高さもあるが、これまで相手にしてきた兵士とは錬度と格が違っていた。隊列は乱さず、かといって馬鹿正直に単一の行動を取るわけでもなくリーザの魔法に臨機応変に対処してくる。


 ゲーム画面上では五体だが、実際の戦場では数十人もの兵士がリーザ目掛けて殺到していた。先陣が倒れても構わない。先陣を盾にした後列が――その内の誰か一人でもリーザに届けばそれでいい。そういった戦い方だった。蟻の一穴で牙城を崩すが如く。兵士たちの統一した意思がリーザ・モアの首を取らんと押し寄せる。


「くっ……」


 リーザは後退しつつ魔法を放った。


==聞け! 火の精霊よ! 我を監視する者よ!==

==孤独を排し、我の胸を暖めよ!==

==永久の眠りから目覚め、不正を殺せ!==

==ローセル、アングル、シュール、ラングラン、コギュ、ラ、マルタ==

==紡げ――《フレアバースト》!==


 MPを『10』消費する高位人撃魔法。


 前方16マスの正方形の範囲内にいる敵を吹き飛ばす爆撃弾だ。《フレアウェーブ》では怯まずともこの高位魔法であれば少しは足止めになるはず。強化された《ファイアーボール》を弾幕にして撃ち込んだようなもので、敵の被害は一人や二人では利かなかった。


 にもかかわらず、やはり兵士の突進は止まらない。


 槍をもった王宮兵。サザン・グレーが指揮する第二兵団の兵士たちは統率の取れた動きで攻め、ついにリーザに肉薄する。


「ちぇええええええいっ!」


 槍で突いてくる。槍の射程距離はニマス。たとえ隣接していなくても長槍の穂先が届けばそこが間合いとなる。


 リーザ・モアにダメージを与えた!

『40』


―――――――――――――――――――――

 リーザ・モア  LV.15

         HP  470/510

         MP  246/261

         MAT 120

―――――――――――――――――――――


「やりますわね……!」


 舐めて掛かればやられる。たかが人間の兵士だがまるで気が抜けない。


 いまだ門前から一歩も動いていないサザン・グレーを確認し、リーザは内心で舌打ちした。


(魔王様の言うとおり、なかなかしんどい状況ね――!)


 とにかく目の前にいる雑魚を片付けねば敵将に近づくこともままならない。


 あの勇者との戦い方を考えるのは後回し。


 というより、魔王様に丸投げする。


 今は万全の体勢で勇者の許に辿り着くことだけに専念しよう。


 リーザが取るべき手段は――。


「シルフたち! 私を守りなさい!」


 部下を盾にするしかない。王宮兵の攻撃範囲内に割り込み、リーザの代わりに攻撃を受けていく。おかげでこのターン、リーザが受けたダメージは最初の『40』だけだ。


(またこんな戦法しか取れないなんて……)


 頭に来る。でも、


(今回は前回とは違うわ――!)


 リーザ・モアの初期の部下であるシルフは、『LV.10』でレベルMAXだ。


 直属の部下がレベルMAXで、かつ気力ゲージがMAX状態のとき、幹部が近くにいる場合【連携スキル】が発動する。いわば、部下の固有スキルである。


「いくわよ! 私に合わせなさい!」


 クゥ!


 シルフが呼応した。


 アニメーションカットイン。風の妖精シルフがリーザの許にやってくる。可視化した風となってリーザの腕に巻き取られ、腕の一振りに合わせて突風となり飛んでいく。突風は鋭い刃と化し、敵集団を切りつけていった。


 連携スキル《かまいたち》


「ぐあああああ――――っ!」


 王宮兵が倒れていく。


「さすが私の部下たちね。誇らしく思うわ」


 本当に強くなった。褒めて頭を撫でると、シルフは歓喜してリーザの頬にキスをした。


 重ねて《かまいたち》をさく裂させる。


《フレアウェーブ》に《フレアバースト》、そしてこの《かまいたち》で平均して『50』ずつダメージを与えてきた。すべて範囲攻撃だったから、HP220の王宮兵はいまだに立っている者でもほとんど虫の息である。あとはシルフに任せても大丈夫だろう。


 リーザは王宮兵の頭上を飛び越えて、サザン・グレーに接近していく。


 勇者の背後に控えている魔導兵が若干不気味だったが、同じ魔法使いであるリーザにはさほど脅威に感じない。放っておいてもいいだろう。


「――魔王様。妙案は思いつきまして?」


 テレパシーを送ると、リーザの脳内に魔王の声が反響した。


『余は指図しかできん。力を発現させるのはリーザ、おまえ自身だ』


「わかってますわ。ですが、ご安心を。こと攻撃魔法に関して私の右に出る者はおりません。魔力行使は赤魔女より器用でしてよ」


『では、授けよう。新たなる応用魔法だ』


 リーザの頭の中に知識が流れ込んでくる。


 リーザは思わず閉じていた目を見開いた。


(――本気?)


 いやでも、理屈は通る。


 似たような魔法なら確かにあるし、以前使用した《エアーズキック》も同じ理屈で発動させた。


 しかしこれは……、これまで常識とされてきた価値観から大きく逸脱することにならないか。


 なぜかそんな不安が脳裏を過ぎる。


 神が創ったこの世界の常識を、なぜ神に叛逆する我らが遵守せねばならぬのか。そうは思っても本能的な恐怖を抑えつけることができなかった。


 危うい……。これはあまりにも危険な行為だ。


 神よりも、魔王様よりも、なお巨大な「力」への叛逆だ。


 世界を構成する「理」のようなものを瓦解させかねない非道だ。


 ――でも。


(興味はあるわね。その先に一体何があるのか見てみたい)


 たかが魔法一つでこの世界が壊れるとは思わない。


 ならば、限界がどこにあるのか探るのも面白いかもしれない。


 リーザの口許に笑みが浮かぶ。


「手始めに、そこの勇者を殺す魔法を編み出してご覧にいれましょう!」



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