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女王誕生


 王都アンハルにハザーク砦周辺に住む集落から避難民が雪崩れ込み、治安や衛生環境が悪化。王都民からは不満の声が続出していた。


 特に強く反発しているのは商人貴族だ。武器売買の規制緩和や傭兵団の組織化など、王宮の意向が邪魔をしてなかなか進まなかった政策は数多い。そこへきてこの事態だ。魔王軍に対する認識の甘さがこの結果を招いた。さっさと軍拡が進んでいれば今ごろは魔王軍を蹴散らしていたものを……、と。


 軍人貴族にしても、民衆からは「平時においては武人を名乗るが実態は単なる腰抜け」などと揶揄され評判を落としており、魔王軍にやられている現状に我慢の限界が来ていた。


 王宮を囲む第一教会地区に王都全域から民衆が押し寄せた。


「魔王軍を倒せ!」


「王宮は目を覚ませ!」


 王との謁見の間にもそのシュプレヒコールは聞こえていた。


 額に汗をかくラザイ・バルサ王。


 その面前にはヴァイオラ王女と、王女に賛同する大臣や軍人貴族が並んでいた。


 王女が直訴した。


「ハザーク砦に全軍を投入しましょう。小競り合いが長引けば不利になるのは我々です。この調子でいけば、ここアンハルが落とされるのも時間の問題です」


「全軍……だと? そんなこと、前代未聞だ。この百年の間、アンバルハルだけは隣国とさえ紛争も小競り合いも起こさなかったというのに」


「父上」


「ならぬ。それだけは絶対に……」


「なぜです父上?」


「なぜだと!? わかりきっておる! 正面から戦っても魔王軍には勝てん! わしらは殺されてしまう! 国民も皆殺しだ!」


「……抗わなければどの道死ぬことになります。黙って殺されろと申されますか?」


「そうではない! ――そ、そうじゃ! 魔王軍と和平交渉じゃ! 国土の半分、いや、八割をくれてやれば我々を見逃してくれるやもしれん!」


「国を売る気ですか!?」


 思わず目を怒らせたヴァイオラに、ラザイ王は慌てて両手を振った。


「ち、違う! 神がいずれ救ってくださる! それまで耐えるべきだと、そう申しておるのだ! わ、わしらアンバルハルの国民に何ができる!? 牙を抜かれたアンバルハルに何が!? 無駄死にを重ねても魔王軍を止めることはできん! ならば、神やほかの国々が立ち上がるときまで耐えぬき、温存した力を総力戦でぶつけるべきではないか! わ、わしらにはそれくらいのことしかできん! そうであろう!?」


「見くびってくださるな、王よ!」


 ヴァイオラの一喝にラザイ王は竦み上がり目を丸くした。王女が、娘が、これほど猛然としている姿を見るのは初めてだった。女とさえ思えない。そこにいるのは一人の騎士であった。


「アンバルハルにも勇者はおります! 勇者に負けず劣らぬ勇敢な兵士たちがおります! 忠義に厚い従臣がおります! 何より私がいる!」


 胸当てに手を当てる。私こそがアンバルハルであると宣言する。


 ラザイ王の胤より生まれ、アンバルハルの土地で育ち、アンバルハルの民によって鍛えられた王女。アンバルハルを見くびるということは即ちヴァイオラを見くびるということだ。それだけは断固として認められない。


「私が戦場に立ちつづけるかぎり負けはありません! ……逆に言えば、戦場に立つことを放棄したそのときこそアンバルハルは滅びるのです。黙って国を明け渡すなど私にはできない」


「うぐぐ……」


 項垂れるラザイ王。


 そこへ、ケイヨス・ガンベルムが差し出口を挟んだ。


「王よ。そこまで悲観することはありません。王女殿下には勝算があるのです」


「勝算だと?」


 後ろに控えていた配下に目配せをする。


 すると、王室の両扉が開き、数人の男女が入ってきた。


「ご覧にいれましょう! 我がアンバルハル王国が生んだ勇者たちです!」


◆◆◆


 謁見の間に、いっひっひ、と下卑た笑い声が木霊した。


「いいんでしょうかねえ、シスターのような淫魔が王宮に出入りしてしまって」


「最悪ですね、神父様。王様の前です。そういった下品な発言は控えてください」


【悪徳神父】サンポー・マックィン

【背徳シスター】ベリベラ・ベル


◆◆◆


 帽子の下には耳。


 尻には尻尾。


 ウサギとリスの亜人姉妹。


「場違いにも程があるっつーか。あたしらこんなとこに来ていいわけ? マジウケルw」


「チチチ! 魔王軍って一匹倒したらいくらなの? 報酬たんまり? ならやるぅ!」


【賞金稼ぎ】ジェム&ルッチ姉妹


◆◆◆


 王や王女とも面識のある者も中にはいた。


 老人で盲目だが足取りは確か。


「王女様の御下命とあらば。この命、謹んで差し出しとうございます」


【宮廷音楽家】オプロン・トニカ


◆◆◆


 王宮兵第二兵団団長にしてバーライオンに比肩する武人。


 涙を堪えて宣言する。


「亡き友のためにこの槍を捧げる所存! 許すまじ! 悪辣魔王め!」


【槍聖】サザン・グレー


◆◆◆


 アテアを除けば唯一実戦経験がある若者勇者。


 アコン村出身の斧使い。


「俺は英雄になるためにここに来た。どんな戦場にも付いていくぜ」


【斧闘家】ガレロ


◆◆◆


「そしてボク、バルサ王室第二王女、アテア・バルサだよ!」


 むふん、と鼻息荒く胸を張った。


「以上がアンバルハルに出現した勇者です」


 性別も職業もバラバラ。神父や音楽家に魔族を跳ね除ける力があるのかどうか。ラザイ王は疑心を拭えなかった。そんな胸裏を見透かしたようにヴァイオラが叫ぶ。


「我が国は誰にも負けない! それを王自身が真っ先にお疑いになられるか! ならば、あなたはもはや王ではない! 優しいだけの王ならばこの国にはいらない!」


 正念場である。


 一刻の猶予も無い状況の中、それでも優柔不断な王はむしろ有害だ。


 ラザイ王が唸る。自身の指揮能力では魔族に対抗できないことはもはや明白だった。


「ラザイ・バルサ王よ。国民が望んでいるのは『勇敢に立ち向かい勝ち取った生存』と『惨めにこうべを垂れてほどこされる余命』のどちらとお考えか」


 外から聞こえてくるシュプレヒコール。


 答えるまでもない。


「最優の王よ。ヴァイオラ王女に次の時代を任せてみてはいかがでしょう」


 最側近の大臣が観念したように口にした。ハト派の中でも特に頑固者で知られていた大臣が折れた。このときようやくラザイ・バルサ王は事の重大さに気が付くのだった。


「アンバルハルにはもう選択肢は一つしか残されておらぬのだな……」


「はい」


「わかった。わしはもう何も言わん。ヴァイオラ、後は任せた」


 ラザイ・バルサ王が退き、ヴァイオラが王位を継承した。


 今ここに、新たなアンバルハル王国が誕生したのだった。


◆◆◆


 やれやれ……。


 ここまでくるのに苦労したぜ。


 だが、ようやく第一章は佳境に入った。


 待ってろよ。クソザコ妹よ。


 いま、遊んでやるからな。



お読みいただきありがとうございます!

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