アニVS剣聖バーライオン④決着
骸骨兵の群れが現れた!!
ここ【アンバルハル王宮の地下遺跡】で手に入れた【墓の角笛】で呼び寄せたアンデッド系モンスターである。物語の中盤以降に解放されるダンジョンなだけあって、出てくるモンスターもそれなりのレベルだ。
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骸骨兵 LV. 30
HP 600/600
MP 0/0
ATK 100
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バーライオンに瀕死にされたとき、奥の手として角笛を使用した。バーライオンとの戦力差を埋めるための隠し玉である。もちろんアニ自身も呼び寄せたモンスターに襲われるリスクはあったが、天敵である勇者のほうをまず襲うだろうと考えた。半ば賭けであった。角笛は五回吹いた。上限いっぱいまで使用した角笛は粉々になってなくなり、かなりの時間が掛かったがこうして魔物の大群を召喚した。
バーライオンは目が見えていない。現れた有象無象が何であれ、敵意に反応して護身のために暴れ始めた。
「オラア――――ッ! どけ、てめえら! 出てこい、占星術師ィイイイイ!! 全員ぶった斬ってやらアアアア!!!」
大剣で骸骨兵を薙ぎ払う。払う都度三体もの骸骨兵が粉々に吹き飛んだ。
しかし、力任せの大振りは早いうちに骸骨兵に見切られた。バーライオンを取り囲むようにしてぽっかりと無人の空間が広がる。大剣が届かない間合いである。骸骨兵たちは荒れ狂う猛威の嵐が尋常でないことを察知し身構えた。知性があるのかわからない。だが、本能レベルでバーライオンを『敵』だと認識したらしく、無数の骸骨兵がバーライオンに殺到していく。
「があっ! なんだぁ!? どいつだあ、いま刺しやがったのはァアアア!?」
四方八方から剣で突かれ、痛みに反応して大剣を振り回す。
バーライオンが傷を負うたびに骸骨兵も数を減らしていく。
消耗戦が始まった。
(いいぞ……! そのまま互いに潰しあえ……! 殺しあえ! 死ね死ね死ね!)
(キャ――――! 清々しいまでにゲスいですわ! お兄様!)
言葉とは裏腹に嬉しそうなレミィだった。
骸骨兵の波状攻撃で確実に手傷を増やしていくバーライオン。埒が明かぬと焦れたのか、憤激するままに雄叫びを上げた。
「しゃらくせええええ! 皆殺しだァアアアアア!」
暴風が激化する。
剣戟と破砕の音が狭苦しい地下遺跡に轟音を響かせた。それはバーライオンの猛攻が倍化したことを物語るには十分すぎるほどの反響だった。
二刀流。バーライオンの左右の手に大剣がそれぞれ握られていた。薙ぎ払うそばから捨てていき、振り被ったその手に新たな大剣を生成する。斬りかかり、柄を放して振り被り、剣を生み出し掴んではまた斬りかかる――。《羅刹破軍星》はバーライオンの適性にあったスキルである。技も術理もないチャンバラが得意なバーライオンの本領は使い捨ての武器でこそ発揮された。さながらそれは大砲だった。発射し、装填し、また発射する。その繰り返し。武器の形状以外に剣術らしさは皆無であった。
こうなってはもう止まらない。水を得た魚の如く、バーライオンは有象無象を蹂躙していく。骸骨兵にはもはや反撃する隙さえ与えられなかった。
今や、消耗戦は一方的な殲滅戦――殺戮へと切り替わっていた。
一瞬にして戦況を覆す理不尽な暴力。
まさしく一騎当千。
それでこそ勇者――か。
「ハーハッハッハッハハハハハハハハハァアアアアアア!」
バーライオンが大笑する。反響することで爆笑となり、その音は不気味な怨嗟へと変わっていく。あたかも骸骨兵たちの断末魔のように。
(お盛んだな。だが、もっとだ。もっと楽しめ)
貴重な角笛を消費させられたのだ。最後の一匹まで目一杯戦ってくれなきゃ困る。
(そんで、目一杯疲れてもらわなきゃ――な)
バーライオンが優勢に見えるが、それでも骸骨兵たちの攻撃が確実に奴のHPを削り続けている。もしゲーム画面を確認できたなら、今の奴のステータスバーは間違いなく瀕死を表すオレンジ色だろう。
アニがゆらりと移動する。その歩みは骸骨兵のように頼りない。視界の効かないバーライオンには区別がつかなかったはずだ。蠢く骸骨兵の周囲を練り歩き、呪文を詠唱しながら落ちているモノに触れていく。
(バーライオン、てめえを傷つけられるのは純粋な物理攻撃だけだ。おそらく、魔王軍やほかの勇者でなければてめえを殺せる奴はいないだろう)
目標物にあらかた手を加えると元いた物陰に戻っていく。待っていたレミィが終始首を傾げていた。
(何をしていましたの、お兄様? バーライオンが捨てた剣に触ってきたりして)
(俺の最大火力じゃ足りないんだ。ここには魔王軍もほかの勇者もいない。じゃあ、バーライオンを殺せるモノはどこにある?)
瓦礫に背中をつけて腰を下ろす。もう立っているのもしんどい。
最後の術行使だ。通常戦闘では時間が掛かりすぎてできないが、今のシチュエーションではすべてがうまく機能した。
(勇者の剣が、勇者を殺しうる最強の武器だ)
==ローセル、アングル、シュール、ラングラン、コギュ、ラ、マルタ==
風を起動させる。
バーライオンが投げ捨てた大剣数十本が宙に浮く。その悉くがバーライオンに切っ先を向けた。
「紡げ――《風撃》」
最後の骸骨兵を殺したその刹那、
「もういねえのか――!? 次はどいつだァ!? 占星術師ィイイ! てめえ、どこ」
ヒュッ――――、ドスッ!
「け――――?」
バーライオンの頬から首にかけた顎骨に大剣が突き刺さる。そこは《爆拳》を打ち込んだ唯一の深手箇所。
アニは最後まで侮らない。
同じ傷口への集中砲火。
ドドドドドドドドド――――、ズドーン!
「――」
一分経ち、二分経ち、……起き上がる気配がないとわかってから腰を上げた。
横たわるバーライオンに近づいていく。
爆煙が晴れたとき、首を切断するのに用いた七本の大剣が地面に突き刺さっていた。絶命している。蓄積されたダメージと、今の投擲がトドメとなって、バーライオンのHPはゼロになった。アニ一人の勝利とは言えないが、最後まで立っていたのはアニ一人だけ。
俺の勝ちだ。
◆◆◆
転がるバーライオンの頭部は笑みを刻んだままだった。
目立った破損は見当たらない。
「……さすが俺。いいコントロールしてるだろ」
「どういう意味ですの?」
「こんだけ剣を投げつけて頭を破壊しなかったんだ。これでこの頭は使えるぞ」
だが、その前に自分の負傷のほうをなんとかしないと。
急いで回復しなければ。




