七人の勇者②
光線の如き閃きが一筋虚空を貫いた――――!
〝……ッ〟
その刺突は骸骨兵の頭蓋を綺麗にえぐり抜いていった。そして、振り向きざまに繰り出す薙ぎの一払いが後続の足下をことごとく粉砕する。
〝……?!?〟
骸骨兵たちの間に困惑が広がり、思わず行軍の足を止めた。
槍の勇者【槍聖】サザン・グレーが立ちはだかった。王都中心部。メインストリートの公道の真ん中に立ち、避難する民衆を逃がすために一人盾となっていた。
骸骨兵たちはサザン・グレーを脅威と感じ取り、次々に飛びかかっていく。
「ハアァッ―――!」
再び閃く槍の突き。連続で撃ち出された刺突が目にも止まらぬ速さで骸骨兵を粉々に破壊し吹き飛ばしていった。
骨の破片がカラカラと音を立てて地面に落ちていく。白骨は部位の違いすら判別できないほど極小に砕かれ、もはや死体の数を数えることも難しい。
長槍を器用に手繰り、穂先を骸骨兵に向けて振り下ろす。
「墓を暴かれ使役された死人であろうが、纏った武具は紛うことなくアンバルハル王宮兵士のもの。さすれば、百年以上前に国を守った先祖同胞とお見受けする。死した後、魔族の呪いに掛かり屍鬼となってしまわれたか。その無念、我が槍をもってお払い致す」
言葉とは裏腹に無感動に槍を構えたサザン・グレー。
魔族への怒りではなく理想とする騎士道を体現せんと、なおも増殖し溢れかえる骸骨兵の群れの中へ突き込んでいく。
「オオォォッ!」
◆◆◆
メインストリートの脇道。サザン・グレーが取りこぼした骸骨兵たちが獲物を求めて彷徨っていた。彼らに意思はないが、人間には無差別に襲いかかる本能が組み込まれていた。逃げ遅れた人間がいないか物陰までくまなく探す。
そこへ、ウサギ耳の金髪ロングの女が現れた。【賞金稼ぎ】の勇者ジェムである。路地裏の暗がりに鋭い眼光が浮かび上がる。口許にあくどい笑みが刻まれていたのを果たして骸骨兵たちが気づいたかどうか。
心待ちにした獲物の登場に骨の兵士はカタカタ笑う。だが、次の瞬間には、彼らの視界からジェムの姿が消えていた。
勇者化により強化された身体能力が、元々備わっていた並外れた脚力にさらなるパワーを上乗せして、たったの一跳びで先頭にいた骸骨兵に肉薄した。深く屈んで体を沈み込ませ、バネ仕掛けのような反動で骸骨兵たちに襲いかかる。
革製のグローブを嵌めた右拳が強力なアッパーカットを繰り出した。顎を打ち抜き、衝撃が頭蓋を粉々に吹き飛ばす。再び体を沈ませて、今度は左拳のアッパーカットを振り上げ、後続の骸骨兵の顎を砕く。一歩踏みだすごとに拳が飛び、歩みに合わせて敵を蹴散らしていく。
「オラァ!」
拳の乱舞に飽きたジェムは渾身の蹴りを放った。右回し蹴りが魔物の胴体に直撃し、居並ぶ骸骨兵たちを巻き込んでまとめて吹っ飛ばした。
「しゃあ!」
凄惨な笑みが元来の気性の荒さを表した。残った魔物の群れはその獰猛さに恐れをなし、回れ右して逃げていく。
「ルッチ! 逃がすな!」
「うん!」
ジェムの背後にいたリスの亜人が全力で駆け出し、軽やかに壁を走って逃走する集団の眼前に先回りした。
「ひゅおおおおおおおお――――っ」
深く長く息を吸い込みぷっくりと両頬を膨らませると、にわかに背を仰け反らせ、体を押し出すようにして、フッ! と息を吐き出した。吐息というにはあまりにも勢いがあるそれは、空気圧の大砲となって魔物の群れにぶつかっていく。
超突風が走り抜け、真向かいに居たジェムの許に届く頃には金髪を激しく揺らす暴風にまで治まったが、間に挟まり直撃を免れなかった骸骨兵たちは一網打尽に粉砕されていった。路地裏に侵入した魔物はこうして一匹残らず一掃されたのだった。
骸骨兵は木っ端微塵だが、奴らが纏っていた武具は比較的無事だった。ジェムはそれらをざっと見て確認すると、ニッカと笑った。
「おいルッチ! 魔族が身につけてた鎧と剣を一つ残らずかき集めろ! 勇者様が初めて得た戦利品だぜ! 物好きな貴族様なら高く買ってくれんだろ!」
「チチチッ! ジェム姉、あったまいーっ!」
民衆を守ろうなどという考えは端からない。この姉妹が戦う理由は金儲けがすべてだ。結果的に人を、街を、守ることに繋がるが、その過程で何人犠牲者が出ようが知ったことではなかった。
「今度は向こうの路地裏に行こうぜルッチ! 他の勇者に先越される前に魔物を見つけんだ! 戦利品を一個でも多く手に入れんぞ!」
「きゃっほう!」




