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人間爆弾


 ポロント・ケエスはグレイフルを笑顔で迎えた。


「お待ちしておりました、女王蜂。よくぞここまで辿り着きました」


「……余裕ですわね。もうあなたを守ってくれるものなどおりませんのに」


「それはお互いさまでしょう。おかげで、今や私たちは一対一です」


 一対一なら勝てるとでも言うつもりか。


 その驕った態度が気に入らない。


「どこまでわらわをコケにいたしますの……?」


「コケになどしておりませんよ。私は事実を申し上げたまでです。しかし、他の者には目もくれずここまで来るとは。よほど私を憎んでおられるようだ」


「憎いんじゃありませんの。目障りなだけ。ただ生きて存在しているだけで虫唾が走りますわ。わらわは自分の所有物ならどんなものでも愛することができますけど、そうでなければ壊してしまいたくなるんですの。わらわと世界に不要なものは今すぐ消えてしまいなさいな」


「強欲、いや、傲慢な考え方ですね。あなたのような幹部級の魔族は即刻討ち取らねばなりません。世界のためにも」


「話を聞いていましたの? わらわが世界ですわ」


「思い上がるのもそこまでにしなさい!」


 ポロントが片手を突き出すと、中空に黄金に輝く出納帳の宝具が出現した。


 勇者スキル《クラウドコマース》


「させませんわ!」


 グレイフルが槍を構えて飛びかかる。


 互いに手の届く間合い。


 スキルの発動が先か、穂先が届くのが先か。


「――ッ!?」


 一秒後には決着したはずの戦闘はしかし、グレイフルの急停止によって先延ばしにされた。


 目の前を赤いボールがてんてんと転がってきたのである。


 ボールに躓くことを恐れたわけではまさかない。広範囲を立体的に捉えられるグレイフルの視界が、異物の乱入を自動的に判別し、標的にはない不気味さをそこから感じ取ったのだ。ツバメの飛翔さながらの突進を中空にあって停止させたグレイフルの反射神経と、その負荷に耐えきる肉体の強度としなやかさは、称賛に値するものだが、それ以上により危険な「本命」を察知する直感こそがグレイフルの最大の武器と言ってよく、事実、グレイフルはこの急停止によって命を拾うことになる。


 ボールを追って子供が走り込んできた。


 まだ十歳にも満たないであろう小柄な少女だった。裸足で身形も汚らしく、髪はいつから梳かしていないのか埃にまみれて傷みが進んでいる。スラム街に住む孤児が唯一の遊具を惜しんで飛び出してきたというような塩梅だった。


 人間の世界の事情などこれっぽっちも興味のないグレイフルであるが、なぜ戦場の真っ只中にこのような子供が現れたのか――もっと言えば、なぜ戦場になったとはいえ都市の中央部の往来に平時なら縁もゆかりもないはずの孤児が飛び込んできたのか、その異常さを訝しがった。


 少女はボールを拾うと、グレイフルを見上げて二コリと笑った。


 その瞬間、少女の体が内側から風船のように膨らんで――爆発した。


 逆巻く炎がグレイフルに襲い掛かる。


「ぬあっ!?」


◇◇◇


 少女①が自爆した!


 グレイフルにダメージを与えた!

『9』



―――――――――――――――――――――

 グレイフル   LV.  11

         HP  165/402

         MP   75/75

         ATK  83

―――――――――――――――――――――



「はあっ!?」


 素で声が出ちゃった……


 なにこれ。意味わかんない。


 バトルフィールドの飾りでしかない商店や住居の中から一般人のモブキャラがぞろぞろと出てきた。ぞろぞろ、ぞろぞろと。それは大通りを埋め尽くさんばかりの人数で、グレイフルはあっという間にモブキャラたちに囲まれてしまった。


 カーソルを移動させる。画面をバトルフィールド中央にまで戻すと、――案の定、リーザたちまでもがモブキャラに取り囲まれていた。


 モブキャラは『少女②』だったり『少年①』だったり、『男①』『女①』『老人①』『老婆①』といったなんの特徴も持たされていないキャラばかりだった。


 HPは10/10くらいしかない絵に描いたような雑魚。


 それが、ざっと数えてみても百人近くいる。


 大通りは人の壁によって完全に封鎖されてしまった。


 ターンが回ってきた。しかし、移動したくても移動可能範囲内すべてのマス目がモブキャラによって埋め尽くされてしまっている。これでは動けない。攻撃か待機しか選べない状態だ。


 モブキャラを攻撃? そんなのアリ?


「ていうか、こいつら攻撃してくんの?」


 さっきグレイフルは『少女①』の自爆によってダメージを負わされた。


 自爆って何なの!?


 モブキャラにそんなことできるわけ――――、あ。


「もしかして、【炎の化石】?」


 あれは魔力がなくても魔法を行えるマジックアイテムだ。


 本来であれば投げて使うもの。使ったからって本人もダメージを負うような自滅アイテムじゃない……はずなのに。


 そこから導きだされる答えは――


「……」


 ある予感を抱きながら、リーザを操作。


 隣接するマスに立つ『老婆⑧』に通常攻撃。魔法攻撃に特化したリーザでも、この程度の敵になら通常攻撃でも簡単に倒せるはずだ。


 リーザ・モアの攻撃!

 老婆⑧にダメージを与えた!

『32』


 老婆⑧をやっつけた!

 老婆⑧の様子がおかしい!

 老婆⑧が自爆した!


 リーザ・モアにダメージを与えた!

『45』



――――――――――――――――――――――

 リーザ・モア   LV.  12

          HP  325/370

          MP  222/222

          MAT  94

――――――――――――――――――――――



「やっぱりか……」


 そうじゃないかと思った。


 待機していても自爆されるし、攻撃してもカウンターで自爆される。


 しかも、割と威力がある……!


 グレイフルは距離があったから大したダメージを負わなかったけれど、隣接するマスから自爆されると結構ダメージは大きいようだ。


 ヤバイ。四方から連続して自爆されたら、一ターンにつき『180』くらいダメージを食らっちゃう!


 数ターンで全滅コースだコレ!?


「あ、……いや、そうじゃないのか。――ああ、よかった。モブキャラの機動力ってゴドレッド以下だ。ターンが回ってくるの、こっち側のほうが何倍も早い」


 ゴドレッドが三回動いてようやく一回動けるくらい、かな?


 そりゃ、魔族と一般人だもんね。圧倒的な戦力差・能力差がある。こんなんで幹部が倒されるなら、これまでのステージでも兵士じゃなく一般人をありったけ投入するだけであっさり勝利できていたはずだもんね。


 てことで、つまりこれは完全に足止め狙い。


 攻撃したらダメージを負う人型トラップ。しかし、排除しない限り先へは進めない。いよいよグレイフルを完全に倒すための大仕掛け。敵の総数が変動するって知ったときに感じた嫌な予感はこれだったんだ。


 それにしても、なんつーこと考えるんだ。お兄ちゃんったら。


 向こうは生身の人間が普通に生きて暮らしている世界なんじゃないの?


 さっき自爆した『少女①』も『老婆⑧』も人格をもった人間だったんじゃないの?


 そんな人たちを駒のように使い捨てるなんて……


 人でなしだなあ。


 まあ、私のお兄ちゃんだし。そんなもんか。


「で、これを可能にしているのって、やっぱり……」


 ポロント・ケエスの能力。


【商業都市ゼッペ】の住人を操って爆弾に変えている――!



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