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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第二章 アンブロシウスの守護者
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第二十一話 アンブロシウス事変

 ――――


 これは、昔話の続き。たった十五年前の史実(むかしばなし)

 消失の続編。悲劇の序幕。陰謀と陰謀の対消滅。

 タイトルを付けるなら……『アンブロシウス事変』。


 領主はアンブロシウスから封魔局を追い出しました。

 それに成功したのは、今から約十五年前。

 アンブロシウスの守護者が台頭して五年後の事です。


 領主はそれはもう喜びました。

 領民たちに酒と娯楽を分け与え、

 皆でその喜びを共有したほどでした。

 それにより少々治安に問題も起きましたが、

 領主にとってそれは悩みの種ではありません。


 なにせ、彼には守護者が付いているのです。


 封魔局という治安維持組織が消えたあと、

 彼女は今まで以上に献身的になりました。

 全てはアンブロシウスを守るため。

 この街と、そこに住む人々を守るため。


 しかし、そんな自由と娯楽の街に脅威が迫ります。


 脅威の名は――『怠惰のサギト』。

 世界を壊すとされる滅びの予言。

 そこに名を連ねる七つの災害の一つです。

 まるで遊びにでも来たかのように、

 それはこの天空都市に乗り込んで来ました。


 領主と守護者は協力してその災害と戦いました。

 守護者は真正面から災害に立ち向かい、

 領主も私兵を使い守護者を援護しました。


 ですが、サギトが持つ権能の前には無力でした。


 怠惰のサギトが持つ恐るべき権能。

 その名を――『厭人(ベルフェゴール)()(プリズン)』。

 この権能は物理的、精神的問わず

 あらゆる攻撃から怠惰の覚醒者を守護する壁。

 そして、全ての攻撃を倍にして跳ね返す

 カウンター能力も有しているのです。


 怠惰のサギトに攻撃は一切届かず、

 逆に撃った攻撃は例外無く術者に返っていく。

 触らぬ神に祟りなし、とはよく言ったもの。

 まぁ、この祟り神は向こうから攻めて来たのですが。


 戦いは一日も経たずして終幕となりました。

 いえ、そもそも戦いと呼べるものでは無かったでしょう。

 怠惰のサギトに押し潰されるように、

 領主はあっという間に殺されてしまいました。 


 アンブロシウスから領主が消えました。


 そこから先は、守護者とサギトの一騎打ち。

 誰もがアンブロシウスの陥落を予見し、嘆きました。

 もう怠惰のサギトには勝てないと思ったのです。


 魔法連合に封魔局員の援軍を要請しましたが、

 街から追い出してしまった以上すぐには来れません。

 領民たちは犯した失態を自覚し嘆きました。


 そして、魔法連合もこれを好機と捉え

 アンブロシウスへ精鋭の大軍を送りました。


 時勢は戦争目前の超緊迫状態。

 もしここで、サギト討伐による武力の誇示と

 三大都市の支配体勢確立に成功する事が出来れば、

 連合から離脱しようとする都市の牽制になります。


 しかし、到着した封魔局員たちが

 目撃したのは想定とは全く異なる光景でした。

 そこにいたのは、守護者の前に倒れるサギト。


 そう、アンブロシウスの守護者は勝ったのです。


 この事件以降アンブロシウスの守護者は正しく、

 天空都市の守り神のように扱われました。


 …………大切なモノを失った代償として、ね?



 ――三日目・午前――


 アンブロシウスに滞在して三日目。

 朝霧とフィオナは今は亡き領主、

 その弟のもとに向かうためメインストリートを行く。

 マスターに伝えられた住所を頼りに歩を進めた。


「今日こそ何か手がかり掴もうね、フィオナ!」


「だな。昨日は結局、守護者周りの情報で

 これといった進展は無かったからな。」


 地図に目を向けたままフィオナは答えた。

 彼女は全力で朝霧に協力してくれている。

 その事に今更ながら感謝の念が湧いて出る。


「ありがとね、フィオナ。」


「んー。……ん? 何がだ?」


 地図を読むのに集中しすぎていたのか、

 フィオナはやや遅れて反応した。

 朝霧は笑顔をこぼしながら返事を返す。


「フッ、何でもなーい!」


「うん? それならいいが…………んーと?」


 フィオナは再び地図に目を戻し睨み付けた。


「どうしたの、フィオナ? まさか……迷って……?」


「いや、地図は読めるし方向も合ってるはずだ。

 はずなんだが…………んー?」


 フィオナはまた悩む。

 地図に従い、住所に従い、迷わず歩いていく。

 そして、ピタリとその足を止めた。


「ここ……のはずだ。」


 彼女たちが立ち止まった先には、

 他の建築とは正に一線を画す大きさの建物があった。


 建物自体が横に大きいのは勿論の事、

 その敷地と思われる庭園も巨大だった。

 行き届いた手入れのされた草に囲まれ、

 中央にはこれまた巨大な噴水が堂々と(そび)え立つ。


 朝霧にはこのような建造物に見覚えがあった。

 建材や造形、装飾品の配置などは全く違うが、

 この堂々たる雰囲気は、マランザードの領主邸だ。


「合ってるんじゃないの? 領主邸でしょ、ここ?」


「いや……見た目はそうなんだが……これを見てくれ。」


 そう言うとフィオナは地図を指差す。

 流石は魔法世界の地図と言うべきか、

 紙面上で座標や施設名などが流動していた。


 朝霧はその情報量の多さに面を喰らいながら、

 刺された地点の施設名を音読する。


「……『アンブロシウスリゾートホテル&カジノ』?」


 思わず、え?と素っ頓狂な声を上げてしまう。

 そんな朝霧に賛同するようにフィオナは頷く。


「そうなんだ……ここは領主邸じゃなく、()()()だ。」


 二人は巨大な建物を見つめて佇んだ。



 ――カジノホテル内部――


「オーナー。正門前に人が……」


「ホテルなのだから人くらい来るでしょう?

 報告は()()()()()()! ……同じか。」


 男は一人で笑う。

 金髪のロングヘアーに髭を蓄えた老人のような男。

 腰はまっすぐで目もキリッとしているが、

 その顔に張り付いたシワが苦労を語る。


「はい。それが……恐らく封魔局の人間です。」


「ハッ! 封魔局員だとしても問題は無いですよ?

 何一つ、ヤマシイ事はしていないのですから!」


 両手を広げ、オーナーはくるくる歩き回る。


「ですが! わざわざ報告して来たという事は

 相当マジな顔してやって来たと言う事ですな?

 なら()()()()()! 何も悪く無いけど面会拒否です!」

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