王都侵攻
戦闘終了のファンファーレが鳴り響く。
――剣聖バーライオンをやっつけた!
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第一章第三ステージ『魔軍要塞・ハザーク砦――剣聖バーライオン』終了
勝利 魔族(鬼武者ゴドレッド)
敗北 人類(勇者バーライオン)
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◇◇◇
なんだこれ……。
バーライオン、くそザコすぎない?
一撃で死んだんだけど。
バーライオンには魔法を撥ね返す勇者スキル《マジックキャンセル》がある。だから、リーザやナナベールでは相性が悪く、クニキリやグレイフルでは膂力に差があり、ここではバーライオンに対抗できるのはゴドレッド以外に考えられなかった。
肉弾戦の真っ向勝負を挑んだつもりでいたのに、まさかたったの1ターンで勝負が決まってしまうとは。夢にも思わなかった。
それに、獲得した経験値はほとんどゼロ。
戦闘と呼べるものではなかった。
もう一度、今度は声に出して言ってみた。
「なんだこれ?」
お兄ちゃんの仕業? でも、仕業っていうには私側に被害が全然ない。ゲームシステムのバグでなければやっぱりお兄ちゃんが関わっているんだろうけど、そうだとしたらたぶん失敗したんじゃないかなあ。何を失敗したのかわからないけど。
わからないことだらけだ。
わざと勇者討伐で得られる経験値を無くさせたってことなら、まあ、惜しくはあるけど。でも、経験値なんてモンスターを狩っていたら自ずと貯まるし、物語が進行するに従ってレベルに見合ったステージが用意される仕様だからどうしても必要ってわけじゃない。どうしても今すぐ強くならなきゃいけないってわけでもないしね。
もしかして、お兄ちゃんは何かしくじったのかな。
バーライオンをうまく利用するつもりができなかった――とか?
うーん、お兄ちゃん側で一体何が起きているのか。覗いてみたい気もするけど、お兄ちゃんが主人公の異世界転生ラノベなんてやっぱり読みたくないわ。それがハーレム物とかだったらもう最悪。転生してもリア充とかなんなん? マジ死んでって感じだよね。
でも、逆に考えたら、めちゃめちゃ苦労してるお兄ちゃんってのはレアだから、ちょっとだけ見てみたいかも。凹んでるところをいじり倒して煽りまくりたいわ。
ねえねえ、いまどんな気分? って。
それを楽しみにゲームを進めていくのも悪くない。
最後に私が勝つのは当然として、お兄ちゃんが負けて悔しそうにしている姿を拝めるのはめちゃくちゃ楽しみだ。そんで、そのまま成仏してくれればいい。
やるか。続きを。
◇◇◇
第一章もまもなく終盤。
お次は第四ステージ。『王都侵攻』だ。
このステージはちょっと長丁場。ハザーク砦を攻められた魔王軍は一転して侵攻を開始し、王都アンハルを取り囲む。人間は籠城しながら防戦を強いられるのだ。
プレイヤーは、魔王軍幹部たちを操って王都の城壁に四方から大穴を空け、人間たちを籠城できなくさせればミッションクリアとなる。
言い換えれば、四箇所に戦力を分散させ、それぞれの場所で中ボス級の敵(門番みたいなやつがいるのだ)を倒さなければクリア条件は満たされない。
一気に四箇所を攻めるのもいいし、時間をかけて一箇所ずつ攻略していってもいい。制限時間があるわけじゃなく、【偵知】や【調達】の合間にちょくちょく進めていってもいい。すべてはプレイヤーの選択次第だ。
でも、さ。こういうのって同時攻略が基本っしょ。つか、それ以外ないっしょ。
四天王とかさー、そういう敵を味方が分担して局所で戦うっていう展開めっちゃ熱くない? 少年漫画でよくあるじゃん。私、あーいうのちょー好きなんだよね。
そりゃユニット組んで囲んでボコったほうが攻略は簡単だよ?
でもさ、それじゃ面白くないわけよ。
やるならイチ勇者につきイチ幹部をぶつける個人戦でないとね。
これこそ王道!
これこそ少年漫画でしょ!
ここは俺が引き受ける。おまえたちは先へ行け!――ってやつ。ちょーかっこいい!
上がるわ!
てなわけで、
「四つの門番を四人の幹部で各個撃破していくぜぃ!」
さて。じゃあまずは、東西南北どの門に誰を送り込むかだね。各所の出撃ユニット数は最大で二人まで送り込めるんだけど……さっき言ったとおり一人で立ち向かう!
それぞれの門番がどの勇者かってことは戦闘が始まるまでわからない。
でも、周回プレイの私にはすべてお見通しだった!
まずは相性で考えよう。
「――いや待てよ。お兄ちゃんもこの展開は知っているはず。私の思考も絶対に読まれてる。ってことは、勇者の配置を替えてきてる可能性だってあるんじゃないの?」
元々の配置は確かこうだったような……。
北門の勇者――【槍聖】サザン・グレー
東門の勇者――【宮廷音楽家】オプロン・トニカ
南門の勇者――【賞金稼ぎ】ジェム&ルッチ
西門の勇者――【悪徳神父】サンポー・マックィン
【背徳シスター】ベリベラ・ベル
うーん……。
まず、北門にリーザやナナベール、魔王はない。サザン・グレーはバーライオンと一緒で勇者スキル《マジックキャンセル》を保有しているから相性最悪なのだ。
で、東門のオプロン・トニカはジョブでいえば『魔法使い』に当たる。遠距離攻撃が得意だから近接攻撃しかできないゴドレッドやグレイフルだとなかなか攻略は大変だ。
南門のジェム&ルッチは二体で一人の勇者扱いだ。とにかく機動力に物をいわせるタイプで、ゴドレッドや魔王のような移動範囲が狭いキャラだとやりづらい。
西門のサンポー・マックィンとベリベラ・ベルって精神攻撃魔法を多用してくるから厄介なんだ。特に男キャラは《誘惑》や《幻惑》に掛かりやすいから要注意。
それに、西門ってちょっとめんどいんだよね。勇者二人とぶつかるわけだからこっちもユニット組まないといけないんだけど、それも始まってみないとわからないんだ。もしかしたら相手はひとりかもしれなくて、別の場所に勇者が二人って可能性もある。まあ、この問題は西門に限った話じゃないけれど。
さて――お兄ちゃんはどこにどの勇者を配置するんだろう。
困ったな。どうやれば裏をかける?
……って、こんなの考えるだけ無駄だよね。ジャンケンの手を考えるようなもんだもん。ほとんど運でしかないよ。
あれ? でも、お兄ちゃんが配置を替えてくることを前提に考えれば、元の配置を参考に送る幹部を決めたら結果的に裏をかくことになるんじゃね? つまり逆張りってやつだ。
例えば、北門にサザン・グレーがいないとすれば、魔法系が得意なリーザ、ナナベール、魔王のいずれかを送り込んでもいいのでは?
東門にはゴドレッドかグレイフルのような近接攻撃タイプを。
南門にはゴドレッドや魔王のような移動範囲が狭いタイプを。
西門には男性キャラを送り込めば――。
すると、自然と最悪の相性からひとまず外れることになるのでは? あとはお兄ちゃんがどう配置してくるかで対戦カードが決まる。それはもう運次第だ。どこかで最悪の相性を引く可能性はどうしたって消せないけれど、確率は下げられるはずだ。
うん。決めた。
これでいこう。
北門――リーザ・モア。
東門――グレイフル。
南門――魔王。
西門――ナナベールとクニキリ。
ゴドレッドはバーライオン戦を終えたばかりなので一休み。別の仕事をしてもらいましょう。
序盤だから仕方ないにしても、味方が六人しかいないって結構つらいなあ。
三幹部のひとり、『黒騎士アディユス』を失ったのができすぎる。くそう。
もう誰ひとり失うわけにいかない。
だったら徒党を組んで各門の勇者を確実に仕留めていけばいいんじゃない?
へっ。んなこたわかってるっての。
でもさ、私がやってるのは【魔王降臨】なんだ。
ゲームなんだ。
そこにロマンを求めないでどうするって話よ。
いくら相手がお兄ちゃんだからって、楽しまなきゃ損でしょうが。
私はこれまでそうやってきた。これからだってそう。ずっとそう。
だから。
正面からねじ伏せてやるよ! お兄ちゃん!
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第一章第四ステージ『王都アンハル~勇者討伐~』
勝利条件【勇者の殲滅】
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北門対戦カード、オープン!
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リーザ・モア VS 【槍聖】サザン・グレー
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『朋友の仇は私が討つ! 魔王軍よ! 一匹たりとも逃がしはせん!』
『逃げる? 誰に向かって言っているのかしら。おまえは花の養分にしてやるわ』
東門対戦カード、オープン!
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グレイフル VS 【宮廷音楽家】オプロン・トニカ
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『ご静聴に願います。どうぞ人魔の垣根を越えた音楽にひざまずきなさい』
『ご自身の葬送曲でも奏でなさいな! わらわの手に掛かる悦びを噛み締めながら!』
南門対戦カード、オープン!
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魔王 VS 【賞金稼ぎ】ジェム&ルッチ
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『あんたの首にいくら掛かってるかなんて知んねーし。賞金首なら狩るだけっしょw』
『チッチ。頂いた賞金はあたしらで仲良く分け合って食い潰すよお!』
『魔王様♪ あんなお姉さんたちが相手ならわざわざ出てくることもなかったかもしれないね♪』
『――よい。余興である。余を楽しませよ』
西門①対戦カード、オープン!
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ナナベール VS 【悪徳神父】サンポー・マックィン
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『いっひっひ! 神は試練を与えたもうた! こんな私に! ツライ!』
『うちも同じ同じ。めんどいことは好かんのよ。だからさっさと死んでくれな?』
西門②対戦カード、オープン!
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クニキリ VS 【背徳シスター】ベリベラ・ベル
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『男です! 男がいます! 私だけの! 男! ハア…ハア…』
『……何やら殺気が。だがおぬし、拙者の足についてこれるか?』
◇◇◇
見事に全部裏目った――――ッ!
お兄ちゃんめ、一つも配置替えてきてねーじゃん!
ふざけんにゃ――――ッ!
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