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幹部シナリオ①『鬼になった日(鬼武者ゴドレッド)』


【軍議】の【引見】を選択。

―――――――――――――――――――――――――

 どのシナリオを閲覧しますか?


◇ 鬼になった日 (鬼武者ゴドレッド)【NEW】

・ 蝶よ、花よ (殺戮蝶リーザ・モア)【NEW】

―――――――――――――――――――――――――


◇◇◇


 3メトルを越す巨体。


 口端からは牙が突き出ていて、剥き出しの素肌は岩のよう。


 オーガと呼ばれる鬼は古くから人間を捕食する害悪とみなされてきた。


 オーガはさほど知性が備わっておらず、人型をしているが中身は歴とした獣である。本能のままに人を襲い、喰らい、生殖を行う、野蛮で下品な生物だ。


 その王に君臨していたのがゴドレッドである。


 当たり前の話だが、ゴドレッドもその昔は子供であった。


 王となる前、すでに2メトルを超えていたが、まだ大人になりきれていなかったゴドレッドは、仲間たちとともに森の奥でひっそりと暮らしていた。鹿や狼の肉を主食とし、毛皮を防寒具にして冬を越し、木々に実った果物を嗜んだ。


 完結している世界だ。

 言葉はいらず、意思疎通の必要もない。

 同属同士であれば本能で行動が決定し、多種族とかち合えば弱者が肉となるのが定めであった。


 森において常に強者であったオーガに天敵はいなかった。


 脅威をあえて挙げるなら、十数年に一度の異常気象から来る、動物の死滅による食料不足と常軌を逸した夏冬の寒暖差くらいだろう。


 ゴドレッドは幸せだった。


 自身が何者であるか知ることもなく、知る必要もないままに、老いて土に還るその日まで、平穏に活動できると信じていた。


◇◇◇


 オーガ、という名称は森の外からやって来た。


 もたらしたのは人間だ。森を開き、文明を築く最中の出来事であった。


 突然の略奪行為。


 弱肉強食の世界に紛れ込んだ理不尽。


 本能でしか動けないオーガたちは、必要分以上の搾取を開始した人間を目の当たりにして、初めて困惑という感情を覚えた。


 意味がわからない、と。


 意味がないことまでやるのが人間なのだが、それを知らないオーガにはその生き物が異常気象よりも脅威に感じられた。


 人間の略奪行為は止まらない。森も水も食料も奪っておきながら、最後にはオーガの命まで奪おうと攻めてきたのだ。なぜ、と問う間もなく、オーガは次々に狩られていった。


 一番の不運は人型であったことだ。


 人間たちはまずその形に嫌悪し、あまりの知性の無さに激怒した。神が作りし人間とよく似た形をした醜い生物。侮辱されたと感じたのだろう。自分たちへの侮辱は神への冒涜に他ならなかった。あってはならない存在だと決めつけて、排除こそ天意であると嘯いた。


 ゴドレッドはまだ子供であった。


 3メトルを越す大人たちが次々と倒れていくのをただ見ていることしかできなかった。


 野生の競争は力比べだ。押し倒す力が強い方が勝つ。


 だが、人間が仕掛けたのは戦である。力ではなく知恵比べ。たとえ力で押し倒されようとも、罠に変えるのが人の業。むしろ、力で押せば押すほどその杭は深く肌に食い込んだ。


 ゴドレッドには為す術がなかった。


 巻き返す気も、機も、失った。


 ただ種が途絶えるのを待つしかない。


『余の許に来る気はないか?』


 まだ魔王が『魔王』と呼ばれる以前のことである。


 ゴドレッドはそう話しかけられた。


 乾いた土地に追いやられたオーガ族は、環境に適応できずさらに半数にまで減っていた。絶滅するのは時間の問題だった。そのときゴドレッドはオーガ族の年長者になっていた。自分よりも上の同胞は皆死んでしまった。種の命運はゴドレッドが握っていると言っても過言ではない状況であった。


『余とともに世界を変える気はないか?』


 そんな願いに興味はない。


 ただ、ゴドレッドの胸に懐いた想いは一つだけだった。


『モ……ド……リ……タ……イ』


 森の王者であったあの頃に戻りたい。


 自然だけを恐れていた自身に還りたい。


 外の世界も、人間も、知りたくなかった。


『その願いは叶えられぬ。あった事実を失くすことは、今のおまえを消すということ。仮にできたとしても、余がそれを許さぬ』


『ナ……ゼ……?』


『余がこうしておまえに会えたからだ』


 魔王が発する闇の波動に包まれる。


 ゴドレッドにさまざまな知識が流れ込む。この世界の広さ、奥深さ――。そして、何よりもその複雑さに眩暈を覚えた。


 もはや後戻りできないことを知る。


 立ち止まるか、行く先を選ぶか、そのどちらかしかなかった。


 そして、道を示す導はいま目の前にあり、そこに惹かれている以上迷う必要は皆無である。


『余に仕えよ』


 跪き、頭を垂れる。


 オーガ族を救うためでもあったが、膝を屈したゴドレッドはその胸に確かな痺れを感じていた。ただ生きるために生きていたときには感じられなかった、信念を得たことによる高揚感と爽快感である。涼風の如く心地よさをもたらした。


 ――この者に命を捧ぐ。

   そのために、我はいる――


『謹んで。貴殿のために死のう』


『死ぬことは許さぬ。誓えるか?』


『……誓います。我が主』


 この日、魔王より『ゴドレッド』という名を与えられ、二つ名『鬼武者』を冠するようになる。


 鬼が行くは魔王が駆けるその覇道。


 どこまでもお供致しましょう――



(ゴドレッドシナリオ 了)


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