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アニVS剣聖バーライオン②地下遺跡の戦い


 高く跳躍し、振り被った大剣を叩きつける――!


 ドガン!――と爆音が轟いた。


 剣圧が四方八方に迸り、地面に蜘蛛の巣状の亀裂を刻み込む。王宮裏にある手付かずの森の中、ここでなら誰に遠慮することなく大いに暴れられるとしてバーライオンは勇者になって初めて本気の一撃を繰り出した。もっとも、彼はこれまで誰かに遠慮したことなどありはしないのだが。


 かろうじて一撃をかわした占星術師に歓喜する。――そうこなくっちゃな。簡単に終わったら面白くねえ。全力を出す名目として的になり続けてくれなけりゃあテメエを生かしている意味がねえ。


 占星術師が這いつくばりながらなおも逃げようとする。無様で滑稽だが、バーライオンの的になり続けるその気概には感動すら覚えた。王女との営みを邪魔された怒りはとうに消えており、新たに芽生えた感情は愛玩動物をなぶるときに抱く親愛の情によく似ていた。つい可愛がりすぎて壊してしまう。もろく儚い命を散らしたときの高揚感たるやどんな美酒よりも極上だ。あの感覚が蘇る。早く壊したい。殺したい。――もういいか?


 バーライオンは地べたを這う占星術師にトドメを刺さんと一歩を踏み出した。


 その瞬間、――地面が崩壊した。


「ぁあっ!? なんだあ!?」


 突如湧いた突風が地面をえぐり上げた。


 占星術師が放った風魔法が、バーライオンの一撃でできた地面の亀裂に侵入して土塊を盛り返したのだ。地震のように上下に揺れた地面は最後、大穴を開けて空洞を生み出し、地中深くにふたりを引きずり落とした。


 一緒に落下した土塊に埋もれた。それらを気合裂帛で吹き飛ばし、遥か頭上に空いた大穴を見上げた。……二十メトルは落下したようだ。跳んで地上に出られるかどうかギリギリの高さである。最悪、この空洞をさまよう羽目になりそうで、今からげんなりする。


「にしても、なんだここは? ただの空洞じゃねえぞ……」


 地面には石畳が敷かれており、回廊そのものだ。人工的に作られた洞窟――いや、遺跡であろうか。こんな場所に地下遺跡が眠っていようとは。王宮の裏手にある以上、王家の墓かそれに属する施設だと考えられるが、そんなものがあったなんて話聞いたことがない。


 秘されているからには何か事情が――秘密があるのかもしれない。


「お宝でも隠してやがったか?」


 古代のアーティファクトがあれば欲しいところだ。平和ボケしたアンバルハルに兵器の類があるとは思わないが、せめてアテアが纏う鎧のような【勇者ハルウス】ゆかりの装備品でもあれば箔くらいにはなろう。探索してみる価値はありそうだ。


 その前に――。


「なあ、おい! まさか瓦礫に押し潰されて死んじまったってこたあねえよなあ!? それとも死んだフリしてやり過ごそうってか!? ぁあ!? どこだ? 出てこい!」


 占星術師の姿が見当たらない。瓦礫に埋まって身動き取れないでいるのか。まさか本当に死んだのか。何にせよ、瓦礫が邪魔だった。


 拳から烈風を撃ち出し、瓦礫の山を吹き飛ばす。ただの拳圧の威力が風魔法の低位攻撃に匹敵した。すさまじいパワーだ。バーライオンはまさしく『力の勇者』であった。


《羅刹破軍星》が生み出したるは鉄製の巨大ハンマー。バーライオンの巨体を遥かに越える鉄槌を振り被り、得物ごと粉砕する勢いで打ち下ろす。


「おらよ!」


 爆砕の威力が瓦礫を吹き飛ばした。


「おっと、やりすぎると遺跡ごと潰しかねねえな」


 この力を魔王軍相手に試したかったのに待機を言い渡されたのだ。抑圧された分、バーライオンは加減ができなかった。遺跡そのものを崩壊しかねない威力の烈風を容赦なく周囲に撒き散らす。鉄槌はその衝撃に耐え切れず粉々に崩れ散った。


「さっさと出てこい! でなきゃ生き埋めになっちまうぞ――!」


 新たな武器を生成しようとしたとき、ばがん、と音を立てて土塊の一部が宙に浮いた。


 生き埋めになっていた占星術師が堪えきれず盾にしていた瓦礫を吹き飛ばしたのだろう。その瞬間を狙っていたバーライオンはしめしめと拳を握り直した。しかし――占星術師の姿はなかった。


 なに? どこだ。どこにもいない。


 じゃあ、あの土塊を吹っ飛ばしたのは一体――。


 宙を舞う土塊がボロボロと形を崩しながら落下してくる。ハッとして顔を上げた。


 占星術師が土塊を盾にして、上空からバーライオンに襲い掛かってきた。


「《風撃》!」


 真上から突風に押し潰される。それはもはや風ではなく重りを含んだ空気の壁であった。踏み締めた石畳は割れ、両足が地面にめり込む。常人であれば圧殺は免れず、たとえ勇者であろうと大ダメージは必至。占星術師が放った起死回生の一撃は確かにバーライオンに直撃した。


 だが――。


「くっふふふふふははははは! 効かねえなあ! 涼しいだけで痛くも痒くもねえ!」


「……ッ!」


 占星術師の顔が歪む。しかし、その表情は驚愕ではなく、既知であった事実を再認識したために出た渋面であった。


 バーライオンには魔法を撥ね返す《マジックキャンセル》が勇者スキルとして付与されている。つまり、素手か武器による直接攻撃でしかダメージは与えられない。魔法は効かないのだ。


「相性が悪かったな! てめえが魔法使いであるかぎり俺を倒すことはできねえぞ!」


 占星術師が着地する瞬間を狙って踏み込んだ。バーライオンの突進を阻むかのようにまとわりついてきた風も、たったの一歩で霧散した。体躯に似合わぬ電光石火の体当たりが占星術師に炸裂する――!


「ぐはあっ!」


 撥ね飛ばされ、地面に激突する占星術師。


 その四肢は砕け、内臓は破裂し、まもなく命も尽きるだろう。


 強い。我ながらなんという強さであろうか。魔法を撥ね退けるスキル。強靭な肉体と、人間離れした速さ。瞬発力。この肉体を傷つける者がいるとすれば同じ勇者で――そう、『剣の勇者』たるアテアくらいのものだろう。だが、それもやってみなければわからない。


 ついでにあのガキを犯してみるのも一興だな。


「くはははははっ!」


 バーライオンは自分に酔っていた。


 歩みの一歩一歩にさえ震脚の手応えを感じる。全身がまさに凶器だ。


 リンキン・ナウトなどもはや敵ではないと確信する。


 今夜中に勝負を挑んでやろうか。今なら確実に勝てるはずだ。


 それもいいかもしれない。だが、その前に――体をもっと慣らしておくか。


 ボロ雑巾のように横たわる占星術師に最後のハイポーションを降り掛ける。


「その命、無駄なく使いきってやるよ。殺しの練習台としてなあ!」


 瀕死の重体が嘘のように完治した。


 占星術師が立ち上がる。顔は伏せたまま。


「好きにぶち込んできな。どんな魔法だろうと跳ね返してやるぜえ」


 無防備に体を開くバーライオン。


「……」


 占星術師の瞳に宿った決意には一切気づくこともなく――。



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