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鬼と蝶と魔女


 王宮兵が左右の路地から出てきて、障害物のように道を塞いだ。


 前方に王宮兵⑦⑧⑨⑩⑪⑫が現れた!


 後方からも王宮兵⑬⑭⑮⑯が現れた!


 トータルで十体の王宮兵が新たに戦いに加わった!



―――――――――――――――――

 王宮兵 LV.  10

     HP  140/140

     MP    0/0 

     ATK  45

―――――――――――――――――



 マジかあ……。これは地味にキツイ……。


 一体一体は大した敵じゃない。リーザが言っていたように雑魚だ。でも、こんだけの数に囲まれてしまうと無傷で突破するのは難しい。


 いや、最大の懸念はこんな雑魚を相手に時間を食ってしまうことだ。NPC化したグレイフルはいまだ制御できない状態。キラービーを操って盾にしてなんとかダメージを負わさずにすんでいるけども、魔導兵によるミドルレンジからの魔法攻撃によってキラービー自体が少しずつ減らされていた。グレイフルが部下をすべて失い、丸裸にされるのも時間の問題。急いでリーザたちを向かわせないといけないのに。


 やってくれたな、お兄ちゃんめ。


 敵の数がインフレ起こしちゃってるもん。無理ゲーじゃん、こんなの。


 いくらリーザたち幹部が強いからって数で押されたらどうにもならないよ。


 お?

 おお?


 半ば諦めムードでカーソルを二頭身キャラに合わせてみると、リーザもゴドレッドもナナベールも全員気力ゲージがMAXになっていた。さっきまでこんなんじゃなかったのに。もしかして、システムではなく感情に左右された? レベルが低くて未修得のはずの魔法が使えた前例もあるし、どうやら今このゲーム内ではキャラのステータスが状況によって増減する仕組みになっているようだ。


 やりぃ! だったら、早いターンで王宮兵どもを片付けられるかもしれない。


 出し惜しみはナシだ! 大技で一気に攻めていく!


 ゴドレッドを王宮兵の列に接近させて、スキルを発動させる。


『――逝け。我が怒りと知るがいい』


 アニメーションカットイン。町中で地面に亀裂が走る。ゴドレッドの足許から湧き出すマグマ。斧を振り上げ、溜めこんだ膂力を解放するかのように地面に打ち付けると、十字の形に張り裂けた亀裂からマグマが噴火した。王宮兵たちは為す術なく爆流に飲み込まれていく。


 固有スキル《鬼哭溶岩斧》


 MAXに溜まった気力ゲージを一斉解放!


 王宮兵⑦にダメージを与えた!

『120』


 王宮兵⑧にダメージを与えた!

『120』


 王宮兵⑨にダメージを与えた!

『122』


 続いて、リーザ・モア! 縦5マス×横5マスの全25マスを範囲とした大技!


『ゆらゆら、ゆらゆらと。踊り狂いなさい』


 アニメーションカットイン。リーザ・モアの手のひらから黒蝶が無限にあふれ出る。蝶の群舞はあたかも一本の触手のようにうねり蠢き、鞭打となって王宮兵たちに襲い掛かる。黒き巨大な波が町も人もさらっていった。


 固有スキル《比翼蝶・踊》


 MAXに溜まった気力ゲージを一斉解放!


 王宮兵⑦にダメージを与えた!

『86』


 王宮兵⑧にダメージを与えた!

『83』


 王宮兵⑨にダメージを与えた!

『84』


 王宮兵⑩にダメージを与えた!

『84』


 王宮兵⑪にダメージを与えた!

『81』


 王宮兵⑦をやっつけた!

 王宮兵⑧をやっつけた!

 王宮兵⑨をやっつけた!


 さらにさらに! 今度は赤魔女ナナベールの番!


 後方にいる四体の王宮兵に向けて、範囲攻撃をぶち込んだ!


『くけけけけ! 楽しませてやんよ! ステキなステキなショータイムの始まりじゃアァァ!』


 アニメーションカットイン。バトルフィールドは夜空に包まれ打ち上げ花火が咲き誇る。大通りを家ほどもある巨大なぬいぐるみたちが闊歩する。可愛くもおそろしいツギハギだらけのぬいぐるみたちだ。流れる音楽は陽気な行進曲。ダークメルヘンな雰囲気が場を支配した。月を背景に箒にまたがる赤魔女が、左右の手の指の間に出現させた七本の試験管を地上に落とす。七色のパステルカラーの液体が接地した瞬間、煙幕が沸き起こり王宮兵たちを飲み込んだ。


 固有スキル《カラフルキャンディ》


 MAXに溜まった気力ゲージを一斉解放!


 王宮兵⑬は幻想に包まれた! 王宮兵⑬は混乱している!

 王宮兵⑭は幻想に包まれた! 王宮兵⑭は混乱している!

 王宮兵⑮は幻想に包まれた! 王宮兵⑮は混乱している!

 王宮兵⑯は幻想に包まれた! 王宮兵⑯は混乱している!


 王宮兵⑬が王宮兵⑭に攻撃!

 王宮兵⑭にダメージを与えた!

『42』


 王宮兵⑭が王宮兵⑬に攻撃!

 王宮兵⑬にダメージを与えた!

『43』


 王宮兵⑮が王宮兵⑭に攻撃!

 王宮兵⑭にダメージを与えた!

『40』


 王宮兵⑯が王宮兵⑭に攻撃!

 王宮兵⑭にダメージを与えた!

『42』


 ノーダメージの王宮兵⑫がゴドレッドに攻撃を仕掛けた――が、受けたダメージはたったの『10』!


 カウンターアタック!

 王宮兵⑫にダメージを与えた!

『101』


 リーザの手番が回ってきた。


 固まっている王宮兵⑩⑪⑫に中位人撃魔法――《フレアウェーブ》で範囲攻撃。


 王宮兵⑩にダメージを与えた!

『60』

 王宮兵⑪にダメージを与えた!

『60』

 王宮兵⑫にダメージを与えた!

『61』


 王宮兵⑩をやっつけた!

 王宮兵⑪をやっつけた!

 王宮兵⑫をやっつけた!



 しゃ――――ッ!


 一挙に! もう一挙に片付いちゃった! ちょー強ぇーよこの三人!


 正確には後方の四体はまだ生き残ってるけど、放っておいても同士討ちで勝手に死んでくれるし。まあ、無視しても構わないだろう。


 無傷で突破するのは難しい、とか、時間を食っちゃう、とか言ってすんません!


 全然余裕で突破できました!


 全然足止めされませんでした!


 最高ッスよあんたら!


 ……でも、きっと。これが普通なんだよね。


 今までがおかしかったんだ。こんな序盤なのにあっちこっちで苦戦を強いられてさ。そりゃ、レベルに合わないミッションをやらせて自分からピンチに陥ったこともあったけどね。


 ハアーッ、ちょっとだけスカッとした!


 この調子でグレイフルもポロント・ケエスを打ち破ってくれれば……!


 カーソルを動かす。バトルフィールドの最前線に画面を移す。


 そこにあった光景は、リーザたちとは正反対の暗澹たる有り様だった。


 グレイフルの猛攻で王宮兵は一体にまで数を減らしていた。しかし今、魔導兵は後から出てきた六体を加えた計九体となり、キラービーをミドルレンジからの集中砲火でついに全滅せしめた。恐れていた事態が現実のものとなった。グレイフルが丸裸にされてしまった。


 しかも、いまだ制御できない状態。グレイフルの頭には回復や防御、逃げの概念がないのか敵と見るや特攻ばかり仕掛けていく。敵を一撃で仕留められなかった場合、カウンターを受けることになり順調にHPを減らしていった。



――――――――――――――――――――

 グレイフル  LV.  11

        HP  199/402

        MP   75/75

        ATK  83

――――――――――――――――――――



 戦略なのか何なのか、魔導兵はキラービーだけを狙っていた。キラービーが全滅した今、これからは魔導兵の攻撃はすべてグレイフルに降り注がれる。


 そして最悪なことに、グレイフルは自分に矛先を向けた相手を決して無視しないのだ。勇者には目もくれず、背後にいる魔導兵たちに向き直る。


 キラービーという盾を失い、丸裸にされたグレイフル。


 九体の魔導兵がミドルレンジから一斉に魔法攻撃してきたら……。


 最悪、一ターンも持たないかもしれない。


 マジで大ピンチだ。


「グレイフル……、こんな序盤で失いたくないけど……」


 仕方……ないよね……。


 だって、私にはもう何もできない。


 単なるプレイヤーである私には……何も……。


◇◇◇


 ……本当にそうか?


 私はプレイヤーであると同時に【魔王】じゃないか。しかも、ゲームキャラと意思疎通ができるスペシャル機能付きだ。


 やれることがまだあった。


 ううん、私にしかできないことなんだ。


「グレイフル……聞こえる? グレイフル」


 画面上にグレイフルの立ち絵が現れた。


『――魔王様、なにかしら?』


「わかってると思うけど、ピンチだよ」


『……あら。そんなことありませんわよ。ご覧になっているのでしょう? わらわはこのとおりピンピンしてましてよ。これから周りを囲んでいる魔導兵どもを打ち払い、華麗なる逆転劇をお見せしますわ』


「聞いて。ううん、聞きなさいグレイフル。あんたが特攻なんて無茶やったせいで、今やあんたは袋のネズミ。いくら雑魚ったって魔導兵の魔法を9発も連続で撃ち込まれたらさすがのあんたでも死んじゃうから」


『……』


「私はあんたを失いたくない」


『魔王様……』


 立ち絵のグレイフルが、ふっ、と笑った。


『わらわ、死ぬ気は毛頭ありませんの。……いいえ、死んでも死に切れませんわね。少なくともわらわとわらわの部下に矛を向けた人間どもは皆殺しにしないと気がすみませんわ』


「グレイフル」


 すでに刺し違える覚悟だったか……。


 プライドが高い女王蜂。逃げるくらいなら死んだほうがマシって考えるんだね。


 私みたいな引きこもりには理解しがたいけど……そういうキャラは嫌いじゃないよ。


 漫画やアニメやゲームにはありがちだけどさ、死んでも勝つってやっぱりカッコイイもんね。


 どうせ死ぬなら恰好よく死にたいよね。


 うんうん。わかるよ。わかるよ。


 でも、ごめんね。


「尻尾巻いて逃げ帰ってもいいんだよ」


『……魔王様? 何かおっしゃって?』


 魔王の命令は絶対だ。


 あんたの覚悟をドブに捨てる。


「あんたをここから生かして帰すにはもうこれしかない。グレイフル、――ポロント・ケエスだけを狙って。魔導兵には目もくれないで」


 たとえ魔法を直に喰らっても、決して逆上しないで。


「本当は勇者も無視して帰ってきてほしいところだけど、それだけは絶対しないよね。あんなに目の仇にしてたんだもん。だから、これは折衷案。勇者を討つ代わりにほかの雑魚とは戦わないこと」


『……』


 にわかに、グレイフルの表情に険が宿る。


『……このわらわに、不埒にもわらわを囲んでいるこの兵士どもに背を向けろと仰るんですの?』


「そうだよ。命令だよ、グレイフル。勇者だけを討て――!」


『命令……、わらわに命令する気ですの? この女王たるわらわに?』


「うん。だって私は魔王だもの。配下に命令くらいするよ。そして、あんたは私の配下だよ、グレイフル。命令ぐらい聞きなさいよね。――最後くらいさ」


『……』


 立ち絵が消えて、しばし沈黙が漂った。


 そしてついに、バトルフィールド上で待機していたグレイフルの二頭身キャラが動きだす。――魔導兵に背を向けて。勇者のいる方向へ。


『魔王様、――高くつきますわよ』


 一直線に、ポロント・ケエスに立ち向かっていく。


『いいですわ。オツムに来ますが聞いてやりますわよ、その命令。帰ったら覚悟なさいまし!』


 NPC化はそのままに、グレイフルが魔王の命令に従った!


 ふう……。


 なんとかうまくいった。本当は進行するマス目まで細かく指示したいトコだけど、あんまり言いすぎてヘソ曲げられても困るしね。


 ポロント・ケエスを――敵側大将を討って戦闘を終わらせる。


 それだけがグレイフルを無事帰還させる唯一の方法だ。


 頼んだよ、グレイフル……!



お読みいただきありがとうございます!

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