勇者シナリオ①『剣姫アテア』
【勇者シナリオ①が解放されました】
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夢を見た。
曇天に稲妻が走り、地は裂き海は割れ、山々が咆哮する。
世界を侵食していく闇の波紋。
魔王が復活する凶兆だ。
――戦いなさい。
そう告げられた気がした。
わたくしに呼びかけるその声は、天上からもたらされるもの。
神の御意志。
「ああ……、わたくしは……、わたくしは――っ!」
目が覚めた。
体は羽毛のように軽く、芯から力がみなぎってくるようだ。
「わたくしは――」
選ばれたのだ、と。
そのように確信した。
扉を叩く音がする。
高齢の侍女がお寝坊さんのわたくしを起こしにきたのだ。
「――姫様。いつまで寝ていらっしゃるのです? 姫様も今年で十五におなりになったのですから、そろそろ一人前の自覚をお持ちいただかないと」
そんな小言に対して、いつもなら「もうちょっと寝かせて~」と甘えた声を出すところだが、すでに起床しているのでそんな返しは不要。
「ひ、姫様っ。そのお姿は一体!?」
ひとりで起床しただけでなく着替えまで終えているわたくしを見て、侍女が素っ頓狂な声を上げた。
そんなに驚くようなことかしら。
まあでも、しかたないかな。
侍女が手にしている衣服は、王室の仕立て屋が用意した一級品のドレスで、わたくしの普段着だ。それを床にぱさりと落とす。
わたくしの――ボクの格好を見たら、そりゃ驚くのも無理はない。
「姫様! その御髪、どうなさったのです!?」
ありゃりゃ。
驚いたのはそっち?
でも正直、腰まであった長い髪は戦いには邪魔だったんだ。
肩までばっさり切ったってしょうがないじゃない?
ほら、断然動きやすい。
「ばあや、見て見て! 強そうでしょ! 【勇者ハルウス】が百年前に実際に身につけていた本物の鎧だよ!」
その場でくるりと回ってみせる。
侍女は腰を抜かして尻餅をついていた。
「た、た、大変だわ! 姫様が、――アテア姫がおかしくなってしまわれた!」
「失敬な! ボクはおかしくなんかなっていない!」
何さ、ヴァイオラ姉様は普段軍服を着ているのに。
ボクが鎧をまとったらいけないっていうの!?
「ボクは勇者に選ばれたんだ! 魔王を倒す勇者にね!」
この出来事こそ、人類と魔族の長きに亘る戦いの狼煙であった。
アンバルハル王国第二王女。
アテア・バルサ姫殿下。
勇者、覚醒。
(勇者シナリオ①了)
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